Ep.7  名前にちなんで

 「はぁ……。」


 せっかくの快晴ですが、私の気分はあの青空より遥かにブルーです。何故かと問われると、それは昨日先生にお呼びだしされて出された課題のせいだったりする。


「失礼致します、フローラ・ミストラルです」


「あぁ、どうぞお入りなさい」


 私を呼んだその先生は、白髪混じりの優しそうな初老の女性教師でした。シンプルだけど美しい布地で出来たワンピースがとても似合ってます。


 なんて見惚れていたら、ソファーに腰かけるように促されたので座り、先生と向かい合わせになりました。


 き、緊張する。何でしょう、私何かやらかしたかしら!?


「実はね、フローラさん、貴方の実技の試験結果なのだけど……」


「――……!」


 あぁ、その話かぁ……。と、無意識にため息が漏れる。

 確かに、他の子達と比べても私の結果はひどかった。国のトップに立つ立場の人間がそれじゃ困るわよね……。


「ちょっと思わしくなかったわねぇ。他の先生方も、お困りなようなの」


「は、はい、申し訳ございません……」


 あぁ、恥ずかしくて顔を上げられない……。




「そこで、貴方に課題を出します」


「課題……ですか?」


 先生は頷き、私がどうしたら良いのかを簡単に説明してくれた。まずは、自分の魔力を扱う感覚を掴むために、毎日少しでも良いから魔力を使い続けること。


 私に出された課題は、その“毎日使う魔力”の目的を見つけること。つまり、ただ適当に魔力を使うんじゃなくて、毎日目的を持って練習しなさいって事ね。


















…と、言うことで。


「何か無いかなぁ、毎日水を使うもの……」


 初日の授業が終わった放課後、私はその課題を探して敷地内を練り歩いているのでした。


「……あの、すみません」


「はい?」


 校内にはヒントになるものが無くて外のガーデンを歩いていたら、花壇の側で同い年くらいの女の子に声をかけられた。濃いめの茶色い髪をゆるく三つ編みにした、大人しそうな子だった。


「私に何かご用かしら?」


「あ、いえ、その……」


 その大人しそうな女の子に微笑みかけたら、何故だか目をそらされてしまった。私、もしかして怖がられてる……!?


「あの、フローラ様……ですよね?」


「えっ?えぇ、私がどうかいたしまして?あ、もしかしてお邪魔だったかしら」


「いえそんな滅相もない!ただ、私もミストラルの出身なので、ついお声を……」


 三つ編みちゃんはそう言って目を伏せてしまった。なるほど、それで話しかけて来たのね。


 貴族の世界じゃ、目上への挨拶も大事だって言うし、無視する訳にもいかなかったんだろうな。


「……」


「――……」


 でも、お互いほとんど見知らぬ仲だから会話が止まってしまった。

 えっと、何か話題を……あっ。


「花の種を植えているの?」


「えっ?あ、はい、そうです。花壇のお世話を任されまして……」


 よく見たら、三つ編みちゃんの手には可愛らしいスコップも握られている。園芸係りみたいなもの?


 ……ん?花壇のお世話?


「……そうだ、それがいいわ!」


「きゃっ!」


 良いことを思い付いて、思わず三つ編みちゃんの手を掴んでしまった。すぐにハッとして手を話し、あくまで姫らしい態度で『よろしければ私にもお手伝いさせて頂けません?』と尋ねる。


「でっ、ですがフローラ様、お姫様が土いじりなど……っ」


「私、お花大好きなんです。花壇のお世話なら私の魔法で水やりが出来ますし、ほら、私の名前もお花っぽいですし!!」


 水やりなら毎日だし、ハッキリとした目的になるもんね。


「……わかりました、では、ご一緒させて頂きます。」


「ありがとう、嬉しいですわ。それで、貴方のお名前は?」


「私は、レインと申します。よろしくお願い致します、フローラ様」


 それまでずっとうつ向いてたけど、三つ編みちゃん……改めレインは、自己紹介の時に顔をあげて笑ってくれた。


 思わない形でだったけど、課題と友達(候補)ゲット!……かな?


























―――――――――


 魔力コントロールの課題として花壇の花のお世話をすることにしてから早一週間、レインとは大分仲良くなれた……気がする。


 クラスが離れてるから一緒に動くことはほとんどないけど、廊下とかで目が会えば手を振ってくれるし笑ってくれる。


 ――……まぁ、こっちから笑いかけると目を逸らされちゃったりするけどね。



 そして今朝、いつも通り水やりをしてたら先生に『毎日偉いわね』と褒められたので、今の私はご機嫌だ。


「――……おはようございます、フローラ様。ずいぶんと締まりがな……、失礼。ご機嫌なお顔で」


「――……ごきげんよう、ライト様。そう見えますか?」


 丁度私の振り分けられたクラスの教室の窓からお世話をしている花壇が見えるのでそこを見ながら笑っていたら、ライト皇子に声をかけられた。

 ――……ってか、貴方クラス違うでしょ、なんでここに居るのよ!


「……僕がこのクラスを訪れる事に、何かご不満でも?」


「いいえ、とんでもございません。不満など微塵もございませんわ」


 明らかに外面用の笑顔で嫌みを言ってくるライト皇子に、私も笑顔で反撃をかます。


 そんな私たちの姿を、他の子供たちが観察してヒソヒソ話をしていた。ただ、女の子がほとんど居ないから私に対するやっかみみたいなのは無いみたい。


 これはありがたいね、女の子の嫉妬って怖いから。


 そんな事を考えてるうちに、ライト皇子との攻防が終わって、私の斜め前の席の生徒の方へと去っていった。

 そこには、焦げ茶色の髪を綺麗に整えてた、落ち着いた雰囲気の少年が座っている。


 ライト皇子と、今丁度教室に入ってきたフライ皇子がその少年の席に揃いお喋りを始めると、周りの関心はそこに釘付けだ。当然と言えば当然だけどね、なにせあの席に炎、風、土の国の皇子が揃ってるんだから。


 そう、あの茶髪の少年がクォーツ皇子。


 大地の国“アースランド”の皇太子であり、三人目の攻略対象である。今も十分に可愛いけど、成長後は穏やかでまったりしたなごみ系男子……だったはず。


 とは言え、私は正直ライト皇子を始めとした攻略キャラの皆さんに深く関わると身を滅ぼしかねないので、あんまり関わらずに学園生活を送る予定だ。


 しかしその予定が、僅かその十数分後に崩れることになるとは、このときのフローラには知る由もなかったのだった。


    ~Ep.7  名前にちなんで~


『って何この不吉なナレーション!!』

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