十-1

 エレンと公園で別れたメアルは家に帰らず都心部へ寄り道していた。部活を休んでしまったため帰宅しても特にすることはなかったし、どこか賑やかな場所をぶらつきたい気分だった。家に篭もるよりは都会の雑踏に身を投じた方が頭も心も晴れる。

 メアルは、夕方に交わしたエレンとの会話の内容を思い出しては反省を繰り返していた。

 彼女に対して相当偉そうなことを言ってしまったと思う。メアルだって年端もいかない子供だ、他人に自分の人生観を訴えたところで説得力などないし、幼稚に聞こえて当然だ。一体メアルに何の権利があってエレンに生き方を諭すことができようか。

 明日エレンに会ったらなんて声をかけよう。そもそも声をかけるべきではないのかもしれない。悶々とした気持ちを少しでも晴らそうとメアルはあちこち店に立ち寄ってはみたものの、結局は何も買わないままだった。

 そうやって目的もなく夜の大通りを歩いていた時、胸に響くような音と共に足元が揺れた。驚いて辺りを見渡すと他の通行人たちも何事かと首を巡らせていた。

 音の出処を見つけられないまま二度目の重低音が響いた。一回目よりも強く、地面全体が下から突き上げられるように振動した。

「地震……?」

 電柱や信号機が揺れているのを見てメアルは危機感を覚えた。周りの人たちも立ち止まり、ざわつき始める。

 そして三度目の轟音が高鳴ったと同時に、十メートルほど離れた地点の車道の地面が爆発するように吹き飛んだ。

 砕かれたアスファルトが天高く舞い上がり、そこら中に大きな破片が降り注ぐ。

 悲鳴が巻き起こった。人々が頭を抱えて逃げ惑い、車道を走る車も、落下してくる破片と道路のど真ん中に空いた大穴を避けたせいで衝突事故を起こす。

 身を屈めて慌てふためいていたメアルは、破片が降り止むと異変のあった場所に目を移した。道路に空いた丸い穴は四車線分もの幅があり、下は真っ暗な空洞になっているようだった。

 その穴の奥で何か大きなものが動いたのを、メアルは目撃した。

「な、なに、あれ……!?」

 図太くて長い謎の物体が穴から道路へ這い出てきた。輪郭だけ取れば巨大なミミズを彷彿とさせるが、表面は濃い灰色で光沢がなく、凹凸や模様も一切ない。身を捩る動きは生き物のようで、色と質感は粘土のようだった。

 生物なのか物体なのか全く分からないその怪物は、巨体をくねらせて我が物顔で道路を進み始めた。あろうことか、メアルのいる方角に向かって。

 都心部が大パニックに陥る。人々は一斉に逃げ始め、メアルも人波に揉まれるようにして駆け出した。後ろを振り返ると、車や道路脇にあるもの全てを撥ね散らかしながら怪物が猛進してくる光景が目に映った。巻き込まれたら無事では済まないのは明白だ。

 建物の中に避難しようとする人たちが大勢いるせいで、メアルはなかなかそこに逃げ込めながった。ビルが密集しているため脇道もない。メアルは底知れぬ恐怖と焦りに襲われながらとにかく懸命に走った。もう一度後方を見やると――なぜか怪物は進行を止めていた。

 次なる異変が起きていた。怪物の体のあちこちが膨らんだり凹んだり、伸縮したりを繰り返していた。ミミズのような形状がどんどん変わっていき、まるでそれは別な姿へと変身していくようだった。

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