Ep. 158 三人揃えば大胆不敵❲ライト編①❳
少し前から、繰り返し同じ悪夢に魘されるようになった。
降りしきる雷雨と、磔の少女に向かい飛び交う罵声。視界もままならぬ豪雨の中で、消えない業火にその身体が包まれた。
駆け付けようにも
あまりに非情な最期に似合わず、『愛している』とだけ言い残した彼女の顔は、業火のせいで見えなかった。
決して知らぬ筈の、己の記憶ではない、喉が焼けるような後悔と自責の念を、
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魔導省。それは、長き歴史で失われたとされる聖霊の巫女時代の古式魔術を扱い、フェアリーテイル大陸において絶対である四大国王家にさえ裁きを下す権限を持つ特異な組織であり……。裁きの公平さの厳守や古式魔術の情報漏洩阻止の為、その本部の場所は各国の王さえ知らぬと言う。
「よし、では上層部への報告後、副隊長は数名隊から選抜しエリオット様に頼まれた件に当たれ。一番隊は私と共にジェラルド様の補佐、並びに島にて別任務に当たられているソレイユ殿とルーナ殿の連絡を待つ!」
「隊長!容疑者どもは如何なさいますか?」
「ジェラルド様より、3人は決して同室にさせるなとの厳命が下っている。魔封じを追加し、大地の皇子は最上階、風の皇子は地下へ。最も危険な炎の皇子は大罪人用の魔石牢へ放り込んでおけ」
「畏まりました!」
土の魔力を持つクォーツは大地から一番遠く、風に愛されたフライは封鎖された地下へ。
そしてライトは、島の中心部にある魔鉱石の柱で囲まれた特殊な牢へと入れられる事になり、乱雑に彼を魔石牢へ運ぶ兵士達が半ば悪態のような雑談を始める。
「はぁ……重いな。くそっ、無駄にいい服着てやがる。中坊の癖して体つきも良いし、王族様はさぞかし良い暮らししてんだろうなぁ」
「全くだ。男だがお綺麗な顔してるのがまた憎たらしい。女なら楽しめたものを……」
ぺちぺちとライトの頬を叩く同僚2人に、顔をしかめた眼鏡の隊員が注意を促す。
「おい、よせ。そいつはエリオット様の調査によれば、今回捕らえた3人の中で特段強大な魔力の持ち主。目を覚まされたら厄介だぞ」
「はっ!俺たちは大陸の秩序を影で導く魔導省だぞ、魔力の扱いなら貴族にだって引けを取らない。なんなら上回ってるくらいだ。こんな若造に臆する事無いだろ!」
ひときわ気の強そうな男の大口に、他の隊員からも声高に同意が上がる。それに気を良くしたのか、ライトを抱えていた気の強い隊員の口が更に大きくなった。
「それに、そもそも本部には罪人による襲撃等の対策で魔力妨害の波長な流れていて魔導省の職員以外この島で魔力を使うのは不可能。その上魔封じだってこれだけ着けてるんだぞ?」
男は、揺れただけで手首に傷がつきそうな厳つい手枷のついたライトの手首を揺らした。
「ひとつで高位魔導師が立ち上がれなくなるような代物を両手足あわせて四つ。それに加えて、学院で受けさせた魔力測定器の結果に応じて3人それぞれに特注で作り上げた専用魔封石のオマケつきと来た。魔力を使うどころか目覚めるのにだって数日はかかるだろうよ」
「そうだよなぁ。仮に起きたとしても、首さえ動かせるか怪しいぞ。にも関わらず牢へ入れるまでは必ず10名以上で監視しておけとは、上は一体何を考えているのか……」
「そこまで手を割く位ならば始末してしまえば良いものを」
「そうもいかないでしょう。エリオット様の計画には、聖霊王の神器が不可欠……。それを見つけるには、四大王家の直系が必要ですから。その為にわざわざ手間隙掛けてこの3人を捕らえたのですよ」
「そんな小難しい事は堅物どもに任せて置けばいいさ。もうじき、実力ある者だけが勝ち上がる社会がやってくるんだからな!」
外部の者に聞かれよう物なら即座に首が飛びかねないキナ臭い話をしながら、男達は気絶しているライトの身体を魔石牢へ放り込んだ……筈だった。
一瞬、周囲の空気が熱気で揺らぐ。次の瞬間、牢の扉を開いていた二人の隊員の身体が地面に崩れた。
「ーっ!?おい、どうした!」
「皇子が居ないぞ……うっ!」
異変に気付き残る8名が騒ぎ出すより早く、ライトは男達を手際よくのしていく。
三人は瞬きの間もなく背負い投げられ、また二人は首筋を叩かれ昏倒。装備していた魔石式の火炎放射機を向けてきた最後の一人の脳天に、宙で身を翻したライトの蹴りが炸裂した。
完全にのされた隊員達を軽々と牢の中に放り込めば、自動で閉まる魔封石の支柱。
「へぇ、勝手に閉まってくれんのか。こりゃ良いや」
「貴様っ……どうやって……!!」
「それ、お前達に説明してやる義理あるか?」
四肢につけられた魔封石の手枷を片手間に取り外し、最後にライトの魔力値に合わせた特注だと言う一際豪奢なそれも炭となって消えた。
格子越しに唖然とこちらを見ている魔導省の者達に向き直れば、一番最後に蹴りを入れた男が悔し紛れに格子に体当たりをかます。
「この餓鬼が……っ、我々は大陸唯一の司法を担う魔導省!王族さえ裁く権限を持つ組織の本部でこの様な暴挙、お覚悟は宜しいのでしょうな!!」
「急に敬語か?さっきまで悪態ついてたガラの悪さは何処やったんだよ」
そう鼻で笑ってやれば、隊員達から更に顔色が消えた。聞かれているとは思わなかったのだろう。
「まぁ良いや。
「……っ!?まさか……!」
誰かを捕らえると言うことは、時に己が捕らわれると同義だと知れ。
不敵に笑ったその顔に、彼等はようやく、利用されたのが己の方だったと悟る。
「“出し抜けた”って思ってたんだろ?残念だったな」
『あ、これ一枚貰ってくから』と、戦闘時に落下した魔導省のローブを羽織ったライトの姿が本部塔に消えるのを見送り、隊員達が悔しげに叫ぶ。
しかしその声は直前に魔石牢に展開された防音魔法に阻まれ、誰にも届くことはなかった。
~Ep. 158 三人揃えば大胆不敵❲ライト編①❳~
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