Ep.126 武器と魔力と王子様

 放課後。生徒会室で顔を合わせるなり私の首元で輝くさくら貝に目を止めたライトが、物珍しそうに口を開いた。


「フローラが学院に装飾品着けてくるなんて珍しいな。そのペンダントどうしたんだ?」


「えーと……。『たすけて』って誰かから訴えられる不思議な夢見て、起きたら持ってた!」


「成る程わからん。とりあえず一旦深呼吸して、順を追って説明してくれないか?」


 言われた通り1度落ち着いて、ペンダントを外して机に置く。

 エドガーはクラス会の為欠席。先輩2人はジェラルドさんと一緒に魔導省に臨時召集とのことなので、これ幸いと丁度揃っていたいつものメンバーにキャロルちゃんの持つ神具の事、今朝見た夢の内容。ハイネから聞いた伝承の簡略を順番に説明した。


「つまり、ハイネの言っていた絵本の話がリヴァーレの聖女の話を指し示していたと仮定して、キャロルちゃんの神具とこのさくら貝は対の物。そして何らかの理由でキャロルちゃんの方の貝殻に閉じ込められてしまった“誰か”が、自分を解放する為の鍵として私にこのさくら貝を貸してくれたのでは無いかと思うの。目が覚めたら掌の中にあったから、夕べの夢を通じて魔力を譲渡して私の手の中に顕現させたんじゃないかと思うのだけれど……」


「初めからちゃんとそう言えよ」


 全くと言わんばかりに頭を振って、ライトが指先で軽くさくら貝を弾く。


「ま、でも筋は通ってるっちゃ通ってるな。ハイネはリヴァーレ出身なのか?」


「それが、聞いてみたらはぐらかされちゃったのよね」


 まぁ、今日日他国の伝承にまつわる書物が遠い土地に渡っているのも珍しくないし、そもそも王室付きメイドであるハイネがミストラル以外の国の出自とは考えにくいから、単純に何か話しづらい事情があったのだろう。と、思うことにしておく。


「それでフローラ、今日の昼は図書館に行ってたんだね。どう?件の絵本は見つかった?」


 クォーツからの問いに首を振る。残念ながら収穫無し。なかなか進展しない事態にちょっとへこたれ気味だ。


「学院内で探してるから駄目なんじゃないか?絵本だろ?どこのジャンルにも専門家マニアってのは居るもんだ。リヴァーレ王国の歴史や、神々の伝承について……あとは聖霊関連もか?とにかく、その辺りを専門的に研究している者なら、何かしら手がかりを持ってるかもしれないぜ」


「ーっ!!」


「ライトにしてはいい所突くじゃない。僕も同感。どうせもうすぐ夏季休暇だし、国に帰ったら各々自国に該当者が居ないか調べてみようか」


「本当!?ありがとう、お願いします!」


 思わぬ形で一歩前進!安心したせいかお腹が空いてきた為みんなで食堂に出向く道中、成績発表板に先日の騎士科の模擬試合の結果が張り出されていた。


「あら、定期試験はまだですのに何か張り出されてますわね」


「先日騎士科の方で行われた模擬試合の対戦結果じゃないかしら。筆記への影響が少ないように少し早めの時期に行われているそうだから」


「まぁ……殿方の方の授業にはそんな催し物があるのですね」


「あれ?ルビーあんまり興味なさそうだね。てっきり真っ先にクォーツを探すかと思ったのに」


「探す間でもありませんわ。ライトお兄様とフライお兄様は別として、わたくしのお兄様がその辺りの殿方になど遅れを取るはずが御座いませんもの!」


 何の気なしに足を止めて、レインとルビーと3人で見慣れた名前を探す。三位がクォーツ、二位は知らない名前で、一位がフライ。成る程成る程、って……。


「ライトの名前が無いよ!!?」


 一位から五位までのそれを繰り返し確認し直してから改めて上げた叫びに、歩き進めていてだいぶ先に居た3人がさも何でもない様子で振り返った。


「そりゃ有るわけねーだろ、俺結局棄権したし」


「「「棄権!?」」」


 何故!?もしかして、あの時私とキャロルちゃんが乱入したせいで何かあったんじゃ……。


「……何考えてるか想像つくから言っとくが、別にお前のせいじゃないからな」


「読まれてる!?で、でもなら尚更どうして……」


「ただ単純に剣が壊れたからでしょ?もー、焦ってたからってあんな派手に魔力なんかまとわすから」


「うるせえな、ちょっと出力間違えたんだよ!」


 クォーツに小突かれ言い返したライトの様子を見ながら、レインとルビーと顔を見合わせる。結局どう言うこと?


「授業の時使う模擬剣ってひとつひとつ個人の名前が入っててさ、試合をしたときの勝敗や剣筋なんかが自動で記録される魔術がかかってて。成績の不正防止の為に騎士科での授業時はその剣以外では参加できない規則なんだよね」


 なので、試合直前で剣が破損したライトは必然的に棄権。不戦敗と言う形になってしまったのだそうだ。……って!


「やっぱ結局私のせいじゃん!わーっ、ライトごめんねーっ!!」


「あーもう、こうなるから言わないつもりで居たのに!」


「あはははっ、そんな落ち込まなくて大丈夫だって。あんな試合の結果以前にこの人どのみちぶっちぎりでトップなんだから」


 ライトに謝り倒す私をさっとなだめながら、クォーツがあっけらかんと話を進める。


「鍛錬場の二階は水分補給とかに使う休憩所みたいな扱いなんだけど、模擬試合の日3人で下の様子見ながら話してたら急に女の子が入ってきて戸惑ってたら、更にフローラまでその子に駆け寄って来たでしょ?だから僕達びっくりしちゃって」


「その上本番前で気が立ってる奴等の近くまで丸腰で行くなんて危険極まりない。そう思っていたら案の定、君に向かってどこかの馬鹿の魔術が飛んでいくのを目にしたって訳さ」


 ライトがどこからともなく現れて助けてくれたあの件である。そうか、上に居たのか。納得です。


「あっ、もちろん僕らもすぐ助けに行こうとはしてたからね!?ただ……」


「「ライトの行動が速すぎて…………」」


 遠い目で声を揃えたフライとクォーツに対し、ライトがしれっと答える。


「あぁ、最短ルートで行ったからな」


「飛び降りただけでしょ。普通は死ぬよ、馬鹿なの?」


「そうだよ!右見て左みたら居なくてこっちはびっくりしたんだからね!?」


「声かけてる余裕がなかったんだよ。悪かったって」


「お話はわかりましたけど……、その助けに入った際にライト様の模擬剣が破損してしまったんですか?学院の用意した物ならそれなりに質の良い物だったんじゃ……」


 控えめに質問したレインに対しクォーツが答えた内容からわかったけど、あの時私達に飛んできてた大岩はかなりのサイズで、あの距離で模擬剣だけで砕くと周りにも被害が出てしまいそうだったと。そこでライトは単純に魔術を弾き返すだけでなく、模擬剣の威力を高めて大岩を完全に破壊する為、刃に自分の魔力で炎をまとわせて居たのだそうだ。私はキャロルちゃん抱き締めてて見てなかったけど。


「もちろんレインの予想通り、配布されてる模擬剣もきちんとした鍛冶場から正式に仕入れてる良質なものだよ。ただね、武器に携わる機会がない女の子達には馴染みがないから知らないだろうけど、魔力を宿らせて戦えるような武器は、剣に限らず未だに開発途上の段階なんだよね」


「えっ!?でも前にフェニックスのお祭りでやってた剣術大会の時は、炎や風の剣で戦ってる人居たよね?」


「だからクォーツが“開発”と言ったでしょう。金属の加工技術がかなり向上してきて、最近では多少の魔力までなら普通に籠めても扱える武器は市場に出回り始めている。ただそれは、あくまで一般的な魔力値の人が扱う場合の話」


 つまり、“端から魔力量が桁外れな僕らが使うには、まだまだ武器の方が弱いんだよね”と言うことですか。そうですか……。


「まあ、これだけ技術が発達してきても難しいとなると、あとは素材の問題なのかもな」


 ライトが最後にそう締めくくって、この話はおしまい。色々勉強になりました。


    ~Ep.126 武器と魔力と王子様~





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