願いを背負うもの

夕暮れ

プロローグ

あまりに強い光であたりが真っ白に見える世界、そんな世界で男が一人仰向けで倒れていた。

「ここまで...か....」

男が苦しそうに虚空に向かって呟く。

「おしかったんだがなぁ....いや、結局のところ俺では無理だったか...」

男に目立った外傷はなかったが徐々に衰弱していくのがその声から見てとれる。男の余命はそう長くはなさそうだった。

「悔しいですか?せっかくここまで来たというのに志半ばで終わってしまうのが。悔しいと思うなら私と契約しましょう。そうすればあなたは生き延びられる」

突如どこからかこの空間に声が響いた。この真っ白な世界には男が一人倒れているだけなのに、だ。

「誰がお前なんかと...」

「まぁそうおっしゃらず。私とあなたの目的は同じ、そして契約すればあなたは志半ばで倒れずに済み、この世界のシステムを知る部外者はいなくならずに済む。悪くない取引でしょう?」

「代償は...?」

「あなたの意思を継ぐ人が現れ、ここに来るまであなたには生き続けてもらいます。ただしその人がたどり着いた場合あなたの人生は幕を閉じますが」

「...」

「何度でも言いましょう。志半ばで終わってしまうのは悔しくないんですか?」

「...わかった。いいだろう。その契約、結んでやる」

「では契約成立ですねぇ!これはサービスです。あなたをここから離れた宿まで送っておきましょう。ここはあまりにも光が強すぎますから」

そうして男が目を閉じると次に目を開けた時には声の通り宿のベッドで眠っていた。窓からは光が射し込み部屋全体を黄昏時の色に染め上げていた。男はベッドから起き上がると窓を開ける。

「待っていろ...どれだけ時間がかかろうと倒してやる」

男の目には揺るぎない決意の色が見てとれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る