孤独な一人旅

こわれせんべい

第一話 浅草 三社祭  本日父の日に思うこと

5月は、浅草の三社祭が行われる月だ。

次から次とくる豪華絢爛の神輿は、浅草寺の境内を通り裏庭に集結する。

何人もの大人が、担ぎ手として一子乱れることなく神輿を持ち上げ進む。荒々しい掛け声は、より一層祭りを盛り上げ、神々の通る道

を作り上げてるようだ。

次から次へとくる、神輿にかつがれる神々。それを囲むように人々の群れ。全てが私の想像を脱していた。

金色に輝く神輿は、門前仲町から浅草寺にかけての道を何台も練り歩き、溢れんばかりの担ぎ手達の熱気が私にも伝わり、神輿を担いでる気分になる。 

100基近くの神輿の数に、浅草寺を埋め尽くす人の波。圧巻だーーー。


数日前のことだ。

車椅子にのっている親父を私は押しながら大型スーパーのフードコートを徘徊しながら食事をとる店を選んでいた。

親父は透析を15年も続けており、歩くこともままならなく車椅子生活を余儀なくされ、それが五年くらいつづいている。

私は数ある飲食店のなかの、ラーメン屋に前で車椅子をとめ、私はカウンターの前で注文した。

20代前半くらいの女性が、はきはきとした口調で注文を聞き、厨房のほうに向かい大声で叫ぶ。

「ラーメン二つと、半チャーハン一つ。」 

威勢のよい声は、親父の若い頃の昭和の食堂を思い出させるようだった。

無駄のないリズムは、彼女の几帳面さがうかがえた。

「お前のお母さんも、若い頃はあんなかんじで、かわいくみえたんだけどなぁー。」 

昔を懐かしむように、親父は俺にはなした。

笑いながらうつむいた親父は、七年前に死んだ母親を思い出していたようだ。

「浅草のさぁー。ラーメン屋で働いてたんだよ。お前のお母さん。あの娘みたいに。一生懸命働いててさぁー。一目惚れしちゃって何回も食べに行ったなぁー。」 

「えっ。まじ。お母さんって、若い頃、浅草にいたの?」

「そうそう。初めて会ったのが浅草のラーメン屋。俺、あんま浅草いかなかったんだけど、それがきっかけで浅草に毎日いくようになってさ。」 

親父は笑いながら話続けた。

「何度も顔見てるとさぁー。いてもたってもいられなくて、手紙わたしたんだよ。俺が。ラブレターだよな。あれは。」

「何って書いたの?」 

俺は食いつくように親父にきいた。 

「俺もさー。何って書いたのか、忘れちまったけど、三社祭一緒にいかない。みたいなこと書いたんだよな。たしか。」 

「で。いったの?」

「あー。行った行った。」

ラーメンがだされ、割り箸がないのに気づき俺は席をたち、定員の若い女性にお願いした。

「あっ。すいません。今お持ちしますので。」

女性店員の無邪気な笑顔で、はきはきとした対応は、どんなミスでも、許してしまう穏やかな気持ちを俺に与えてくれる。

空の割り箸入れは、充分に補充され、私は親父に割り箸を差し出した。

「三社の神輿凄かった?デートはどうだった?」

「神輿凄い。俺が今までみたなかで、三社の神輿が一番凄い。人も多いけどな。人ばかりで、お母さんとはぐれちゃって。当時は、ほら、携帯もなかった頃だったから。でも、浅草寺の入り口に、一人でお母さんが立って俺のこと目で探してたのを、俺が偶然みつけたから。」

親父の若い頃の母のことを話すと、どことなく、寂しそうな顔をする。

今はいない母親の残像は、戻れない過去を羨むような気持ちになったのだろう。

「もう、いけねぇーだろうなぁー。三社祭。歩けねぇーもんなぁー。」

親父は寂しそうにいった。


私は親父の思い出話を思い出しながら、雷門をくぐり、人の波にのまれながら、流れに身をゆだね歩いていた。

浅草神社は、お参りで列をつくり、鳥居から本殿に続く石道は人でいっぱいだった。隣接する浅草寺境内は、露店が連なり、食べ物の香りが私の食欲を一層強いものにした。

私は浅草寺境内の一角に陣取り神輿を待つことにした。

神輿の通る道を囲う観客は、まさにディズニーランドのパレードだ。

 各町内神輿約100基の神輿が浅草寺本堂裏広場に集まり、お祓いを受けてから一基ずつ各町会へ向かって渡御する。その神輿の集うところをみるために集まった人々。 

お昼を越えた頃から、遠くから御輿の担ぎ手の掛け声がきこえてくる。 


「せいや。せいや。せいや。そいや。そいやー。」


荒々しい声はこっちまで、熱気が届くようだ。

黄金に輝く神輿は、太陽に反射し光輝き、黄金の鶏は、浅草寺の五重塔の頂上に飛んでいきそうな勢いだった。

一台が通りすぎると、すぐに次の神輿がくる。絶え間なく続く神輿と、リレーのような担ぎ手の掛け声は、人々の波の上で渡る方舟のような一年に一度の神様の降臨のようだ。


『すげーー。』


俺は次から次とくる御輿に、目を奪われ夢中になっていた。 

20年前。私の父と母が、今私が感じている感動と同だったのかとおもうと、親父の人生の歩みの深さを感じると同様に、私自身の幼さを感じた。


人の波は止むことなく、神輿が宙に舞う。

「せいや。せいや。せいやーー。」

未来永劫に続く三社祭。平和の象徴。


私は人の合間をくぐり抜け浅草寺の本堂近くまで歩み寄った。

そして私は手を合わせお参りした。


『父が長生きしますように。すこしでも一緒にいられますように。』
















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