Ep.22 格好だって大事です

 翌日の放課後、私は早速生徒会室まで来て扉を叩いた。


「おっかしいなぁ、まだ授業中なのかしら……?」


 生徒会室は、初等科校舎の三階の端にあり、資料室や職員室からちょっと遠い不便な位置だ。

 だから、周りの人に聞こうにも、そもそも人自体居ない。



 ――……うん、まるでいない。 今日うちのクラス終わるの早かったからなぁ。

 流石に、最近何かと悪目立ちしている私が直に上級生であるフェザー皇子のクラスに行くわけにもいかないし、この状況で最善の選択は……


「……こっちしかないわよね」


 四年生になってから、途中入学の生徒が増えて組分けが四クラスに増えている。 そして今私が尋ねているクラスは、四年三組。


 風の国“スプリング”の第二皇子であらせられる、フライ皇子のクラスだ。

 ちなみにどうでもいい余談だけど、本来のスプリングの謳い文句は『春風薫る華やかな国“スプリング”』らしい。

 他国のキャッチフレーズはどんなだったっけ?

 うーん、それにしても……


「スプリングも季節の変わる国なのに“春風”って特定しちゃっていいのかしら……?」


「いきなり他国の批判ですか?ご挨拶ですね」


「きゃっ!?」


 何の気なしに呟いちゃったのに、その独り言に後ろから返事が返される。

 どうしよう、思わぬヒントに高まったテンションのまま会いに来ちゃったけど、やっぱり顔合わせづらい!!って言うより恐い!!!


 でも、悲鳴をあげてしまった手前『気づきませんでした』で誤魔化して逃げることも出来ない。

 ……ので、ぎこちななーく振り返る。


「ご、ごきげんようフライ様」


 仕方なしに振り向いた私は、何とか微笑を浮かべて“彼”と向き直った。


「こんにちわ。僕に何かご用ですか?」


「えぇ、少々お尋ねしたいことが……」


「フライ!早く行……、ん?」


 と、話を切り出そうとしたまさにそのタイミングで被せられた声。

 人の言葉は遮っちゃ駄目よ~と思いつつフライ皇子に向けていた視線を少しだけあげると、そこには何故か虫メガネを片手にワクワクした様子のライト皇子が居た。


 ――……虫メガネ?


「……お二人とも、挨拶はよろしいのですか?」

 お互い相手の存在に気づき固まっていた私達の間で、フライ皇子が少々気まずそうに声を上げる。

 あ、うん、ごめんね。ガン見しあってる人たちの間に突っ立ってるとか何この見せ物って感じだもんね。

 フライ皇子なら顔立ちが整ってるから彫刻にしても良さげ……、あ、ごめんなさいごめんなさい。


 嘘です、失礼なことは考えてないからそんな裏しかない笑顔を向けないでください。


「ご無沙汰しております、ライト様」


「あぁ。……最近は周りは落ち着いてるか?」


「えぇ、お陰様で」


 微笑みながら頷くと、何故かライト皇子はちょっと不満そうな顔をした。どうした?しかもそんな大荷物で。


「ところでフライ様、今から少々お時間頂けませんか?」


「ーっ!僕……ですか?」


「急ぎの用ですか?僕もフライと話があるのですが。」


 えー……、いや、お兄さんの居場所聞くだけだからすぐ済むしちょっと待っててよ。


「すぐ済みますから、少々お待ちいただけないでしょうか?」


「……まぁ、いいでしょう」


 下手に出て聞いたら、意外と人がいいライト皇子はしぶしぶ頷いた。

 よし。ついでに、さっきから無性に気になってる点に突っ込んでも良いかしら。


「ところでライト様」


「……何だ?」


「その、お手に持っている物は……?」


「――……水の都“ミストラル”の姫君は、虫メガネもご存知無いのでしょうか?」


 いや、それは知ってるよ!

 何で一国の王子様がいくら学校だからって片手にそんな昔ながらの虫メガネ持って歩き回ってるのかを聞いてるの!!


「……捜査には必要不可欠だろう」


「はい?」


 ライト皇子が私の視線から目を逸らしてそう呟く。

 『捜査』……?

 『捜査』って、何の?


 そして、その虫メガネは探偵にでもなったつもりだったのか。まさかそのカバンからチラッと見えてるチェックの布は、探偵用のベレー帽じゃ……。


「ライトは推理ものの本などが好きなので、最近起きている騒ぎを解決しようと張り切っているみたいですよ」


「あら、そうなんですの?」


 『捜査』ってその件か! じゃあ私も思いっきり当事者だね、内心で引いててごめん!!


「――……あぁ。もしかして、フローラ様もその件でいらしたのですか?」


 目を見開いて驚いていた私を見て、フライ皇子がニッコリとそう言った。

 いや、貴方は知ってる筈でしょうが。

 この間生徒会室で会ってちょっと話したんだし。

 そして、フライ皇子の言葉にライト皇子がガシッと私の肩を掴んだ。


「フローラ!……様、さあ参りましょうか?」


「え、えぇ……!?」


「その“手がかり”について、俺が聞いてや……じゃない。僕がお聞きしましょう。さぁ!」


 ライト皇子意外と熱血タイプなのか!?この間の落ち着いた雰囲気から一転。キラキラした眼差しのライト皇子に引っ張られる私なのでした。









 ―――――――――


「あ、あの、ここって……」


「第二音楽室だ。ここならば邪魔も入らない」


 こんな部屋あったんだ……、確かに使われてる感がまるで無いね。ピアノのカバーも埃被っちゃってる。

 そしてここに入るなり、ライト皇子の口調が普通に小学生男子の口調になった。


 まだ子供なのに、人目があるときには口調変えて礼儀作法とか頑張ってるんだなぁ……。


「……何だ?じろじろと不躾な」


「あら、失礼致しました。何でもございませんわ」


 と答えつつ思う。あのチェック柄の布……やっぱり探偵服だったのかと。

 いつの間にかカバンから出したチェックのケープ(?)を羽織り帽子を被ったライト皇子は、さっきから持っていた虫メガネ越しに私を見ていた。

 そんな遠くからレンズ通して見たってボヤけちゃって見えないでしょうに。


「それで、フローラ様が得た手がかりと言うのは?」


「あ、実は、お気を悪くしないで聞いて頂きたいのですが………」


 名門校の制服の上にチェックのケープと帽子を身につけた異様な格好の友を他所に、フライ皇子が私の座る椅子を引きながらそう聞いてきた。

 紳士だなぁ……と思いつつ、私は昨日ブランから聞いた話を伝え、証拠である切られた花を二人に見せる。

 うーん、でも考えてみたら、風の国の王子様に『犯人は風使いです』って言うってかなり失礼だよね。

 怒らせちゃったらどうしよう……。と、思いきや。


「……まぁ、そうでしょうね」


「えっ……!?」


「フライ、何か知っていたのか?」


 ライト皇子が驚いたようにフライ皇子に虫メガネを向けた。

 ――……それ(虫メガネ)、必要あるかい?


「僕と兄様の調べでも、我が国から来ている生徒の仕業の可能性は出てきていたんだよ」


「そうだったのですか!?」


 私はルビー王女と散々調べて、ブランのヒントでようやくたどり着いたヒントだったのに!?流石優秀だと他国にまで名前を知られているスプリング兄弟だ。


 しかも、なんとフェザー皇子には犯人の目星までついていて、今“平和解決のお話し合い”に行ってくれているらしい。

 なんか語感が気になるけど、仕事早いなぁ……。


「だから、もう大丈夫ですよフローラ様」


「はい……、ありがとうございます。」


 なんか、結局私何も出来てないけど……解決するなら良いよ……ね?


「――……で、ライト、君は何を拗ねてるんだい?」


「え……?」


 と、無理矢理納得していたらフライ皇子がライト皇子の方を見て苦笑いをした。私も見てみると、イライラした様子で虫メガネを振り回すライト皇子がそこに居る。


「――……せっかく縫わせたのに、意味が無くなったじゃないか」


「あらぁ……」


 せっかく探偵ルックになったのに、活躍の場なく事件が解決しそうで拗ねてるのか。

 子供だなぁ……って子供か。まだ9才だわ。

 結局膨れっ面のライト皇子はフライ皇子に自分の探偵への思いの丈を語り尽くしてから、ちらと私を見て一瞬、笑った。『良かったな』と。


(怖い子だと思ってたけど、優しい子達なんだな……)


 ゲームとしての知識だけで、彼等の性格を知った気になってはならない。そう反省するきっかけとなる出来事だった。


 ~Ep.22  格好だって大事です~


『事件の真実はひとつでも、心はひとつじゃないのです』






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