第29話 呪われた宝

 ヒイロが家でくつろいでいると、カルロッタが買い出しから戻ってきた。

 カルロッタが冴えない顔で告げる。


「ヒイロさん、ニュースです。ヴィルジニオ総督が亡くなりました」

「亡くなったって、村に着いて三日目だぜ。早すぎだぜ」


「そうなんですよね。村の人の話では、前日まではピンピンしていたって話です」

(何だろうな、風土病でもないだろうし、マシュリカ中毒でもないだろう。偶然かな)


「せっかく総督が就任したのに、残念だな」

 二日後、家に養鶏の用の小屋を作っていると、カルロッタが寄ってくる。


 カルロッタの顔は先日と同じで冴えない。

「ヒイロさん、副総督だったヴァレーリオさんを知っていますか?」


「昨日、総督に就任した男だろう」

「それなんですが、ヴァレーリオ総督も昨夜、亡くなったそうですよ」


(何か、おかしな事態になってきたな)

「そうなのか。一週間と経たずに二人の総督が亡くなったのか。何か、気味が悪いな」


「でしょう。村じゃ、ヒイロさんが持ってきた宝に呪いの品があったんだろうって、もっぱらの噂ですよ」


「それはおかしいよ。村に宝を運んだガリガリ族から死人が出たって話は、聞かない。第一に、宝の呪いなら、俺かパオネッタ、どちらかられているはずだ」


「そうですよね」

 ヒイロは気になったので、村の治療術士を尋ねる。


「総督が二人も続けてなくなっているだろう。死因はわからないのか?」

 治療術士の老人はあっさりとした態度で語る。


「ヴィルジニオ総督の死因は心臓の病だね」

「詳しく聞かせてもらってもいいか? 宝の呪い騒動で、こっちは迷惑している」


 治療術士は聡明な顔で語る。

「軍人の話を聞き取ってわかったのだが、ヴィルジニオ総督は心臓に病気があった。ヴィルジニオ総督は病気を恥だと思ったのか、周りには隠そうしていた。だけど、士官は薄々知っていた」


「心臓病による急死か。根拠は士官の証言だけか?」

「薬だよ。ヴィルジニオ総督は具合が悪くなると薬を飲んでいた。薬はベッドの隣にある机から発見された。薬の材料に心臓に効く成分が配合されていた」


「ヴィルジニオ総督の死は説明を付けようと思えば付くんだな」

 治療術士は肩をすくめて軽い調子で語る。


「立証しろって、要求されたら困るがね」

「なら、ヴァレーリオ総督の死因は?」


「そっちは症状から見当が付く。ヴァレーリオ総督は貝の毒にあたったのが原因だよ。ここらへんの水温はまだ温かいからね。食べた貝に充分に火が通っていなかったんだろう」


(宝の呪いは嘘か。ただ、短い期間に二人の要人が亡くなったから立った噂だな)

 ヒイロが家に戻るとパオネッタが出掛けるところだった。


「どうした、パオネッタ。お出かけか?」

 パオネッタはうんざりした顔で答える。


「トウリオ総督代行に呼ばれたわ。宝の呪いの件でね」

「宝の呪いなんて、ないと思うよ」


「私もそう思うわ。けど、トウリオ総督代行が気味悪がって、宝の所属を巡って協議したいと言い出したのよ」


「宝を返したいと頼むなら引き受ける。だけど、村のために使ったほうが有意義だろう」

「私もヒイロと同意見よ」


「俺はどっちでもいい。実績が絡みそうにないから、パオネッタに一任していいか?」


「いいわよ。誰も損しないように話を纏めてくるわ」

 ヒイロが家に入ると、誰かが戸を叩く。


 開けると、ミランダ村長宅の小間使いの少年がいた。

「ミランダ村長からの使いです。村にボーモン王から祝いの品が届きました。危険な品が混じっていないか、確認してほしいそうです」


「よし、わかった。すぐに行く」

 ヒイロは村の倉庫の前に行くと、祝いの品が山と置いてあった。


 ヒイロは品物の中から液体が入っている樽を探して、入念に色と香をチェックする。


 称号ボルベル族の友を装備して、マシュリカ酒の麻薬効果を無効にしてから、試飲もした。


 結果、祝いの品にはマシュリカ酒は入っていなかった。

(表立っては、マシュリカ酒を持ち込んではこないか)


 持ち込まれた品の中には生鮮食料品があった。

 ボルベル族は生鮮食料品を使って、その夜に軍人や村人を大勢と招いて宴席を開いた。


 人々が陽気に歌い、飲み食べる。

 宴は和気藹々わきあいあいとした、感じのよいものだった。ヒイロとパオネッタも宴席に出席した。


 宴席では怪しい動きをするボルベル族はいなかった。

 だが、宴席が終わった後片付けで問題が発覚した。


 マシュリカ酒の飲み残しが入ったカップが幾つも見つかった。

 パオネッタが険しい顔で語る。


「やられたわね。マシュリカ酒が持ち込まれているわ」

「参加者が多過ぎて、怪しい奴を特定できなかった」


「私もボルベル族の動きに注意していたけど、疑わしい人物はいなかったわ」

「となると、村人の中に、すでにボルベル族に通じてマシュリカ酒を持ち込んでいる奴がいるな」


 パオネッタが難しい顔で語る。

「非正規のルートでマシュリカ酒を村に入れているわね。夜に密輸されれば、日中しか開かない検問所では、止めらないわ」


「一人二人なら、いい。だが、十人以上にバラバラに密輸されているとなると、摘発は困難だな」


「発見されたカップは一つや二つではないわ。マシュリカ酒中毒者はもうかなり開拓の村で増えているのかもしれないわね」

「ここらが限界だな。これ以上、寛容な態度を採り続ければ開拓村は滅ぶ」

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