幻 夢(げんむ)

zizi

原宿のイタリアン・レストランにて 1-1

「イケてるよねこの店。沙保里さおり、こんな店よく知ってたよね」

「っていうかそうじゃなくてェ、真由まゆがピザ好きだっていうから、友だちにどこかおいしいお店知らないって訊いたら、原宿に1軒あるってこの店を教えてくれたの。私もはじめてなんだけど、なかなかいい感じじゃんねえ」

「そうそう、店の雰囲気もシックで落ち着いてるし、窓際にテーブルが3つ、ほかには丸テーブルが4つとカウンターで、総席数30そこそこ。ほんと小ぢんまりしてていいよね。各テーブルにあるオレンジのキャンドルもいい感じ」

「ありだよね」

「でもさあ、やっぱカップルが多くない?」

「まあね。でも気にしない、気にしない」

「そうね、そうだよね。だけど料理は断然いけてる。ねえ、このマルガリータ、ヤバいよ」

「ほんとォ? めっちゃヤバイ。このカシスソーダも結構いけてるしィ」

「綺麗な色だわ、その赤い色が情熱派の真由にぴったり」

「ええッ? 私ってそんなに情熱的かなァ?」

「どっちかと言うとね。そういうとこあるじゃん。好きな人ができると仕事が手につかないくらい一途になるわ、のべつ幕なしにメールは送るわ……。でもそれが真由のキャラなんだよね」

「そう言われれば確かにそういうとこがないこともないかな。それって情熱的っていうの? でも残念ながら世の中の男は目がなくて、いまはこの小さな胸を焦がす相手がいないわ」

「そうなんだ。この前まで付き合ってた彼はどうしたの?」

「1ヶ月前に別れたわ」

「ええッ? それって初耳だよ」

「あれエ、沙保里に話してなかったっけ?」

「聞いてない、聞いてない」

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