Ep.113 新学期は波乱の予感
「中等科進学おめでとーっ!!」
クラッカーの音を合図に、お手製のケーキの前に座ったルビーが立ち上がってペコリと頭を下げる。
「ありがとうございますフローラお姉様、お兄様、それに皆様も。本日より
「ルビーが、あの落ち着きがなかった子がこんなに立派になって……!」
「クォーツったら、何父親みたいなこと言ってるのよ。さぁ、ハンカチをどうぞ」
「ごめん、感極まっちゃって……。ありがとうレイン」
はい、そんな訳で怒涛の一年が過ぎ去りまして、季節は巡りまた春が来て。私達は無事、中学二年生になりました!
「いやぁよかった、一人でもメンバーが増えてくれて本っっっ当に良かった……!」
ルビーの進学に一番喜んでいるのはもちろんクォーツだろうけど、その次に心底彼女の中等科入りを歓迎している人が一人。言わずもがな、この一年間会長として腐敗しきっていた生徒会組織を立て直すのに尽力したライト会長その人である。本っっ当にお疲れ様でした……!
※ただし、次の適任者が居ないため会長の席はそのままライトのものですが。
「何つーかあれだよな、寝なければギリギリこなせてしまう量の仕事だったのがいけないんだよな。いっそ『無理!』って断言出来る量だったなら俺だって……あぁ、寝不足で頭いてぇ」
「ライトそれ社畜の考え方!もう、今日は入学式進行と新役員の顔合わせ以外業務無いから寝て、何なら膝貸すから今すぐ寝て!!」
「“社畜”って何?」
「さあ、
「はぁ!!?ゲホッ……何バカなこと言ってるの!?」
「いや、気持ちはありがたいが、どうせ寝てもまた魘されるだけで休んだ気しねえから遠慮しとくわ……」
「ライトそれ絶対ちゃんと病院行った方がいいよーっ!」
ソファに座ってダイエットの成果でちょっと細くなった自分の太ももを叩きながら言うと、なぜかライトじゃなくフライが飲みかけてた紅茶で咳き込んだ。気管にでも入ったかな?
「……失礼。でも、結局新たに生徒会入りするのは結局ルビーひとりなの?新入生の中には他にも優秀な人材が居たでしょう」
「ああ、それなんだけどさ……ん?」
ひとつ咳払いをして気を取り直したフライが入学式で読み上げた新入生の名簿を捲りながら問いかけるのと同時に生徒会室の扉がけたたましくノックされた。一瞬皆と顔を見合わせてからライトが扉に『入れ』と答える。
「会長、失礼いたします」
「キールか。どうした?」
ライトの返事に食い気味で駆け込んで、学内の風紀の取り締まり役として新たに出来た組織である“風紀隊”の腕章を付け髪も制服も乱れたボロボロの姿のキール君が報告する。
「生徒による有志の課外活動の勧誘が過激化しておりまして、風紀隊のみでは対応が間に合いません。申し訳ございませんが生徒会の皆様にも少し見回りをして頂けませんでしょうか?」
“有志の課外活動”とは、すなわち現代日本で言う“部活動”だ。キール君の今の姿からも、かなり大変な状況がわかる。
フライと互いに顔を見合わせてから肩を竦めてフッと笑ったライトが、生徒名簿を片手に立ち上がった。
「話の続きは歩きながらにしようか。全員行くぞ、新生中等科生徒会の初仕事だ」
『付け焼き刃に立ち上げた集まりにも関わらずよくやってくれてる、謝らなくていい』とキール君にもフォローを入れて歩き出したライトの背中を追いかけ、皆もこの場を後にする。
「ルビーどうしたの?皆行っちゃうよ」
「ーっ!はい、今参りますわ!」
最後まで生徒会室に残って窓を凝視していたルビーも連れて、校内パトロールにいざ出発!
「今、窓の外に人影が見えたような……。気のせいですわよね?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
風紀隊は校内の課外活動の方を見回りしているそうなので、私達はグラウンドや鍛練場などの外を主体に活動しているグループの見回りに行くことにした。
今の所問題になるような過激な勧誘は見てないけど、外活動は運動や武術が主体のグループが多いのでとっても賑やかだ。
「で?まずはどこから見回るつもりだい?会長」
「決まってる、鍛練場だ」
「げー、ってことは魔剣術開発研究会でしょ?あそこ去年僕らも声かけられたけどしつこさが尋常じゃなくてうんざりしたんだよね」
「仕方がないだろう。一番問題を起こしそうな箇所から釘を刺すべきだ。行くぞ」
がっくりと肩を落としつつもクォーツもフライもライトについていく。そんなに厄介な部活動なのだろうか?
「どんな活動をしてる人達なの?」
「あぁ、簡単に言えば魔力を武器に直接まとわせた戦い方を研究している未来の騎士候補の集まりだ」
「おぉ、なんか凄そうだね!」
この世界の武器は機能は高いが魔力耐性が弱く、直接武器に魔力を注ぐと武器の方が壊れてしまうのが普通だ。もしそこを打開出来たら大層な功績だ。
「何がすごい物か。研究なんて名ばかりで、実際は互いに手合わせばかりしている戦闘狂ばかりだよ」
心底うんざりしたフライの声に、ライトとクォーツも苦笑を浮かべる。やばいやばいやばい、3人とも目が死んでる!は、話を逸らさないと……!
「そ、そうだ!そういえば、結局生徒会の新役員の話はどうなったの?」
「あぁ、その話か……。それがさぁ、よくわからないんだよな」
そのライトの言葉に全員が首を傾げた。生徒会絡みの事項は学院側から会長であるライトにきちんと通達されてる筈なのに、わからないとはこれ如何に。
「わからないって何さ。トップである君がしっかりしてくれないと僕らも困るんだけど」
「そんな刺のある言い方すんなよ……。まぁ結論から言えば今年から新しく生徒会に加わる生徒は全部で3人だ。もう資料も貰ってる」
「何だ、じゃあ何も難しくないじゃない」
クォーツはそう言うが、ライトの表情は怪訝そうなままだ。
「それがな……ルビー以外のその二人。どうにも3年生みたいなんだよ」
「3年生!?」
「何で!?先輩じゃん!去年まで適合者が居ないからって僕らが一年間こき使われたのは何だったの!!」
「気持ちはわかるが落ち着け!」
ヒートアップするクォーツをファイルでポカッとライトが叩いた辺りで、風に乗って剣や魔法のぶつかり合う音が聞こえてきた。さっき言っていた課外活動のグループの居るエリアがもう近いみたい。
「会長に就任した時に中等科に所属していた学生の名前と顔は全て覚えたが、今回貰った新メンバーの二人の名はその中には無かった」
「じゃあ、その先輩2人は転入生ってこと?」
「あぁ、そうなる……な!?」
話がようやくまとまってきたその瞬間、今正に私たちが見回りに入ろうとしていた鍛練場の扉が盛大に爆発した。先頭に立っていたライトがいち早く反応して剣を抜き飛んできた魔術と武器を弾き返し、フライが細かい瓦礫や土煙を吹き飛ばす。クォーツはちゃっかりゴーレムを呼び出してさっさと壊れた扉を直していた。
「へぇ、今のに巻き込まれて無傷かぁ。やるじゃん、王子サマ達」
「おい止めろ、相手は王族だ。無礼だぞ」
土煙が晴れたその先で、白と黒のローブの人影が揺れる。白銀の髪の中性的な美男子と、漆黒の髪の色香溢れる色男が立ち並ぶ姿は美しく、一枚のスチルを見ているみたいだ。……けど。
(こんなキラキラのイケメンさん、このゲームには居なかったよね?)
「……噂の編入生か」
首を傾ぐ私の隣で険しい顔をしたライトがそう呟けば、黒ローブの方の男性が面白そうに怪しく笑う。
「流石は会長、話が早いね。どう?初めましての挨拶兼ねて、ひとつ手合わせしてみない?」
~Ep.113 新学期は波乱の予感~
『新たなイケメン登場で、どうなる!?どうする?新学期!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます