二人ぼっちの天才魔術師

しみしみ

第1話 攻防

 ふんわりと柔らかい、アゼニアの花の匂いが体を包むように流れていく。

 もし叶うのなら、時を止めてその風をゆっくりと堪能したいところだが、そうはいかない。

 なぜならば、俺は今追尾型機械兵ドクに追われているからだ。数はざっと六体ってとこかな。身体強化魔法で移動速度をあげてはいるが、それでも追い続けてくるどころか、今にも追いつきそうなほどに段々と速度をあげて追尾してくる。

「このままじゃ追いつかれるぞ」

 俺は仲間―いや、パートナーの女性、リアにコンタクトをとる。

「まってまって、あと少し」

「少しってどのくらいだ、もう五分ともたない」

「あと一分ちょうだい! 」

「りょーかい」

 大きな通りを走っていた俺は、進路を左へ逸らす。その先にあるのは住宅街だ。

 細く曲がりくねった家と家の間を縫うように走る。流石に六体は通れないだろう。

 一度軽く後ろに目をやると、まるで横断歩道を渡る幼稚園児のように一列に隊列を組んで追ってきているのが見えた。よしよし、狙い通りだ。

「おっけー準備完了、いくよー」

「やってくれ」

 リアは屋根から屋根へ軽い足取りで飛び移ると、すぐに俺の上空に姿を現す。

 そして落下とともに詠唱をはじめた。次第にリアが突き出した右手の平を中心に魔法陣が形を成す。

「電撃魔法、くらっちゃえ! 」

 カッと一瞬だけ眩い光が辺りを覆い、ドク達に一筋の雷が落ちた。

 当然俺の体には誘導雷が走った。

 ボンっという爆発音とともにドク達の機械のつなぎ目から黒い煙が空へあがっていく。

 やはり機械兵とだけあって、許容電圧を越えさせてしまえばすぐだ。

 と考えながら、体に走った衝撃で足から地面に崩れ落ちていく体。

「あっ、ヒューズごめん! 加減したから死んではないよね……? 」

「先に防御魔法かけときゃよかったな」

「お、喋れるくらいには元気か、よかったぁ」

「なんもよかねぇよ」

 次第に痛みが引いてきたので、ゆっくりと起き上がる。

「また追手が来る前にこの街をでよう」

「でも、あの本見つかってないよ? 」

「捕まったら元も子もないだろ」

「それもそっか」

 悔しいようなはいはい、といった諦めのような顔をするリア。

 いくぞ、と声をかけて俺らは一番近い町からの出口、西門へ向かう。

 再び大きな通りにでると、遠くに西門と、それを守るように隊形を組む機械兵の姿があった。

「あーあ、先読みされてら」

「また電撃魔法打つ? 」

「いや、関係ない人を巻き込むかも知れないから駄目だ」

 カタ、カタと後方から金属が地面を歩く音が聞こえ、振りかえる。

「ヒューズにリア、国から特例がでている、いますぐにこちらに従え」

 この街の騎士長らしき人物が兵士をわんさか連れて後退する経路を遮っていた。

「特例、ね」

「なんで私たちをそこまで狙うんですか」

 リアの問いかけに、騎士長らしき男は答える。

「それはお前らが世界で二人しかいない魔術師だからだ、わかりきったことだろう」

「別に何も悪さしてないんですけど」

「魔術とは本来魔族が用いる術のこと、つまりはお前らが魔族となんらかの関わりがあることを意味している」

「だからなんだっていうんですか」

「魔族はこの世界を脅かす存在、排除せねばならん」

「ぐぬぬ……」

 リアはまるで小学生のように口をつぐんでしかめっ面をする。その仕草があまりに可愛くて、一瞬この場を包む緊張感を忘れてしまった。しかし、騎士長らしき男の言葉でまた緊張感を取り戻すことになる。

「従え、従わないのならこの場で殺す」

「殺す気でいるなら、もちろん殺される覚悟もできてるんだろうな」

「ふっ、お前らに負けるような私ではない」

「試してみるか? 」

 言葉の鍔迫り合いは、今にもどちらかの剣を折ろうとする勢いだ。

 するとリアが俺に耳打ちをした。

「時間稼ぎありがとう、準備できたよ」

「よし、悪いがこの辺でばいばいだ」

「空間交換魔法、発動」

 リアと俺の位置が、まるまんま西門を守っていた機械兵の位置と入れ替わる。その一瞬のできごとに、騎士長達の頭が追い付いていないようだった。やっと理解ができたであろう頃には、俺らは既に西門から街をでていた頃だった。

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