頭空っぽな俺が神様から獣人娘をメロメロにするチートを貰って異世界に行った話

最上

第1話

「おお、見知らぬ森の中だ」


一瞬の瞬きの後、言葉通りに俺は見知らぬ森の中にいた。

つい先程までは真っ白な空間で自称・神様と色々話し込んでいた俺だが、そんなことはもはやどうでもいい。

大切なのは、今いるここが『可愛い獣人娘がいっぱいいる世界』であり、俺には『獣人娘をメロメロにしちゃうチート』があるということだ。


「ふっふっふ……笑いが止まらねぇぜ……」


人目の無い森の中だから、俺は思う存分ニヤニヤと顔を歪める。

念願の獣人娘達と好き放題イチャコラ出来るのだから、人目があったとしてもこのにやけ顔は止められなかっただろう。


「俺は生まれ変わったんだ! 好き放題やってやるぜ! イヤッホゥ!!」


俺は歓喜の雄叫びを上げると、森の中から見えていた剥き出しの土が踏み固められただけの道を、とりあえず左に向かって全力疾走する。


「待ってろよ、数多の獣人娘達よ! うおおおおおおおおお!!!」


全身を駆け巡る歓喜に身を任せ、俺は絶叫しながら全身全霊を持って走り出した。






「ゼー…ゼー……オェ…グッ……ハァーッ…ハッ……オエェ……」


当然、そんな全力疾走が長いこと続くわけもなく、俺は1分どころか30秒も掛からずにギブアップしていた。

全力疾走するなんて十数年ぶりだし、さらには雄叫びを上げつつ全身で力みつつとかなり無茶をしたせいで、俺の身体中からは滝のように汗が噴き出てきていた。


「クッソ……し、死ぬ……」


しかも息を整えながら道の脇に座り込んだら、走ってきた方向には明らかに人工物な大きな壁が見える。

あれが城壁なのか、市壁なのかはわからないが、少なくともそこには人が住んでいるだろうし、俺の目当ての獣人娘もきっと沢山いるに違いない。


「だーっ! 逆方向じゃねーか!!」


俺は悪態を吐きながら地面に横たわった。

名前は知らないが、青々とした草が程よく生えているおかげで、寝転がってもそこまで地面の固さを感じはしない。


「はぁー…ふぅ〜……よし」


大の字に寝転がりながら息を整えた俺は、ゆっくりと体を起こした。

俺が着ているのは、普段着のシャツとジーパンだ。

今は汗を吸ってジトジトと気持ち悪い感触を醸し出しているが、時折森の中から吹き抜ける柔らかな風が、そんなシャツから気化熱を奪って非常に心地良い。

少なくとも、この世界の今の季節は、真冬やその前後の春や秋ではなさそうだ。


「初夏っぽいよな、なんとなく」


俺は立ち上がると、なんの根拠もなくそう独り言ちた。

周りの森は青々と葉をつけているし、自分の体感的に日本で言うところの初夏っぽい気温かなと思ったのもあるが、ほとんどは初夏だったらいいなという俺の願望だ。


「しかしまあ、本当に異世界なんかねぇ……」


俺はそれなりに距離がある場所に見える壁に向けて歩きながら、続けて独り言を言った。

長いこと一人暮らしをしている人間特有の症状だから、なかなか治そうと思っても治らない。

とはいえ、俺は意識して奥歯をグッと噛み締めると、自分の口を無理矢理戒めた。

今から考えることは、不用意に口に出して誰かに聞かれてはマズイからな。


俺が神様から貰ったチートは、『獣人娘をメロメロにする』能力。

赤ん坊とかバーさんとか、あとは道を歩けば誰でも…なんてことになっては嫌なので、神様に注文をつけて発動条件も付け加えさせて貰った。

発動条件は『初潮済みから40歳までの獣人娘』で、『俺と目が合ってお互いの存在を認識した場合』にしてもらった。


40歳が獣人『娘』?と思うヤツもいるだろう。

俺も最初はな、


「25歳まで!」


って宣言したんだよ。

そしたら神様がさ、すっげー冷たい声で


「………じゃあ26歳の美しい獣人娘には効果ありませんけどいいんですね」


って言ってきやがるんだもん。

神様は最初、男か女かわからない感じの声だったのに、俺はそこから明確な『女』を感じ取ったね。

多分女神だわあいつ。

そう思ってからはずっと、神様の声が女声に聞こえてたんだけど、女神様はそのあとも延々と


「じゃあ27歳は? 28歳はどうしてダメなんですか? 30過ぎても美しい人はいくらでもいますよ?」


とか言い続けてきやがったんだよ。

結局、女神様が『美魔女』って言葉を駆使してきたあたりで強引に打ち切って、かと言って今更対象年齢を引き下げるのもどこまでにすればいいか思い付かなかったから、『40歳までの獣人娘』ってことになったんだよな。


そして次の『俺と目が合ってお互いの存在を認識した場合』という条件について。

これについては女神様に『自分でそう命じれば効果が発動する』とか『一定の距離に近付いたら発動する』とかの候補を挙げられたけど、一定距離無差別発動は完全に地雷だし、自分で命じて効果が出るっていうのも、なんか情けなくて嫌だったからやめた。


「目と目が合って一目惚れしちゃう感じがいい!」


って俺は力説したんだけど、女神様はクッソでかい溜息を吐きながら、


「……そもそも、神から授かった能力で異性の心を縛る時点で同じでしょう」


とか言って俺の心をへし折りに来やがったから、俺は目を閉じ耳を塞ぎ心を閉ざして貝になることで乗り切ったんだ。

どんな強力な力を貰ったとしても、可愛い獣人娘とまともな恋愛が出来る自信なんてないからな。


「………本当にそんな能力でいいんですね?」


女神様が閉ざした俺の心に直接呆れた声を掛けてくるから、俺はしゃがみ込んで蹲った姿勢のまま何度も首を縦に振った。

俺の意志は固いんだぞと示すためだ。


「………それでは、あなたに授ける能力は『獣人族の初潮から40歳までの女性に、視線を合わせることで魅了する能力』でよろしいですね?」


「……メロメロ」


「………は?」


「魅了じゃなくて、メロメロにする能力で」


ここだけは譲れない。

俺は相手を支配したいんじゃなくて、恋愛的な意味で好きになって欲しいんだ。

魅了なんて無理矢理な感じは嫌なんだ。


「……魅了では無く、『神の恩恵たる超常の脳力持って、女性をメロメロにする』能力ですね」


「ぐっ…」


なんかそう言われると「大して変わんねーだろうが」と言われてるような気がするが、きっと違うったら違うんだ。

魅了とメロメロは違うんだい。


「ソレデオネガイシマス」


「……わかりました」


女神様が何回目かわからないくそでか溜息を吐くと、俺の体がふわりと宙に浮かんだ。

俺は慌てて、しゃがんで蹲って、目を閉じ耳を塞いでいた姿勢を崩してバランスを取ろうとわたわたする。


「……これから向かう世界は、あなたが今までいた世界とは違い非常に過酷な環境の場所となります」


「えぇ……マジですか……?」


「最初に言いました。……あー、そこに戦闘技能の皆無であるあなたは『あなたのまま』転生…転移の方が近いですかね。転移することになりますので、運が悪ければ即座に命を落とす可能性もあるでしょう」


「そんな!」


「………一応、人が住む近くに『生まれ落ち』させますが、十分注意してくださいね」


「近くってどれくらいですか!? 神様感覚で近くとかめっちゃ不安なんですけど!!」


俺はどんどん浮かび上がる中で、必死に手足をばたつかせて時間稼ぎをしようと足掻いた。

この辺しっかり確認しないと、獣人娘に会う前に死んじゃうからな。


「大丈夫です。神を信じなさい」


「なにその投げやりな言い方! 信用出来ねー!!!」


そう絶叫した俺に向けて、姿の見えない女神様が怒りの波動をぶつけてくるのを感じた瞬間、俺はいつのまにか森の中に立っていたのだった。

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