大人になれない僕たちは、

文月 螢

プロローグ

 



 結局、僕にとって神様とはなんだったんだろう。


 夜になると規則正しく眠るように静かになる町だけど、海の静寂はそれでも際立っていた。コンビニの白い光も、車の赤いテールランプも届かず、あるのは淡いオレンジ色の灯りと暗闇だけ。もう何年もこの町に住んでいるのに、海の匂いを初めて知ったような気がした。

 午前零時、海は夜よりも黒い。

 なにもかもを簡単に飲み込んでしまえるようなそれは、ブラックホールを連想させた。波が立って、コンクリートにぶつかって、消えて、それを延々と繰り返すうちにこの海はなにをどれだけ飲み込んできたのだろう。


 心地の良い波音に強い風の轟音が混ざり合って、耳の奥へ奥へと吹き込んだ。脳まで届くようなそれに思考まで掻き混ぜられるような感覚。だけど、僕はどうしてもこの波や風には、海には、混ざることができないのだ。


 それが解った瞬間、僕はようやく神様がなんだったのかを知った。

 だから僕はその夜、神様を捨てた。



 

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