キカイ学習

邑楽御華

嘘つきサクラさんを追いかけたい-1

 左斜め前の席に座る佐倉さくらさきさん、彼女は息を吐くように嘘をつく。だけど、それを知っているのは僕だけだ。今日も佐倉さんは、友人との何気ない会話の中で、何でもないような些細な嘘をつく。

「今日英語の小テストあるとか知らなかったんだけど、咲は知ってた?」

「私も全然……」

「だよね、抜き打ちとかひどくない?」

「ほんとに、半分も解けなかったよ」

 僕は知っている、佐倉さんが教師から小テストがあると聞いていたことを。

 僕は知っている、佐倉さんが通学中に英単語帳を見ていたことを。

 僕は知っている、佐倉さんが小テストでわざと4割しか解かなかったことを。

 僕しか知らないこと、僕だけが知っていると佐倉さんに伝えたい。だけどまだ我慢だ。もっと、もっと佐倉さんの嘘を集めてからだ。

「あ、そうだ、いい感じのカフェ見つけたんだけど、帰りに咲も一緒に行こうよ」

「ごめん、今日は彼氏と約束があって」

「そっか、それはしかたないね」

「うん、ごめんね」

「咲の彼氏って大学生なんだっけ」

「うん」

「いいなー、私も年上の彼氏ほしい」

 佐倉さんは、2週間前からK大学の男と付き合っている、という嘘をついている。実際には、A市にあるA高校の男と3週間前から付き合っている。

 なぜ佐倉さんはそんな嘘をつくのか、それは僕も知らない。

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