まじょ候補

 その女の人は、とーっても、いやそうな顔であたしを見た。


 あたしは、軽く女の人におじぎをした。


 すると、女の人はふんっと鼻を鳴らして言った。


「ふん。少しは礼儀というものを、わきまえているみたいだね。でも、まだまださ」


 この人がこのお店のオーナーさんなのかな。


 だとしたら、いやだなぁ。だってこわそうだもん。


 そんなことを考えながら、あたしは女の人の顔を見つめた。


 とんがったお顔に、きついおめめ、きゅっと結んだくちびる。


 近所にこんな女の人がいたら、とーってもいやかも。


「あの、まじょカフェって書いてあったんですけど……、ここはカフェですか?」


「ああ、そんなことを書いたっけねぇ」


 女の人は言って、こしに手をあててためいきをつく。


「カフェと書けば、客は勝手にくるもんだと思ったんだがねぇ」


 この通り、まーったく人がよりつかないのさ。そう、女の人はため息をつく。


 そりゃあ、これだけ汚いんだもん、人なんてこないよね。


 家の外も、ボロボロだったし。


 あたしが考えていることには気づかずに、女の人は続けて言う。


「客が来れば、そこからまじょ候補の人間を探せばいいって考えてたんだけどねぇ」


「まじょ……候補?」


「そう、まじょ候補さ。それも小学生から中学生くらいの子どもがいい」


 女の人は言って、あたしをぎりっとにらみつける。


 うう、怖すぎる。


「まほうを使いたいって思った子ども達をかたっぱしからこの場所へ、連れてきた」


 そこで女の人は、首をかしげる。


「しかし、みせの前に呼んでも呼んでも、子どもたちは中に入ってきやしない」


 そりゃあ、あれだけボロボロな見た目だったら、みんな入ってこないよね。


「入ってきたとしても、アタシの姿を見たら、にげ帰る。何が原因だろうね?」


 それは、オバサンがとーってもこわく見えるからだよ。


 そう教えてあげようかと思ったけれど、やめておいた。


 かわりに、少しかわいく首をかしげてみせる。


 女の人は、あたしの方に近づいてくると、言った。


「アンタは、にげないねぇ。かなえたい願いでも、あるのかい?」


 あたしは、少し考えた結果、自分の気持ちを伝えてみることにした。


「あのぅ。……あたし、まじょになりたいんですっ」



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