第32話 ボーモン王暗殺

 ヒイロがマシュリカ酒の摘発を始めて五十日後。


 村では作物の収穫がすっかり終わり、季節は冬に向かおうとしていた。そんな、ある日、家に帰ると、真剣な顔をしたパオネッタが待っていた。


「ボーモン王が動いたわ。明朝にボルベル族の軍は首都ホムホムを出るわ」

 頭の中でファンファーレが響く。


「開戦の口実を得た者の実績が解除されました。神殿で称号を受け取ってください」

(防衛のために戦わなければいけないから、口実を得たか。まずは、一つ目の実績が解除だ。これで、五十一個目。残り五十七個だ。残り二つも、さっくりと解除するか)


「開戦通告の使者が来ていないから、奇襲する気だな。こっちは向こうの情報が筒抜けだから、奇襲にはならないが、ボーモン王は知らない」


「明日、私たちも狙撃手を連れて村を出ましょう」

「この日のために、弓矢が得意な冒険者を調べておいた」


 ヒイロは冒険者の中から弓の腕に優れた冒険者二名を家に呼んだ。

一人は若い男で、一人は年配の女性だった。


「協力してほしい仕事がある。明日、ボーモン王が開拓村を奇襲するために首都ホムホムを出る。このままでは開拓村が危ない。そこで俺は極秘裏にボーモン王を暗殺する計画を立てた」


 二人のうち若い冒険者が厳しい顔で口を開く。

「俺は協力してもいい。ただ、充分な金は貰えるんだろうな? ただ働きは御免だぜ」


 ヒイロは金の入った袋をテーブルに置く。

 若い冒険者と年配の冒険者が金を確認する。


 年配の冒険者が冷静な顔で了承する。

「報酬に申し分はない。引き受けたわ」


 若い冒険者も満足げな顔で同意した。

「俺も了承した。さくっと始末しよう」


「では、明朝早くに村を出て、狙撃ポイントに向かう。村の入口で待っている」

 翌朝に開拓村を出た。開拓村を出ること半日、少し開けた空き地を見下ろす森の一角に到達する。


 潜伏地点の森から空き地までの距離は六十m。潜伏地点の森から空き地は丸見えだった。


「弓矢で狙撃するには良い場所だな。停まってくれればなお良いが、ここで休息を摂るかな」


 パオネッタが真剣な顔で意見を口にする。

「地形からいって、ここで休息を取らないと、あとは適当な場所がないわ」


「そうか。なら、タイミングを見て狙撃するだけか」

 二人の冒険者に指示を出す。


「俺が矢を番えたら、狙撃体勢に入ってくれ。俺が矢を放った後、すぐに追加で狙撃だ」


「OKボス」と若い冒険者が自信たっぷりに答えた。

「了解したわ」と年配の冒険者も冷静な顔で請け合った。


 陽が傾き始める頃に、ボーモン王の軍隊はやってきた。

 軍隊は縦に長い隊列をとっており、軍隊の先頭は通り過ぎてゆく。


 そのまま、軍隊の列が三十分ほど進むと、大きな輿に乗ったボーモンが現れた。

 ボーモン王と一行は空き地に到達すると、野営の準備を始める。


 ボーモン王は輿に座ったまま動かないので、絶好の狙撃チャンスがやってきた。

 ヒイロはアルテマ・ボウを出す。若い冒険者と年配の冒険者も矢をつがえる。


「せえの」と小声を掛けて、ヒイロは矢を放った。

 ヒイロの矢は、ボーモン王の胸を捕えた。他二本の矢が、ボーモン王の頭と肩を射抜いた。


 崩れ落ちるボーモンを見て、陣内が騒然となる。

 頭の中でファンファーレが響いた。


「王を討ちし者の実績が解除されました。褒賞として王の紋章が授与されます。神殿で褒賞を受け取ってください」


(実績が解除された。五十二個目の実績の解除だ。実績が解除されたから、ボーモン王は死んだな。褒賞の王の紋章が気になるが、これは後回しだ。まだ、一つ実績が残っている)


「よし、速やかに現場を離脱りだつする」

 仕事をやり遂げたヒイロたちは開拓の村に逃げ込まない。


 パオネッタの導きに従って森を小走りに進む。二時間ほど進んだところで、足を止める。


 辺りに耳を澄ますが、ボルベル族の追っての気配はしない。

「やったかな?」と若い冒険者が興奮気味に訊いてくる。


 ヒイロは確信があったが、適当に返事をしておく。

「問題ないだろう。あれで生きているとは思えない」


 年配の冒険者が険しい顔で尋ねてくる。

「私も死んだと思うよ。それで、これからどうするんだい?」


「一度に三人で村に帰るのは具合が悪い。ボーモン王の暗殺は秘匿にしたい。ここから別れて、開拓村に戻ろう。村に入ったら今日の仕事の一切を忘れてくれ」


「わかったよ」と、まず年配の冒険者が去っていった。

「自慢したいが、これも仕事だ」と若い冒険者も去る。


 ヒイロとパオネッタは村に帰らず、小高い山へと移動する。

 パオネッタがボルベル族の軍隊の動きを魔法で観察する。


 ヒイロは観察をしているパオネッタに話し掛ける。

「素直に帰ってくれるといいんだがな。ここで開拓の村に向かわれたら、残り一つの実績解除が困難になる」


 パオネッタは涼しい顔で意見する。

「大丈夫でしょう。サルモンだって馬鹿じゃないわ。ボーモン王と違って、ここで開拓村を攻める愚かさを知っているわ」


「だと、いいんだがな。偉い奴ってのは時々おかしな行動をとるからな」

 ボルベル族の軍隊は夜に動かなかった。


 朝になっても動きがなかったが、昼になると首都ホムホムに向けて撤退を開始した。


 頭の中でファンファーレが鳴り響く、

「村の防衛者の実績が解除されました。神殿で称号を受け取ってください」


(これで、実績解除は五十三個目。希少な実績を、三つ解除だ)

「よし、とりあえずの危機が去った。村に戻るぞ」

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