第27話 黒い龍(後編)
誰もが口を利かず、相手の出方を窺っていた。武器を納める者もいない。
(これは宝の分配を間違えると、殺し合いになるパターンか)
敵を協力して倒しても冒険は終わらない。きちんと宝を分配して帰ってこその冒険だ。
ヒイロが一番に武器を消して、口を開いた。
「よし、黒い龍は死んだ。いつまでもこうして睨み合っていても始まらない。これより宝の分配を開始しようぜ」
「いいだろう。始めよう」とルドルフが静かに答える。
「分配を始めるだっちゃ」と緊張の面持ちでポラリンも同意した。
「ルドルフが欲しい物を誰よりも先に一個取る。次に、ガリガリ族が欲しい物を三個取る。残った全ての財宝は俺とパオネッタのものだ」
ヒイロの案に場がシーンとなる。
ルドルフが呆れた口調で意見する。
「ヒイロの案では、ヒイロの取り分が多過ぎるだろう」
「なら、宝の取り分と順番を交換してもいいぜ。ただし、欲しい物が取れなくても文句を垂れるなよ」
ヒイロの言葉にルドルフが黙った。
(そうだよな。ルドルフにしてみれば金銀は要らない荷物だ。聖王の王冠が手に入らないんなら、徒労も同然だ)
ヒイロはポラリンを見る。
「ルドルフは黙ったが、あんたはどうする? ここで宝を巡って争うか?」
副隊長と思われるガリガリ族が、部族の言葉でポラリンに話し掛ける。
ポラリンは副隊長に小さく指示を出すと、副隊長は黙った。
「わかったちゃ。ヒイロの分配案を飲むっちゃ」
ルドルフに視線を戻す。ルドルフは「負けたよ」とばかりに肩を竦める。
頭の中でファンファーレが鳴り響く。
「龍の宝の分配者の実績を解除しました。龍の宝の分配者の称号が授与されます。神殿で称号を受け取ってください」
(来たね、五十個目の実績解除。頭を使うって、こういう意味か。これで残りの実績は五十八個)
ルドルフは木製の冠を宝の山から探し出すと、魔法を使って消えた。
「さあ、次はあんたの番だ。好きなのをとってくれ」とポラリンを促す。
「ヒイロに質問っちゃ。黒い龍の死体っちゃ。これも一つと考えていいっちゃか?」
「いいぞ。この宝の中で一番でかいが、これで一つだ」
「良かったっちゃ。これで、リリン女王には顔向けができるっちゃ」
ポラリンは欲しい物が手に入ったようなので、ほっとしていた。
「ところで、相談がある。俺たちの取り分だが、二割やるから残りの八割を俺たちの開拓村に運んでくれないか」
「開拓の村はどこにあるっちゃ?」
「ここから七日ほど行った場所にある」
「場所を教えても、いいっちゃか? 軍事機密じゃないっちゃか?」
「問題ない。村の門戸は全部族に開放している。これを機に親しくなるのもいいだろう」
「わかったちゃ。きっと運ぶっちゃ」
パオネッタが魔法で財宝の総量を量り、確実に運んで欲しい物の目録を作る。
パオネッタが目録を作り終わると、頭の中でファンファーレが鳴り響く。
「黄金を抱く者の実績が解除されました。黄金を抱く者の称号が授与されます。神殿で受け取ってきてください」
(これ、あれだな、資産が一定額を超えると解除される称号か。普通に取ろうとするとだるいから、ちょうどよかった)
ガリガリ族が運搬しないで横取りする、ないしは、これで全部と過小申請してくる可能性もあった。だが、実績が解除になったので、ヒイロとしてはあまり気にはしていなかった。
十四日後、ガリガリ族は約束を守って金銀財宝を運んできた。
運んできた宝は四十ℓ用の樽で三十樽分にもなる量だった。
宝の量を見て、パオネッタに相談する。
「どうしようか? これ、家に財宝が入らんわ」
「とりあえず、ミランダ村長に相談して、村の倉庫を借りましょう」
ミランダ村長宅に行くと、ミランダ村長は大いに驚いた。
「どうしたんですか、この金銀財宝は?」
「ちょっと張り切りったら、儲かり過ぎました」
「それにしても、異常な量ですよ」
「これ、保管料を払うんで、村の倉庫で預かってもらえませんか」
「いやあ……でも、泥棒に入られた時に弁償できないですよ」
「それなら問題ない。そんな大泥棒は捕まえれば、実績解除になりそうなんで、どこまでも追いかけますから」
ミランダ村長は困惑したが最終的には了承した。
「高額な宝なので預かりたくはないですが、村のために日々働いているヒイロさんの頼みですからね。わかりました。保管料あり、失くした時の責任なし、でいいなら、村の倉庫で預かります」
「それで、お願いします」
ヒイロは財宝の保管場所が確保できたので、実績お婆さんに会いに行く。
「ヒイロです。三つも実績解除ができたので、報酬と称号の授与をお願いします」
実績お婆さんは、ヒイロを機嫌のよい顔で見つめる。
「いいよ。まずはアルテマ・アックスから行こうかね」
実績おばあさんが呪文を唱えると、頭が仄かに温かくなる。
アルテマ・ソードを出してから斧の形状を念じる。
アルテマ・ソードは両手武器の
(戦斧か、あまり使った経験がない武器だな。でも、せっかく貰ったから、後で使う練習だけはしておくか)
実績お婆さんが先に話を進める。
「では次に、龍の宝の分配者と、黄金を抱く者の称号の授与だね」
実績お婆さんが呪文を唱えると、再び頭が仄かに温かくなる。
「龍の宝の分配者は、モンスター素材を得る時に、ほんの少し希少素材が取れる確率が上がる称号だね。黄金を抱く者は名誉称号で、効果はないね」
ヒイロは気になったので、確認しておく。
「名誉称号とはいっても、信用の裏づけになるでしょう。お金を借りるときに借り易くなるかもしれませんね」
実績お婆さんはヒイロの言葉を認めた。
「ヒイロの言葉は当っているよ。称号を見て金を貸す人間もいるからね」
実績お婆さんが軽い調子で尋ねる。
「それで、龍の宝の分配者か、黄金を抱く者、どっちか装備していくかい?」
「変更はなしでいいです。それと、何か新しい情報はありますか?」
実績お婆さんが表情も明るく教えてくれた。
「あるよ。情報料は、なくていいよ。新たな実績は村の発展を助ける行動が条件さ。その行動が情報料みたいものさ」
「いつも村を助けています。これ以上にですか?」
「もっと、直接的に助けろって話さ。まあ、ヒイロがどんなに鈍くても、いずれわかる」
「では、その時に備えて心構えだけはしておきますよ」
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