宇宙軍艦ムサシ あるいは宇宙規模のM&P

亜々野

★彡

22世紀初頭、地球は異星高等生命体…いわゆる異星人から恒星間戦争を仕掛けられた。


未だ太陽系外への有人探査すら行えない地球人と星の海を渡って侵攻してきた異星人とでは科学力の差は如何いかんともし難く、異星人は易々と太陽系内に前線基地を構築するのであった。


その後、異星人は定期的に降伏勧告の通信と、地球生命に有害な物質を含ませた何だかよくわからないプニプニしたモノを送り付けてくるようになった。



プニプニ攻撃からすでに半年、地球人は地下に大規模なシェルター都市を築いていたがプニプニのもたらす有害物質のためその生活圏は徐々に狭められていた。

「あと1年ほどで地球人類は滅亡する。」

ド偉い先生の試算により最悪の結果がもたらされたのもこの頃である。


余談ながら、異星人の送ってくる音声のみの降伏勧告が、かなり高圧的で非常に説教くさい感じのものであったため地球では彼ら異星人のことをガミガミ人と呼ぶようになっていた。




■地球防衛総軍大司令部


「それで、進捗状況は?」

「はい、現状で96%。ほぼ計画通りです。」

「うむ。急遽計画を変更したにしては素晴らしいじゃないか。」

「まさに。」


今、地球では一隻の宇宙軍艦が建造されていた。

その艦はもともと地球脱出用として作られていたのだが、事態が変わった。

ガミガミ人に滅ぼされようとしている地球に、遥か彼方の星からメッセージが届いたのである。


そのメッセージ曰く

・うっとこにプルプル爆弾の環境汚染物質を除去する装置あんねん、お安ぅしたるから取りに来ぃや

・恒星間航行エンジンの設計図はおまけや、気前ええな~うち


もぉ~ダメぽとばかりに飲んだくれてた地球人は俄然やる気になった。誰も死にたくは無いのだ。

しかしここで大きな問題が発生した。


「プルプル爆弾ってなんだよ、センスねえな。あれはプニプニ爆弾やろ。」

議会も紛糾したがこの問題はとりあえず先送りとなった。


そして…




■太平洋・シブヤン海


「補助エンジン、点火!」

その昔、この海域で生起した大海戦により沈んだ1隻の軍艦が蘇ろうとしていた。

艦の名は

旧日本海軍の誇った超ド級戦艦であるが、今は宇宙軍艦ムサシと呼ばれている。


ズザザザ・・・

ガミガミ人のプニプニ爆弾によりやたらとトロミの増した海を割ってムサシはその姿を現した。

「よし!メインエンジンに繋げ!」

「メインエンジンに繋ぎます。」

「ムサシ発進!」


ガミガミ人の目を欺くためシブヤン海深くで建造されていた宇宙軍艦ムサシは、その雄々しい姿を空中へと進めた。

もしかするとガミガミ人による妨害があるかもと緊張していたクルー達だったが一向にその気配は無く。気付けば成層圏はおろか外気圏も越え難なく宇宙へ上がっていた。


「うむ!我々はこれよりあの星の海を越える!総員配置につけ!」

宇宙軍艦ムサシの旅が始まった。




■米国・ニューヨーク


「起動シークエンス終了シマシタ」

コックピットに流れる合成音声

「よし起動!」

その昔、アメリカ独立100周年を記念してフランスから贈られたという1体の像が蘇ろうとしていた。

像の名は

ニューヨーク港内リバティ島に屹立していた銅像であるが、今はガミガミ人のプニプニ爆弾により海中に倒されたままになっていた。


ギギギ・・・ギギ・・・

パイロットの動きに合わせ33.86mの像がゆっくりと起き上がる。

像の動きはパイロットの動きに連動しているのだ。

トロミの増した海を割って自由の女神はその姿を現した。


女神マリアン発進!」


ガミガミ人の目を欺くためニューヨーク港深くで建造されていた恒星間機動ロボは、その雄々しい姿を空中へと進めた。

ちなみに、マリアンというのはパイロットの付けたパーソナルコードであるが、計画に携わった多くの人々が「それはどうだろう?」と思っていた。もちろん命がけで旅立つ彼には内緒だったが。


もしかするとガミガミ人による妨害があるかもと緊張していたパイロットだったが一向にその気配は無く。気付けば成層圏はおろか外気圏も越えすでに宇宙へ上がっていた。


「よし!これよりあの星の海を越える!!」

マリアンの旅が始まった。




■中華人民共和国・北緯39°59 東経117°50


「補助エンジン、点火!」

「補助エンジン点火」

「補助エンジン…」

「補助エン…」

「補助…」


エンジン出力の高鳴りと共にその城は徐々に震え始めた。

城と言っても実に大陸的なスケールで企図されたモノだけにその全長はエライな事になっている。

乗員だけでも20万人!ひとつの命令が実行されるまでに一体いくつの連絡がやりとりされるのやら…。


城の名は

その昔、北方からの異民族の侵入に対処するために築かれたという長~~~い城であるが、今は「TGW(The Great Wall)」と呼ばれて久しい。


「よし起動だ!共産党万歳!」

ゴオンゴオン・・・

長城はその身の内に恐ろしいパワーを内包しているのだが、動きはその名に恥じない緩慢なものであった。


「TGW発進!」

「TGW発進」

「TGW発…」

「TGW…」

「TG…」


ようやく命令の伝達が終わると、どこか投げやりに建造されていた恒星間航行要塞は、その長々しい姿を空中へと進めた。

もしかするとガミガミ人による妨害があるかもと緊張していた乗員一行だったが全くその気配は無く。気付けば成層圏はおろか外気圏も越え何とか宇宙へ上がっていた。


「よし!これよりあの星の海を越える!!」

「よし!これよりあの星の海を越える」

「よし!これよりあの星の海を越え…」

「よし!これよりあの星の海を越…」

「よし!これよりあの星の海を…」

「よし!これよりあの星の海…」

「よし!これよりあの星の…」

「よし!これよりあの星…」

・・・

・・・

TGWの旅が始まるまでにはもう少し時間がかかりそうだった。






---その日、ガミガミ人の太陽系前線基地は大騒ぎになっていた。


「地球監視艦より入電!地球人どもの船やらなんやらが一斉に宇宙に上がってきたようです!その数約500!」

「なに?」


フランス・超時空宇宙機エッフェル

ドイツ・宇宙超重戦車マウス

エジプト・宇宙要塞ピラミッド

カンボジア・分離合体ロボ、アンコールワット

ロシア・宇宙空母赤の広場

スペイン・強襲型宇宙突撃艦サグラダファミリア(未成艦)

etc・・・etc・・・


それはそれは大騒ぎであった。

なぜこのような事態になったかと言えば…全てはあのメッセージが原因だった。

送られてきたメッセージを各国・各地域で受信しそれぞれが「我こそは!」と張り切った結果である。

そしてたまたま同じ日に宇宙に飛び立ったため、てんやわんやのガミガミ人は対処できなかったのであった。

なお、未確認だが、飛び立つまでにやたらと時間の掛かっためっちゃ長いのだけは袋叩きにあったらしい。



そして多くの苦難と冒険を乗り越え、1年後彼らは無事地球へと帰還した。

彼らが宇宙往還に使用した各マシーンにはすっごい誇らしげなドヤ顔とやたらと高額の代金と引き換えに手に入れた謎の装置が積み込まれていた。


その後、地球の被ったプニプニ爆弾の毒の除去が済んだころ、なぜかガミガミ人も太陽系からいなくなっていた。


ちなみにガミガミ人の本当の名は地球人には発声できないが、その意味を元に地球の語句に翻訳するなら「ライター」となり、一方地球に救いの手を差し伸べた異星人の名前の意味は「職人(火消)」となるが、それは地球人のあずかり知らないことであった。

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