第2話 悪癖とはよくない習性というだけあって自分では治せない

またやってしまった。

子供の頃からの悪癖みたいなものだ。

どうして他の人のようにうまくできないのだろうか……


「ちゃんとそのようにご自分の非がわかっているのならば、無駄に私に怒鳴り散らしたりしても無駄だとは思いませんか?今回のミスはあなたの準備不足なのに私に反論されたのが嫌だからといってそんな風に怒鳴られたところで全く何も思いません。不愉快なだけです。」


あれでも一応言葉は選んだつもりだった。

だって私には聴こえてしまうのだから。

どんなにこちらを非難して文句をつけていても、私に聴こえてくる上司の声は自分のリサーチ不足で私に渡す予定の資料が足りなかったこと。

ただ、それをバレないうちに私に非をなすりつけるために行動したのに、反論された事が気に入らない事。


結局のところ自分の非を隠す為の八つ当たりなのだ。


そしてその声が聴こえてしまった私もつい反論してしまう。

案の定上司は顔を真っ赤にしてヒートアップしてしまった。


またやってしまった。

そうは思っても治すことのできない悪癖。


「相手の自分に向ける心の声が聴こえる。」

「嘘をつけないので心の声にまで反論してしまう。」


そう。これが私の悪癖なのだ。


そして私は今日も終電まで怒鳴りつけられて、惨めな思いのまま帰宅に着く。


物心ついた時からうまくいかない人生。

人と関わると傷つくことばかり。


そしてある満月の日。

私は屋上へと登っていった。

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