Ep.26 小学生男子の特権

 翌日は、正に夏!!って感じの快晴だった。


 ミストラルは水の国だけあって、ビーチはハワイ並みに綺麗だ。


 砂はサラサラで真っ白だし、海は本当に鮮やかなマリンブルー。


 空も高く、青く澄み渡っていて、海の違った青と砂浜の白とのコントラストが美しい。




 でも……






「ふっ、フローラ、どうしたの?」






 そんな爽やかな空気に似つかわしくない人が、一人居たりする。


 そう、私だ。






「フローラー……っ、て言うか何で水着の上にワンピース着てるの?」


「……体のラインを隠すためよ。」


「えっ?」


「レイン、ちょっと聞いてくれる!?」



 実は昨日のパーティーの夜の部で、比較的鍛えられて強くなっている筈の私の心を抉るある事件が起こったのだ。


























 ―――――――――


 夕べ、ミストラルの城のガーデンには夕闇の中ワルツが流れ出した


 私はもちろん物心ついた時から社交ダンスは当然習っていたけど、こうして同世代の子が来るパーティーは初めてなので実際に踊るのは初めてだ。

 もちろん、お相手を探して声をかけるなんてもっての他。


「――……」


 そんな訳で、主役である筈の私はワルツが始まってしばらくしても壁の花状態なのである。


「はぁ……」


「フローラ様、お一人ですか?」


「ーっ!フェザー様……。えぇ、残念ながら一人ですわね」


 そんな中、ワルツが二曲目に差し掛かった頃、フェザー皇子が飲み物を片手に私の方にやって来た。

 片手に持っていたグラスを私に差し出してくれたので、それを受け取り鮮やかなオレンジ色のジュースを口にした。

 あぁ、柑橘系フルーツのミックスジュースだ、美味しい。


「ありがとうございます、フェザー様」


「いえいえ。ただ、お礼を頂けるなら是非一曲お相手頂けますか?」


「ーっ!」


 なんと、まさかのお誘いが来た!


 しかも私が恥をかかないように“お礼”と言う名目で然り気無く誘ってくれるとは……なんて出来た王子様なんだろう。


「……では、是非お相手させて頂きますわ」


「えぇ、では参りましょう」


 フェザー皇子が優しく微笑み、私の手を取ってワルツの輪の中へとエスコートしてくれる。

 結果として、最初の相手がフェザー皇子でよかった。

 年上の余裕なのか、まだ躍り慣れていなくて足元がおぼつかない時がある私を、慌てずに余裕を保ったままリードしてくれる。


 よく少女マンガのダンスシーンなんかでありがちの、“王子様の足を踏んでしまう”なんてお約束もやったのに、フェザー皇子は『気にしなくていいからね』と笑ってくれた。

 その笑顔を見て、『お兄ちゃん(上兄弟)も良いなぁ……』と思ったのは内緒だ。


「ありがとうございました、フェザー様」


「いえいえ、とてもお上手でしたよ」


「いえ、まだまだ拙くてお恥ずかしい限りですわ……」


 一曲躍り終えて輪から一旦外れて談笑していたら、不意に後ろから誰かが吹き出す声がした。

 しかも数人分。


「……クォーツ様、フライ様、ライト様、今……笑いましたわね?」


 振り返れば、そこに三ヶ国の王子達がにこやかに立っていた。

 何よ、生暖かい視線してんじゃないわよ。


 貴方達なんか三人並ぶと瞳の色が信号機なんだから!……なんて意味不明な抗議をしつつも、彼らに負けじと私も微笑んで見せた。


「フローラ様、よろしければ僕とも一曲いかがでしょうか?」


「えぇ、もちろんお相手させて頂きますわ、クォーツ様」


 ひとしきり肩を震わせた三人の中から、まずクォーツ皇子が一歩踏み出して私の手を取った。

 どうやら、一応皆私と躍りに来てくれたらしい。

 自分が主役のパーティーはほったらかされない安心感があっていいね。


 逆に今後普通にパーティーに参加した時が恐ろしいけど!


 そんなことを考えつつクォーツ皇子と躍り、フライ皇子と躍り、最後にライト皇子のリードで踊る流れになった。


 ……何故ライト皇子がトリなんだ。

 そこの“進め”と“一時停止”、ニヤニヤするな!

 ただ、リードは同い年の王子達の中で一番上手かった。


 なんだろうこの敗北感……!


「……おい、なんだその目は」


「いいえ、何でもございませんわ」


「あっそ」


 ダンス中は周りとそれなりに距離があるのと生演奏の音楽にある程度声がかき消されるからかライト皇子が素で話しかけてきた。

 なんかもう、私に対して外面作る気はないのね?まぁこちらもそうだから、お互い様ではあるけれど。


「あぁそうだ、この間ルビーとケーキ作ったらしいな」


「え?えぇ、まぁ……」


 何でライト皇子が知ってるんだろ?あ、クォーツ皇子が話したのかな。


「この間も大量のクッキー作ってたけど、お前いつも余ったぶんは自分で食べてるのか?」


「……えぇ、手作りはそこまで保存がききませんし、急いで食べてますわね」


 当たり障りなく、でも正直にそう答えればライト皇子が私を頭から爪先まで見た。

 な、何よ、夏休み入ってから毎日縄跳びとストレッチとスイミングやってたからそれなりに引き締まってるのよ!……多分。

 この年齢の頃にたくさん運動して代謝を良くしておくと、脂肪が燃焼されやすい太りにくい身体になるんだから!


「ほらライト様、一曲終わりましたわ。戻りましょう」


 ライト皇子の不躾な視線から逃れるために、躍り終わるなりそそくさと手を離して背を向ける。


「ちょっと待て」


「ーっ!?」




 しかし、逃亡は失敗に終わった。

 ライト皇子が私の腰に腕を回して抱き寄せてきたのだ。綺麗な横顔が不意打ちで間近に来たせいで、不覚にもドキッとしてしまう。

 緊張を誤魔化しきれずに、震える声で話しかけた。


「な、なんでしょう……」


「――……」


 強い光の宿る赤い瞳に真っ直ぐ見つめられると、更にどぎまぎしてしまう。

 何だろ、足踏んだりはしてない筈なのに……。


「……お前さ」


「は、はい……」


 と、腰に回ったままのライト皇子の手がゆっくりと動いたかと思ったら……“ふにっ”と、私のお腹の辺りをつまんだ。


「え……っ、え!?」


「いくらお前が作った菓子が旨いからって食べ過ぎるなよ。ドレスや水着は体系誤魔化せないから、気を付けた方が良い」


 そう言って満足気に去っていく彼を横目に、私は石になった。『ドレスや水着は体系誤魔化せないから、気を付けた方が良い』、ですってぇぇぇ……!?


「ふざけないでよ!あのセクハラ赤信号め、子供だからって信じられない!!!」


 お嫁にいけなくなったらどうしてくれるの!!?









 ―――――――――

「……と、言うわけなのよ……!」


 そんなこんなで、夕べの出来事を私は涙ながらにレインに話した。

 昨日のパーティーには参加しなかったレインは、誕生日プレゼントとして今日合流する際に持ってきてくれたふわっふわのタオルで私の身体を包んでくれる。

 あぁ、優しさが疲弊した心に染みるよ……。


「そ、それは紳士であるべき王子様としてはちょっとよろしくないね」


「“ちょっと”どころじゃないよ……!」


 普通に触るか、しかもパーティーの場で!!

 幸い他のお客様方には気づかれて無かったみたいだけど、ライト皇子が戻るのを待っていたフライ皇子にだけはバッチリ見られていたらしく、私はあの時初めてフライ皇子が声を出して笑っている姿を見た。


 人の笑顔は好きだけど出来ればそう言う笑いは見たくなかったよ!!


「まぁまぁ、落ち着いて?皆さんビーチで待ってるし、早く行って差し上げないと……」


 レインのその言葉に、少し身を乗り出して別荘のテラスからビーチを見下ろす。


 そこでは、用意しておいた水着を身につけ、パラソルの下で談笑しているフェザー皇子とルビー王女、そして三色信号機達の姿が。

 ……いや、クォーツ皇子まで一緒にしちゃ可哀想か、ごめんよ。


「はぁ……。仕方ない、行こっか。折角の夏だし楽しまなきゃね!」


「うん!」


「……でも、私あの人達の前じゃ是っっっ対泳がないから!」


 怒り狂う私の暑さが嫌だったのか、いつの間にかレインは数歩離れた所から『がんばれ~』と手を振っていた。


 その『がんばれ』は『頑張って痩せてね』って意味じゃないよね?


    ~Ep.26  小学生男子の行動~


『こうなったら、運動週間は学校始まってからも続けて見返してやるんだから……!』


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