Ep.111 このフラグ、行き着く先は破滅?それとも……

 前略、私の能力値を調べに来てくれた魔法省の魔導師さんが、帰り際にどえらい爆弾を落として行かれました。


「どういう事かちゃんと説明して!」


 ジェラルドさんが帰った直後、『たまには気晴らしにお茶でもどうかね』と言う学院長の一声で久しぶりに足を踏み入れた空中庭園で、私は一枚の羊皮紙片手にフライに詰め寄った。


「説明も何もその書状の通りさ。『“聖霊の巫女”の心身の安全と、彼女の干渉による四大国の政治的な力量差の乱れを防ぐべく、フローラ・ミストラル王女を各国の王太子の婚約者とする』ってちゃんと書いてあるでしょう?」


 ちなみに、この場合の“各国の王太子”とは言わずもがなライト、フライ、クォーツの三人のことである。全く知らない人じゃなくて良かったじゃないかって?それが寧ろ、こんなに焦ってるんですよ!


「だから何がどうして突然そんな話になるのーっ!」


 バタバタ腕を振り回しながら抗議するけど、フライの右手に額をぐーっと押さえつけられてるせいで腕が彼に当たらない。リーチの差が悔しい。ってそんな場合ではなくて!


「男三人に女一人な時点でまずおかしいでしょ!?」


「あのね、今の君の影響力の強さがまだわからないの?世界のことわりさえ揺らし兼ねない聖霊の巫女がこの若さでひとつの国に嫁いでごらん、数百年均衡を保ってきた四大国の政力バランスは一瞬で崩れてしまうよ」


 しれっとティーカップをソーサーに戻したフライの言葉に押し黙った。なるほど、それならまぁ、3対1と言う異例の婚約形式を各国の王家が受け入れたことも納得出来ないではないけれど。でも!この3対1形式な奇妙な婚約の仕方!ゲームのシナリオでの悪役王女フローラ攻略対象あなた達との関係と全く一緒なんだからね!?


「まあまあ、突然で驚いたのはわかるけど、遅かれ早かれ年の近い王族同士がこれだけ仲良くしてたらこう言う話が出ることは想像がついてた訳だし。条件としても『高等科の卒業式をもってどの相手に嫁ぐか巫女自身に選ばせる事とする』ってなってるから本当に結婚するかしないかの選択権もフローラにあるんだから、そんな慌てなくても大丈夫なんじゃないかなぁ?」


 おっとりまったりした口調のクォーツに諭されるとつい頷きたくなっちゃうけど駄目よ、流されるな私!すっかり平和ボケしてたけど忘れるなかれ、私は本来なのだ!メインヒーロー含む攻略対象達一人占めなんて破滅フラグまっしぐらですよ!?


「うー……で、でもやっぱり、駄目なの!!じゃないと破滅フラグが……!」


「ーっ!……お前、俺が何度か婚約申し出たときも頑なに“嫌”じゃなくて“駄目”っつってたけどさ、一体何が駄目だってんだよ」


 一瞬カチンときたように眉をひそめたライトが呆れ顔でため息混じりに言う。


「い、いや、それは言えないけど、……とにかくダメなものはダメなの!良くない事が起きるから!!」


「だーかーらーっ!何がどう駄目なのか理由を言えっての!一体俺らとお前が婚約したから何が起きるってんだよ具体的に言ってみろ!」


「み、ミストラルが滅ぶ……」


「「「そんなことある!?」」」


 学院長の誘いで興じていたトランプの手を止めた幼馴染み(兼認めてないけど婚約者)の三人の声が重なって返って来て慌てて口元を押さえる。

 

(しまった、ライトの目力と勢いに任せてつい答えちゃった……!)


「はぁぁ……、なんだそりゃ。聞いて損した」


「本当だよ。第一、この婚約は国を言わば不可侵条約だ。それで何でよりによってミストラルが滅ぶなんて話になるのさ」


「フローラ、巫女としての仕事で疲れてるんじゃない?ちゃんと休んだ方がいいよ」


 焦る私とは裏腹に、心底気の抜けた様子で 皆が笑う。そりゃこんな突拍子もない話、普通信じませんよねー……知ってた。知ってたけども……!


「理由はどうしても話せないけど、私だけは皆の婚約者になっちゃ駄目なんだったら!それに私を婚約者にしちゃったら、皆がいつか本気で恋をした時にその人に気持ちだって伝えられなくなっちゃうんだよ!それでもいいの!?……きゃっ!」


 そう叫んだ瞬間、ガンっと乱暴に椅子が蹴り倒される音がした。びっくりして固まる私を見据え、蹴り飛ばした椅子を横目に微笑んだフライが立ち上がる。でも目が一切笑ってない、怖い。


「さっきから黙って聞いていれば、婚約は駄目だの破滅がどうだのし国が滅ぶだの、しまいには僕らが恋をした時に自分の存在が邪魔になるだの……。そんな話、天啓で未来予知でも与えられていない限りただの妄想だろ?馬鹿馬鹿しい。第一僕言ったよね?」


「へ?な、何を……?」


「君がチャールズに狙われたあの日、『これ以上君が馬鹿な男共に狙われないよう手は打つから、代わりにように』って」


「あっ……!」


 そう言えば、そんな約束をしたような気がする。時計台の方の話で頭が一杯ですっかり忘れてたけど!


「わかったなら素直に受け入れて黙ってくれないかな?じゃないとその可愛い唇、いい加減塞ぐよ?」


「……っ!?」


 怪しい微笑で頬をツツッと滑ったフライの指先に軽くあごを持ち上げられて、一瞬頭が真っ白になる。


 唇を塞ぐ→声を出せなくする→口封じ→つまり……!


「い、息の根を止められる……!」


「……は?」


 カタカタ震えながらたどり着いた結論を呟いた瞬間、フライがガクッとずっこけた。と、同時に私の身体が誰かに引っ張られてフライから引き剥がされる。


「お前っ……なんってこと言うんだ!見ろ、フローラの奴こんな震えちまって、可哀想に……!」


 私を自分の背に隠すように駆け込んできてくれたライトの腕にしがみついてコクコクと頷く。


 話はわかりました、うるさくしてごめんなさい、破滅フラグは卒業までに回避方を考えますからもう今は文句言いません。だから殺さないで!


「あー……今のはきっとそう言う意味じゃなかっただろうに。全く鈍感コンビなんだから。フライ可哀想」


「婚約は受け入れるけど、私みんなの恋路を全く邪魔する気は無いから!誰か好きな子が出来たらすぐ言ってね、全面的に応援するよ!!」


 ビシッと、ライトとフライの表情にヒビが入った気がしたのは気のせいじゃないだろうが、フローラは全く気づかない。


 もちろん、ポソッと溢されたクォーツの同情と、曇りない眼で両手を握りしめてくるフローラの態度が返ってフライの傷口に塩を塗ったことにも。





「~~っとにかく!誰が何と言おうが今日から学院を卒業するまで君は僕達の婚約者なんだからね!」


 とにもかくにも、そのフライの一言と共に叩きつけられた書状には、ばっちりお父様ミストラル国王の捺印付で私と彼等の婚約を認める旨が書き記されて居る訳で。


 ヒロインも退場して一安心の筈だった中等科で、私はまたしても思わぬフラグを立ててしまったようです。


    ~Ep.111 このフラグ、行き着く先は破滅?それとも……~


『うわーんっ、卒業式で大々的に断罪されて牢獄で自害なんて嫌だよーっ!』


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