誕生日の奇跡

三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5

第1話

高橋 睦月と佐藤 葉月は物心着く頃にはお互いがいないと不安になる間柄だった。


たまたま家が隣同士で親達も仲が良く、生まれた日も似ていた。


睦月は名の通り6月8日生まれ、葉月は8月6日生まれ。


同じ幼稚園に通い、毎日毎日同じ場所からバスに乗っていた。


睦月が風邪でお休みすると、葉月は駄々をこね幼稚園には行きたくないと泣く始末。


逆も然り。


「葉月が行くなら俺も行く。」


「睦月が出るなら俺も出る。」


小学校に上がる頃にはお互いを親友同士と認識しクラスが違っても一緒に登校し下校していた。


決して友達がお互いなだけではなく、互いのクラスに仲がいい友達も出来ているが、何かあると…


「葉月がするなら俺もする。」


「睦月がなるなら俺もなる。」


まるで兄弟の様に双子の様に育っていた。




「睦月ん家行ってくるね!」


葉月がランドセルを玄関に放り出すと家の中にいる母親に声をかける。


「行くならお菓子持っていきな!」


キッチンに続く廊下にひょこり顔を出すと、スナック菓子を放り投げる。


「ちゃんと、靴を揃えてお邪魔しますって言うんだよ!慣れてるからってちゃんとしないのは許さないよ!」


「はーい。」


返事もそこそこにさっさと家を出る。

歩いて20歩くらいで睦月の家に着くと。


ピンポーン!


「睦月ー!」


インターホンと同時に睦月の名前を呼ぶ。


「おー!葉月入っていいよー!」


「お邪魔しまーす。」


葉月は声をかけて扉を開けると


「葉月くん。いらっしゃい」


睦月のママが顔を出す。


言われた通りに靴を揃えて家に上がると


「はい睦月ママ。これお母さんから」


渡されたスナック菓子を差し出す。


「えーもういいのに。でもありがとう、お母さんによろしく言っといてね。今お菓子出すから睦月と座ってて。」


「ありがとうございます。」


睦月がソファーに座りながら声をかけてくる。


「葉月早くソフト繋げろよ!」


今、小学校で流行っているゲームソフトを取り出してもう既にはじめている睦月のソフトに線を付ける。


お互いが自分のキャラを動かしながら与えられた任務を協力してこなしていくゲームソフトだった。

1人ではクリアが出来ない様な任務も仲間たちと協力する事でより強力なアイテムが貰えたりする。


「今日こそ16面をクリアしないと!拓也達はもう17面に行ったらしいぞ!」


「マジかよ!どうやってこの湖の面を渡ったんだよ!」


2人で頭をくっつけ合ってお互いの画面を見ながらあーだこーだ言いながらゲームに集中する。


ピンポーン!


「はーい。」


睦月ママが玄関を開けると


「ゆうちゃんこんにちは!いつも葉月が悪いね。」


「なっちゃん。いらっしゃい。仲良くゲームしてるよ。お茶しようよ!上がって。」


中へと促す、


「お邪魔します。ああ、良かったちゃんと靴揃えてるね。」


「あはは、いつもちゃんとしてるよ。挨拶もキチンとするし、うちの子の方が出来ないでしょ?」


「家にいる時はちゃんとしてるよ。外で会うと他人行儀みたくなるけど…あれなんでなんだろ?」


睦月は赤ちゃんの頃から知ってるので葉月のお母さんっていつも元気に話しかけて来るが、スーパーなどで会うとサッとゆうちゃんの影に隠れて恥ずかしそうに挨拶をする。


「変な人見知りだよね。」


「そのうち挨拶もしてくれなくなっちゃうのかな?ヤダなぁ…ばばぁなんて言われたら。」


「それは…ヤダなぁ…。」


ゆうちゃんが悲しげな顔をする。


「許さないけどね!そんなん言われたら拳骨くれてやるわ!」


「あはは、そうなったらなっちゃんよろしくね!」


そう言って2人を見ると先程と同じ体制で引っ付き合いながらゲームをしている。


「本当に仲良いね…。」


「ずっと一緒に居られるといいね。」


「まぁ頭も同じ位だしこのままいくと高校も一緒かね」


「はぁーゲームばっかりしてないで勉強の方もして欲しいわ!」


お互い笑い合いながら雑談をしている。



「葉月!そろそろ帰るよ!」


夕方になり葉月に声をかけて帰ろうと促すが


「ちょ!ちょっと待って!今いい所だから!」


「葉月のお母さんあと少しいいでしょ!」


「もう!それ何度目!いい加減にしなよ!」


「まぁまぁ、なっちゃんいいよ葉月くんもう少し居ていいから。」


「もう、ゆうちゃん葉月に甘いんだから!」


お互い夕飯の支度があるので葉月に直ぐに帰るように言うと睦月の家を後にする。


「お邪魔しました。明日はうちでいいよ。葉月に終わったら直ぐに帰るように言っといてね」


「りょーかい!」


じゃあねと家に帰り夕飯の準備をしていると


「ただいまー!」


葉月が帰ってきた。


「葉月!手を洗って宿題しちゃいなさい!」


「はーい。」


バタバタバタと洗面台に走るとジャバァー!と水の音がする。


パタパタパタ。

カチャカチャ…。


(よしよし、宿題を始めたな。)


葉月が奏でる音を聞きながら夕飯の用意をする。


「葉月ー!ご飯だよー!」


「はーい。」


バタバタバタ。


「あー!腹減った。今日のご飯なに?」


「ハンバーグオムライスだよ!」


「やりぃ!いただきまーす!」


もぐもぐもぐ、ゴックン。


「今日お父さんは?」


「今夜は遅いから先に食べてていいって。葉月宿題は?終わったの?」


「うん、…。終わった!お風呂入ったらまた睦月とゲームしていい?」


「えー?また?どうやってやるのよ?」


「部屋で繋げるから大丈夫!」


(ふーん?無線でも出来るのかな?)


ゲームの事は詳しくないので適当に返事をする。


「やる事やってからね!明日の用意して歯磨きもしてからよ!」


「わかってる。ご馳走様ー!」


早っ!話してる間に食べ終わってる…。


食器をシンクに運ぶと、


「じゃお風呂入ってくるねー!」


「全く!ゲームをする時だけは行動が早いんだから!」


食器を洗い、お皿を拭いていると葉月がお風呂から上がる。


「頭よく吹いてね!」


「うん。」


(さてと、食後のコーヒーでも飲むかな。)


お湯を沸かして、カップを出していると…


ガダーン!!!


何かが落ちる音がした。


「ぎゃー!!葉月ー!!」


睦月が葉月を呼ぶ声が聞こえる。


「な、何?葉月?なんなの?」


2階に向かって声をかけるが返事がない…。


なぜが手足が震えて上手く階段を登れない。


「葉月ー!なんなの?何か落としたの?」


先程よりも大きな声で声をかけて階段を1段づつ上がっていく。


「葉月ー!返事は!葉月!!」


やっとの事2階に上がると葉月の部屋のドアを開ける。


まず見えたのは睦月だった、窓から飛び出しそうに身を乗り出してそれをゆうちゃんと睦月パパが必死に押さえ込んでいる。


「葉月ー?」


声をかけるが葉月が居ない。


睦月が何かずっと叫んでいるが那月の耳には入ってこない。

世界が無音になる…。


睦月が何故か地面に向かって何か言っている。


那月はフラフラと窓の側に行くと睦月が手を伸ばす地面を見た…。


そこには先程美味しそうにご飯を食べていた葉月が血を流して横たわっている。


「は…づ…き?」


えっ?さっきまで元気にお風呂に入ってたよね?


「葉月!」


那月は覚醒すると急いで階段をかけ下りると靴も履かずに外に出る。


「葉月!葉月!」


睦月の家の間に行くとそこには上から見た通りの葉月が倒れ込んでいた。


「葉月ー!」


だき抱えるとぐったりとして力が全然入っていない。まるで壊れた人形の様に動かない。


頭からは赤い血が流れ葉月の顔を赤く染めていた。


「なっちゃん!今救急車呼んだから!」


「ゆうちゃん…なんで?なんでなの?葉月が動かないよ!葉月!葉月!」


「なっちゃん…。」


その後の事はうっすらとしか覚えていない…。

救急車が来るまでずっと葉月を呼び続け、救急車と共に病院に運ばれたらしい。


病院で、手術が終わるのを外でずっと待っていると夫の誠が駆けつけた。


「那月!葉月は?」


「あなた…。葉月は今…」


手術中と、言おうとすると手術中の明かりが消える。

手を取り合って扉が開くのを待っていると


汗をびっしょりかいている先生が沈痛な面持ちで扉から出てきた。


嫌だ嫌だ!先生が何か話そうとするが聞きたくない!


「残念ですが…。」


いやあぁぁぁぁー!



葉月が居なくなった家は明かりが消えたように静かだった…。


あの後警察が来て睦月の家に事情を聞き、現場検証をしていたらしい。

葉月と睦月はギリギリ届く窓の距離に配線を延ばしお互いのゲーム機を繋いでいたらしい…。

葉月が線を睦月に渡そうと手を伸ばした時に足が滑り落ちたようだ…。


なんでもっとよく話を聞かなかったんだろう…

なんでもっとよく注意をしなかったんだろう…

なんで…なんで…

なんで葉月が落ちなければいけなかったんだろう…



人間てどれだけ涙が出るんだろう…泣いても泣いても止まらない。


毎日が、いつもの何倍も長く感じる…。

泣いては疲れて眠り、悪夢に起きては泣き暮れる日々を送る…。


そんな地獄のような終わらない日々を過ごしていた。


いつもどうしてたんだっけ?

何をしていたんだっけ?


チラッと時計を見ると葉月が学校から帰ってくる時間だった。


また睦月ん家に行くかも…お菓子を用意しないと!


ガタッと椅子を引いて立ち上がり…葉月がもう居ないことを思い出す。


いや…もしかしたら葉月は睦月の家に行ってるのかも!

きっとそうだ!そうに違いない!


那月は急いで玄関を飛び出した。


ピンポーン!


優子は玄関のチャイムにのそのそと玄関に向かう。


ガチャッ扉を開けると


「ゆうちゃん、こんにちは~葉月お邪魔してない?家に居ないんだよねー」


そこにはげっそりと痩せたなっちゃんが笑顔で立っていた。


「な、なっちゃん…。」


優子はかける言葉が見つからない…。

あれから那月になんて声をかければいいのかわからずにズルズルと時間が過ぎてしまいさらに行く機会を失っていた。


そして優子も睦月の事で頭を悩ませていた…。


「葉月のお母さん?」


睦月が那月の声に反応して出てきた。


「あっ!睦月!ねぇ葉月来てない?」


那月が睦月に話しかけると


「見てないよ…。学校も休んでたし…どうしたの?風邪?」


睦月が葉月が学校に来ない事に元気をなくしている。


「えー?風邪?あっ風邪なんだっけ?じゃ家で寝てるのかな?ごめんねーお邪魔しました。」


那月が恥ずかしそうに家を出ようとすると


「待って!なっちゃん!葉月くんは…葉月くんはもう居ないんだよ…。」


優子が泣きながらなっちゃんに語りかける。


「睦月もだよ!葉月くんは死んじゃったの!2階の窓から落ちちゃったでしょ!」


「ゆうちゃん…何言ってるの?」


酷い…。と優子を睨みつける。


「ママ、葉月はいるよ!いつもゲームしてるじゃん。」


「睦月…。」


あれから睦月は笑わなくなってしまった…。

喋ったりご飯を食べたりゲームをしたり…普通にしてるが笑わない…。

その事を本人も気がついていないようだった。


しかも葉月くんが亡くなった事を忘れてるらしく毎日毎日葉月くんの話をする…。

その姿を見るのが辛く何度も何度も葉月くんの事を教えるが頑として認めなかった。


ドンドンドン!


「高橋さん!うちの那月がそちらにお邪魔してませんか?」


ガチャッ


「あなた?どうしたの?」


迎えに来た誠に怪訝な顔をする。


「家に帰ったらお前が居ないから…高橋さんすみませんね…。」


「いえ…。」


優子が首を振る。


「睦月くんも悪かったね。」


そう言って家を出ようとすると


「葉月のお父さん!葉月の様子はどう?いつになったら学校来れそう?」


「睦月!」


優子が大声で叫ぶ!


「佐藤さん…すみません、すみません。」


「…高橋さん…。」


誠は悲しげな顔で二人を見ると


「那月を寝かせて来ます…また夜に伺いますから。」


「はい…。」


誠はそう言うと那月を連れて帰っていった。


那月を布団に寝かせてしばらく側に居ると寝息が聞こえてくる、あんなに健康的だった那月はる影もなくげっそりとしていた。


葉月が死んでしばらくは泣き叫び暴れて泣き疲れてはそのまま寝て…起きてはまた泣き叫びの繰り返し…。


ある日普通に起きて、朝ご飯の用意をしていた。


ようやく落ち着いたのかと思うと食卓には3人分のご飯が用意されていた…。


「那月…おはよう。コレはどうしたの?」


刺激しないようにいつも通りの口調で聞くと


「何言ってるの?葉月の分でしょ?あーもう遅刻しちゃうよ!あなた葉月を起こして来て!」


那月が味噌汁を用意してる…。


「那月…。」


誠は言葉を無くす…その日は会社を急遽休み那月を連れて病院に行った。


医師が言うはあまりの心の負担に耐えられなくなり、自分を守る為に息子が生きていると思い込んでしまったようだ。


「ど、どうすればいいんですか?」


「しばらくは様子を見ましょう。ここで無理に現実を見せてもさらに心が壊れてしまうかも知れません。1度壊れた心は治すことは難しくなります…それこそその原因となった者に会えでもしないと…。」


「そ、そんな…だってもう葉月は…。」


会えはしないのに…。


絶望の中家に帰ると部屋の明かりが付いていた。


(あの部屋は葉月の?)


家に入り那月を寝かせると、葉月の部屋に行く。

部屋は葉月がいなくなった日のままになっていた。


那月が灯りを付けたのだろう…。パチッと灯りを消すと隣の睦月の部屋が見えた。


窓に背をつけ座っている。


「葉月…。」


睦月のシルエットに葉月を思い出し、誠は葉月の暗い部屋の中で声を出さずに涙を流した。




ピンポーン


那月が寝ているのを確認して隣の家のチャイムを鳴らすと


ガチャッ


「佐藤さん…こんばんは。」


睦月のパパの敏也が出てきた。


「こんばんは、昼間は那月がすまなかったね。」


「いえ…大変な時にこちらこそすみません…睦月が失礼な事を…」


そう言って頭を下げる。


「いや…那月も妻も同じなんだ葉月を生きてると思い込んでいて…。」


玄関先ではなんだからと中へと案内される。

久しぶりに来る高橋家は酷く懐かしい…葉月がいた時は家族ぐるみの付き合いでよくお互いの家に行っていた。

何だか遠い昔の様に感じる…。


リビングに通されると、優子がコーヒーを入れていた。


(そう言えばコーヒーを飲むのは葉月が亡くなってから始めてだ…。)


あの日からコーヒーの匂いを嗅ぐと那月が泣き出すので家にあるコーヒーは全部捨ててしまっていた。


「ありがとう…。」


コーヒーを一口飲むと久しぶりの苦味が心に染みる。


カップを置くと話を切り出した。


「昼間の睦月くんはどうしたんだい?あれは決して冗談を言っているようには見えなかったよ。しかも…あの表情は…?」


敏也と優子が言いにくそうに俯くが、敏也が口を開いた。


「優子から昼間の事を聞いたよ、那月さんがうちに葉月くんを探しに来たって…。」


誠が頷く。


「那月は心が壊れてしまってな…葉月を生きてると思い込んで自分を保っているんだ…。」


口にすると辛い…俯いていると


「睦月も同じだと思う。ほら睦月は葉月くんの葬式にも出れなかっただろ?次の日の朝から急に元気になってな…悲しいが乗り越えてくれたのかと思っていたら…」


言葉を切ると優子が続ける。


「学校から帰ってきたら元気が無くて…どうしたの?って聞いたら葉月が学校を休んでたって言うの。あまりに真剣な顔で言うからおかしいと思って葉月くんは居ないことを説明すると…怒りだしてしまって…。」


「その日のうちに妻から連絡があって急いで帰って病院に行ったんだ…。結果は那月さんと同じだと思う。」


三人は言葉をなくし沈黙する。


「あの二人は元に戻れるのか?」


「治せるのは葉月だけだと言われたよ…。」


「「……。」」


それはもう叶わないと三人はわかっていた…




那月はふと目を覚ますと誰かに呼ばれるかのように葉月の部屋に行く、扉を開けると明かりがついているが葉月が居ない…。


窓の外には睦月の部屋の明かりが見える…。


窓を開けると手を伸ばし、トントントンと窓を叩く。


キィー…と窓が開くと睦月が顔を出した。


「あれ?葉月のお母さんこんばんは。」


「睦月、こんばんは。葉月はお邪魔してる?」


「ううん。来てないよ。ゲームやろうって約束してたのに…。」


「おばさん…葉月に全然会ってないんだ…、睦月は?」


「僕も…。」


「睦月…葉月に会いたくない?」


「会いたい!会いたい!会いたいよ!」


どうしたら会えるの?睦月が窓から乗り出す。


「ここから降りれば会えるんじゃないかなって思うんだ…。」


そう言って窓の下を見る。

下は真っ暗で何処までも続く奈落の底の様に感じた。


「ここを降りれば葉月に会える…。」


睦月が窓枠に手をかけた。


「待って、おばさんが先に行くよ。下は暗いからおばさんが見てから声をかけるから。」


「ずるい。あっ!なら一緒に行こう!二人で行けば葉月も喜ぶんじゃない!」


ジジジッ…


「そうしよっか!じゃあせーので行こう。」


ジジジッジジジ…


「「せーの!」」


『馬鹿!』


まさに飛び降りようとしていると睦月の部屋から声が聞こえる


「この声…葉月?」


二人は睦月の部屋を見ると、睦月のゲーム機が勝手について光っている。


「あれ?あのゲーム壊れちゃったのに?」


睦月は無意識にあの日からゲームを触る事を拒絶していた…。


『この馬鹿!そんなことしても俺には会えないよ!』


やっぱりあのゲーム機から葉月の声がする。

那月は窓を乗り越えて睦月の部屋に来た。

二人でゲーム機を覗き込むとそこには二人がどうしても会いたかった人がいた…。


「「葉月!」」


『全く!二人共何してるの?』


画面の葉月が怒っている。


「だって葉月が学校に来ないから…。」


睦月が言うと


『睦月!俺はもう学校には行けない。もうお前と一緒に登校出来ないんだ。』


「なんでっ?」


『わかってるだろ?逃げんな。お前の悪い癖だ。嫌な事があると直ぐに逃げやがって!もうお前のフォローはしてやれないんだ!コレからは自分で立ち向かえ!俺の分まで…。』


「葉月…ごめん…俺のせいで…。」


睦月が涙を流して葉月に謝る。


「俺がゲームをしようなんて言ったから…俺がもう少し手を伸ばせなんて言ったから…」


ごめん…ごめんと涙を流す…


『馬鹿!ゲームしようって言ったのは俺だろ!手を伸ばしたのだってお前だって一緒だ。あの時足を滑らせたのは紛れもなく俺の不注意だ。』


「だって…だって…葉月がいなきゃ…何にも出来ない…。」


『だってじゃない!お前はなんだって一人で出来る。それは一番側にいた俺がよくわかってる。だから…二人の夢を叶えてくれよ。』


「二人の夢…。」


『ああ、誓ったよな!6年生に上がった時に!』


「『ずっと親友でいる事。』」


『俺はずっと見てるぞ!お前がずっと俺の親友でいる事を!』


「葉月…。」


『お母さん…。ごめんね先に居なくなって、だけどお母さんの子供でいた事を凄く嬉しく思ってる。元気で明るいお母さんが自慢だった。だから早く元気になってよ。お父さんが心配してるよ。知ってる?お父さんが毎晩お母さんが寝た後に僕の部屋で泣いてる事…。』


「誠さんが…。」


『そう…。このままじゃあお腹の子にも良くないよ…。』


「お腹の子?」


『そうお母さん覚えてる?僕の誕生日にサプライズの贈り物があるって言ったの?』


「サプライズ…贈り物…。」


『そうずっとずっと頼んでた僕の妹。』


「…あっ、」


『お父さんにも秘密だったみたいだね!きっと凄い喜ぶよ!僕も会いたかったけど…。けど!だけど!だから!最初で最後の兄として出来ることをしたかった!』


「葉月…。」


『もう大丈夫だよね?僕お兄ちゃんになれたかな?』


「葉月!葉月!ありがとう…お兄ちゃんはあなたを守ったって必ず妹に教えるから!」


『うん。約束だよ!』


「葉月!俺も頑張る!お前の変わりにお前の妹を守る!」


『ありがとう、睦月!それでこそ俺の親友だ!』


ジジジッ…


『ああ、もう時間みたいだ…。扉が閉まる…』


「「葉月!」」


『二人共…約束忘れないでよ…破ったらこっちに来ても会ってあげないからね…』


「わかってる!約束は守る!」


睦月が涙をふいて、笑顔を見せる。

その顔を見て葉月は頷く。


「もうクヨクヨしない!葉月が助けてくれたこの命、絶対に大切に守るわ!」


うん。葉月が笑う。

その顔がどんどん薄くなっていきプツンと電源が落ちた。


画面が消えたゲーム機を二人はいつまでも抱きしめていた…。

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