第11話 「雪山の死闘」
北へ行けば行くほど雪は降り積もっている。彼女の膝下まで埋める雪のせいで足は遅れ、何度も野宿を覚悟したが、運よく夕暮れ間近に一つの村に入ることができた。
レイチェルは安堵しつつ、二人を出迎えるように立っていた警備の男と、鉄格子越しに話をした。
「おそらくアンタ方が、今日は最後の客だろうな」
相手はそう言うと内側の鍵を開けて二人を村の中に招き入れた。
「こちらに宿はありますか?」
「はあ? 何だって!?」
身を切るような凍える風が吹き荒れているためか、レイチェルの問いに男は耳を近付いて尋ね返した。
「宿屋さん! ある?」
リルフィスがそう尋ね返すと、相手は頷いた。
「それなら村の中央を目指しな。そこにそこいらの家よりもデカい建物がある。居酒屋だが、旅人も泊めてる」
二人は礼を言うと薄暗くなってきた村の中を歩み始めた。人通りは無かったが、件の居酒屋へと来ることができた。鎧戸は閉まっていたが、その賑わいが外まで漏れてきていた。
少しばかり大きな扉だったため、レイチェルは僅かに緊張し、そして扉を押し開いた。
途端に割れんばかりの活気が耳を貫いた。
蝋燭が燃えている幾つものランプは黄色の光を店内中に投げかけていた。その眩しさに目が眩んだ。
熱気と活気とに溢れる店内は満員に見えた。
レイチェルが立ち往生していると、カウンターの向こう側からずんぐりとした男が歩んできて言った。
「扉を閉めてくれ」
レイチェルは慌ててそうした。
おそらくは店主なのだろう、ずんぐりした男が言った。
「何だお嬢ちゃんら二人だけなのか?」
「うん。リール達は、冒険者なんだよ」
リルフィスが言うと、店主は合点がいったように頷いた。
「なるほど冒険者ね。だったら宿を探しに来たわけか?」
「はい、そうです。お部屋空いてますか?」
レイチェルが訊くと店主は頷いた。
「空いてるのは一部屋きりだが、そんなに狭いほどじゃないから大丈夫だよな?」
二人は顔を見合わせると頷いた。
「後で布団を運んでおいてやるよ。だが、ひとまずは食事だろう?」
そう言われて初めてレイチェルの鼻は店内に充満する香ばしいにおいを察知したのであった。彼女は空腹だった。
「確か奥に空いてるテーブルがあった。そこに行ってな」
そうして盛り上がる酔っ払い達の間を縫う様に歩いて、空いている席に着いた。
お品書きがなかったが、すぐに料理が運ばれてきた。シチューに、カリカリに焼いたパン、油滴る何かの、おそらくは猪だろうか、その肉の串焼き、それに赤っぽい飲み物だった。
シチューはドロリと濃いめであった。だが、これにパンを浸して食べると絶妙な加減に味が変わった。肉はやはり猪だろうか、香辛料がきつかったためジュースで口の中を洗い流しつつ噛り付いた。ちなみにジュースはベリーであった。甘酸っぱくすっきりとしている。
「美味しいね」
リルフィスが微笑みながらそう言った。
「うん、そうだね」
暖かさと程よく腹が満たされてきて彼女はいつの間にか失っていたらしい元気を取り戻していた。見ると、シチューと肉が残っていて、パンとジュースが空だった。
「すみません! パンとジュースおかわりお願いします!」
店内の賑やかな談笑に負けじとレイチェルは声を張り上げた。
「レイチェルちゃんってもしかして食いしん坊さんなのかな?」
リルフィスが面白そうにそう言った。
程なくして満腹になり、二人は用意された部屋へと引き上げた。
部屋は殺風景で、最初に店主が言った通り二人でも狭くは無かった。ベッドが一つあり、その下に布団が敷かれている。レイチェルがベッドを譲るとリルフィスは大はしゃぎで、ベッドの上に飛び移り、飛び跳ねた。床が怪しく悲鳴を上げたので、レイチェルはハーフエルフの少女を慌てて止めた。
そうして明日は早くに出て次の村か町かへの道を縮めてしまおうと話し合い、小さな卓にあったランプの灯を消そうとした時だった。
木でできた部屋の扉が軽く三度叩かれた。
「はい?」
レイチェルが問うと、向こう側から声が返ってきた。
「ひっひっひ、夜分にすまんの」
怪しい笑いと共にしわがれた声がそう言った。
レイチェルは棍棒を、リルフィスは弓矢を構えていた。
「何の御用でしょうか?」
レイチェルが多少語気を強くしてそう尋ねると、向こう側の相手は答えた。
「なに、お主等が冒険者だと耳にしての、ちょっとした依頼をしたいんじゃよ」
「依頼ですか?」
レイチェルがリルフィスを振り返ると、ハーフエルフの少女は弓矢を構えたまま頷いた。リルフィスの顔はいつもの天真爛漫さはどこへやら、眼光を鋭いものにしていた。
レイチェルは警戒しつつ扉を開けると、そこには外套で身を、頭巾で顔を隠した小男と思われる人物が立っていた。
「ひっひっひ、時間も時間、驚かしてしまったようじゃな」
相手は頭巾を脱いだ。顔が明らかになり、白髪頭まで鉤鼻をした老翁であることが明らかになった。
「ワシの名はヴォルト。ヴォルト・アイスバーグじゃ。ひっひっひ」
「レイチェル・シルヴァンスです」
「リルフィスだよ」
こちら側が名乗ると老人は頷いて言った。
「ふむ、冒険者とは言うが、か弱そうな少女二人組であったか。これはどうするかの。ひっひっひ」
相手は言うほどに悩む素振りも見せずにそう言った。
「確かに私達だけでは頼りないかもしれませんが」
レイチェルは部屋の中へ戻って、老人に弩を掲げて見せた。
「ひっひっひ、なるほど、そのぐらい扱えるのなら問題は無さそうじゃの」
老人は懐に手を入れると、巾着袋を取り出し、レイチェルの方へ放り投げた。
「報酬じゃ」
レイチェルは呆気に取られつつ巾着の中身を開いてみた。中には銀貨がたんまりとあり、金貨がその中に幾つか埋もれていた。
「まだ仕事を引き受けるとは言ってませんが」
レイチェルが戸惑い気味に言うと老人は頷いた。
「何、雪山へ行って、自生している闇ヒラタケをたんまり採ってきて貰いたいのじゃよ。冬の雪山は困難じゃ、それに雪男イエティの目撃例もある。そのぐらいの報酬が見合うじゃろうて」
レイチェルは未だに報酬の相場は分からなかったが、老人が気持ち大目の金額を用意したように受け止めた。
雪山へ行って、闇ヒラタケをたくさん採ってくる。ええと、それから……。雪男だ。雪男イエティのことなら、絵本で読んだことがある。雪山に住む凶暴な熊よりも大きな怪物だ。
「イエティって本当にいるんですか?」
レイチェルが尋ね返すと、老人は頷いた。
「おるとも。これから向かうコヒツミ山には、数年に幾つかじゃが、猟師達の目撃の報告が入ってくる。ひっひっひ、恐ろしくなったかの?」
「いえ、そんなことはないです」
レイチェルはきっぱりと言ってのけた。手にしている弩の重みが彼女に勇気を与えてくれている。最近は訓練の成果が出て的の真ん中付近に矢を射ることができるようになっていた。それに金属の鎧を貫通する矢ならば、イエティだって倒せるはずだ。最近目立った仕事をこなしてなかったので、財布の方は寂しくなりかけていたところでもあった。
「闇ヒラタケはこれじゃ」
老人が差し出した掌には、黒っぽいキノコが乗っていた。
「こいつはコヒツミ山の中腹付近にある森の木々の根元に生えておる。と、いっても針葉樹に限るがな」
レイチェルは頷き、心の中で老人の言葉を反芻した。黒いキノコ、山の中腹、針葉樹の根元……。
「では、頼むぞ。これを二袋分な。ひっひっひ」
大きな麻袋を二枚手渡すと、老人は怪しい笑いを残して去って行った。
二
翌朝は早く起きた。まだ日が出るまで少しだけ早かった。
昨晩と違い、ガランとした店内で食事をする。パンとジャガイモのポタージュ、そして解した卵焼き、トマトのジュースだった。レイチェルは、ジャガイモのポタージュスープがとても美味しかったのでお代わりしようとしたが、仕事の前なので止めた。
外に出ると風はなく雪も降っていなかった。真新しい雪の大地が二人を出迎える。足を踏み出すと、ブーツの下まで埋もれてしまった。
店主にコヒツミ山の方角を尋ねてみると、外まで出てきて、西の方を指差した。
なるほど、さほど遠くはなさそうだが、山の影が見える。
「幸運を祈るぞ」
店主は励ますようにそう言った。
「うん、リール達戻ってくるから、お部屋は貸しちゃ駄目だよ」
「わかってるとも。イエティには気を付けろ。まぁ、出会うのは稀だがな。よほど幸運なのか、それともついてないのか……」
二人は頷いて村を後にした。
そのまま山の影へ向かって歩いて行くと、程なくして太陽が現れ、雪の大地を白銀色に輝かせた。
コヒツミ山の麓には一時間もしない内に到着した。
「雪が降らないことを祈ろうね」
レイチェルが言うと、リルフィスは笑みを向けて頷いた。
二人はコヒツミ山へ足を踏み入れた。脚を埋める雪のせいで、体力が余計に奪われるのをレイチェルは感じた。雪を被った針葉樹を見つけ根本の雪を掻き分け始めた。しかし、そこにはキノコの姿はなかった。レイチェルは思い出していた。依頼人のヴォルト・アイスバーグは、山の中腹に生えている針葉樹と言っていた。もう少し上る必要があるだろう。二人はここでの探索を早々に切り上げ更に上へと向かった。
陽光が眩しい。周囲の樹木に覆い被さっていた雪が解けて落ちてゆく音が止まなかった。
ようやく山の中腹付近に来たと思い、二人は見渡す限りの樹林帯へ飛び込んで、その根元を掘り始めた。
すると、大小様々な形をした黒いキノコが姿を現したのだった。それは、間違い無く、依頼人の老人が見せたキノコ、闇ヒラタケそのものだった。
「やったね、レイチェルちゃん」
「うん!」
二人は手分けしてそれぞれの袋にいっぱいの闇ヒラタケを採取し始めた。お互いの距離が遠くならないように時々声を掛け合った。
そうして正午に入る前には採取の方は終了した。パンパンに膨らんだ袋を見せ合い、お互いの戦果を喜び合った。
「これで探索終了だね、レイチェルちゃん」
リルフィスが嬉しそうに言った。レイチェルは頷き、答えようとした。だが、口から言葉が出なかった。リルフィスの肩越しの少し離れたところで雪が動いたのだ。
気のせいかと思ったが、次の瞬間、雪を蹴散らし、その下から巨大な影が現れた。
熊よりもずっと大きく肉付きの良い身体は、周囲を埋め尽くしている雪と同じ真っ白な毛に覆われていた。首の無いようなのっぺりとした大きな顔がこちらを見た。まさかと思ったが、絵本のこともありレイチェルは素早く合点し、言った。
「イエティ……。リルフィスちゃんあれ」
ハーフエルフの少女が振り返る。イエティはこちらを凝視したまましばらくは動かなかった。が、野太い叫びを大音声で発して、雪の上をこちら目掛けて駆けてきていた。
リルフィスが荷物を捨て、素早く弓矢を構える。レイチェルも後に続き、棍棒を握り締めようとした。
リルフィスの矢が立て続けに二本、イエティの胸に突き刺さったが、敵は速度を緩めることなく突進してきた。
皮下脂肪が厚いのだとレイチェルは気付いた。矢は恐らく急所までは届いていない。
そうして繰り出された大木のような腕を、二人は飛び退いて躱した。旋風が顔を吹き抜ける。
この敵に自分程度の膂力で振るう棍棒なんて通じるはずがない。彼女は背中に手を伸ばした。今こそ弩を使う時が来たのだ。
棍棒を捨てようとしたが向こう側でリルフィスが叫んだ。
「レイチェルちゃん! 少しだけ時間稼いで!」
そう言うと、ハーフエルフの少女は落ち着いた声で、おそらくは精霊魔術の詠唱を始めた。
イエティがその声に反応し、レイチェルは慌てて雪玉を投げつけた。
怪物がこちらを振り返る。
幅が狭い瞳にぽっかりと空いた鼻の孔、そして分厚い唇に大きく裂けた口からは涎が滴り落ちている。
レイチェルは雪玉を投げつけ、雪に埋もれる足をゆっくりと後退させてゆく。この場ではイエティの方が有利だ。何故ならここが奴の住処だからだ。太い足で一歩一歩力強く距離を詰めてきている。
急いで、リルフィスちゃん!
万事休すであった。その時、ハーフエルフの少女の声が木霊した。
「水の精霊さん、リールに力を貸して!」
すると、ゆっくり迫りくるイエティの足が止まった。怪物自身も戸惑う様に声を上げる。
レイチェルは見た。イエティの足から徐々に氷が覆いつくそうとしているのをだ。
程なくしてイエティは完全に氷に閉じ込められた。その姿は陽光を反射し、巨大なクリスタルにでも封じられたかのようだった。
レイチェルは安堵の息を吐いた。
「レイチェルちゃん、大丈夫だった?」
向こう側でリルフィスが尋ねてきた。
「うん、私は大丈夫だよ。ありがとう、リルフィスちゃん」
ピシッ。
ふと、微かだったが、妙な物音を聞いた。
「レイチェルちゃん! まだだよ!」
突然リルフィスが声を上げた。
すると怪物を覆っていた氷が弾け飛び、イエティをは咆哮を発し再び現れた。
怪物が一歩、レイチェル目がけて足を進める。
リルフィスが弓矢を放つのが見えた。矢は恐らくは怪物の背中に刺さっているのだろう。しかし、やはり分厚い皮下脂肪がその矢を致命傷から阻んでいるのだ。
怪物が駆けた。
レイチェルは慌てて横に飛びのいた。
バキッ。と、音がし、雪の中で振り返ればイエティの一撃が側にあった樹木を圧し折ったところであった。
あれを受けたら命は無いだろう。倒れ沈みゆく樹木を一瞥すると、イエティがこちらを振り返った。
レイチェルは考えた。この雪の世界では向こうの方が有利だ。ならば逃げ切れることはできない。つまりは、どうやってイエティを斃すかだ。
やはり今こそ。
レイチェルは弩を使おうとしたが、矢を番えた後、弦を最大限に広げるためにハンドルを回さなければならない。その間にイエティの攻撃を受け殺されてしまうだろう。
「水の精霊さん! もう一回。もう一回、リールに力を貸して!」
リルフィスの声が再び木霊するや、イエティは身体の下から氷に覆われ始めた。
「レイチェルちゃん、今だよ!」
レイチェルは棍棒を捨て、背中から弩を取り出した。彼女は夢中でハンドルを回し始めた。弦が広がってゆく。
ピシッ。
氷に亀裂が入るあの音がした。
獣神キアロド様、何卒御加護を下さい!
弦が限界まで広がり、レイチェルは素早く矢を番えた。
彼女が弩を構えた途端に氷が弾け飛び、イエティが咆哮を上げた。
イエティがこちらへ歩んでくる。
「レイチェルちゃん!」
リルフィスが矢を放つ。それらは背中に突き立ったようだが例によって皮下脂肪に阻まれているようだ。敵は意に介すことなくこちらへゆっくり歩んでくる。
どこを狙うべきだろうか。引き金に指を掛け、弩に付いている照準の十字を敵の体に合わせながらレイチェルは悩んでいた。頭は通常の敵よりは的が大きいかもしれないが、それでも不安だった。何せ外れたら次の矢を番えている時間はない。
この矢は金属の鎧にだって穴を開けた。ならば心臓まで届くのではないだろうか。あの大きな身体だ。最悪心臓ではなく、肺や内臓に届いて深手を負わせることができるかもしれない。
イエティが、まるで小山の如く迫ってくる。
心臓を狙う!
レイチェルは金属の鎧をも貫く矢の威力を信じ、照準を怪物の左胸に合わせ、引き金を引いた。
強い反動で身が揺らいだ。
しかし矢は胸には当たらなかった。だが、怪物の弛んだ顎の下にあると思われる首を貫いているようだった。
怪物はゴボゴボと呻きを漏らし、そして背中から倒れた。
本当に仕留めたのだろうか。レイチェルは、もう一度、急いで弩を操作し矢を番えると、怪物のもとへと忍び寄って行った。
反対側からも矢を引き絞った態勢でリルフィスが歩み寄って来ていた。
見ると、怪物の周囲の雪の上には血の溜まりができていた。
光を失い虚空を見上げる両眼をレイチェルは見下ろした。怪物は死んでいる。
「危なかったね」
リルフィスがそう言うと、彼女はその場にへたり込むようにして座り込んだ。
「リルフィスちゃん、大丈夫!?」
レイチェルが慌てて問うと相手は答えた。
「精霊さん呼ぶのに力を使っちゃった」
無理もないことだとレイチェルは思った。そのおかげで自分はこうしてイエティを討ち取ることができたのだから。
またイエティに遭う心配もあったが、二人はそこで短時間休息して山を降りて行った。
三
夕暮れも過ぎ日が沈んだ頃、二人はようやく村に戻ることができた。
門番は昨日の男と一緒だった。
「今日もお前さんらが最後の客のようだな」
鉄格子を開けて相手は気さくに迎え入れてくれた。
それから、依頼人のヴォルト・アイスバーグの家を探すために一旦、宿に戻り主人に話を聴こうとしたところ、話の流れで、イエティと出会い、討ち取ったことを話すことになった。
すると、村の男と思われる一団が杯を置いてこちらへ駆けてきた。
「アンタら本当にイエティを討ったのかよ」
レイチェルとリルフィスが頷くと、もう一人の村の男が尋ねてきた。
「それでイエティの死体はどこに?」
息せき切って尋ねるような勢いに、レイチェルが戸惑っていると、ずんぐりとした宿の主人が言った。
「イエティの毛皮は幻の品と言われるほどの価値があるのさ」
なるほど、だから村人達は必死な勢いなのだ。レイチェル達が斃したイエティの毛皮を掠め取ろうという目的だろう。
「お前達、落ち着け! 当然ながら、イエティを討ち取ったこちらの嬢ちゃん達に毛皮を取る権利がある!」
宿の主人が一喝すると村人達は静まり返った。そしてレイチェルとリルフィスの方を凝視してきた。
「どうするんだい、お嬢ちゃん達? イエティの毛皮はアンタらが持ってくかい?」
宿の主人が尋ねてきた。
レイチェルは困り果ててリルフィスに尋ねた。
「リルフィスちゃん、猟師さんみたいに毛皮を剥ぐことできる?」
「ううん、リールできないよ」
「私も」
二人のその言葉を聴いて村人達の視線が鋭くなった。
「じゃあ、毛皮はいいね?」
「うん! それよりリールはお腹がすいたよ!」
レイチェルが宿の主人に頷き返すと、村人達は我先にと、夜の帳が下りた寒空の中へ飛び出して行った。
喧騒も何処へやら、残されたのは宿の主人にレイチェル達二人と……奥のテーブルに依頼人のヴォルト・アイスバーグがいた。
「アイスバーグさん、これが闇ヒラタケです」
レイチェルとリルフィスがパンパンに膨れ上がった麻袋を渡すと、フードを取り払い、老人は袋の中を覗き込んで頷いた。
「確かに、文句はない量だ。さっそく秘薬の調合に取り掛かるとしよう。ひっひっひ」
そうして最後に老人は、ご苦労だったと労いの言葉を二人に掛けて袋を背負って店を後にした。
本当に疲れた。肉体的にも精神的にも。レイチェルが椅子にへたり込むと、そのお腹が頃合いを見計らったとばかりに鳴き声を上げたのだった。
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