自分流のもろもろ短編集

しろめし

伝書鳩のメソッド

スマホや電話なんて存在しないとある世界。

伝書鳩は貴重な情報伝達の手段の一つだった。

手紙や金貨袋程度の荷物を運ぶことができ、人間よりも早く情報を届けることができる。

そんな伝書鳩はX国でも重宝されていた。


エー氏は伝書鳩ブリーダーとしてハト会社「フジツウボ」で長年働いている。

この会社の伝書鳩は丈夫で国産で、なにより国産だった。

X国の国民は「国産」というものに異常なこだわりをみせている。

X国は遠い昔、長年に渡って他国との関係を断っていた時期がある。

そのため、X国の国民の根底には排他的な思想が根付いている者が多いのだった。


エー氏もまたそのような思想の持ち主だった。

国産第一。ウナギは絶対国産。伝書鳩も絶対国産。でも海外の女のほうが好き。


ある日、エー氏は伝書鳩ショップへ立ち寄った。

「アンソニー」や「シャンプー」といった他のハト会社の伝書鳩や、

自社の伝書鳩の売れ行きの市場調査を行うのも一流の伝書鳩ブリーダーの仕事なのだ。


やっぱり自社の伝書鳩が一番だな。エー氏は鼻高々に商品を見て回る。

そのとき、ひときわ大きく宣伝されていて、人々が集まっている一角があった。

「ほほうほうほう、どれどれウチの伝書鳩かな」

エー氏は人々をかき分ける。

「ファーッ!?」

エー氏の目の前に飛び込んできたハトは、シンプルでいながらスタイリッシュ。

洗練されたその姿は衝撃的だった。


「こ、このハトは」

「ああ、これは『アップルプル』の『i hato』です」店員が答える。

「なんてこった、なんてこった」

アップルプルはY国の会社であった。まさか他国の伝書鳩が大人気になるとは。

「いまこの国の若い人に大人気なんですよ」

「けしからん、けしからんぞこれはァーッ!」

エー氏、憤慨。

しかし、その怒りが危機感に変わることはなかった。


数カ月後、X国では「i hato」が大流行していた。

「なんてことだ、この国は腐ってしまった」エー氏は嘆く。

「やっぱり弊社のハトもシンプルでスタイリッシュな感じにしたほうがいいんですよ」

「うるせェーッ!」

部下の頬にエー氏の左ストレートは突き刺さる。

「んゲェーッ!」部下は後ろに吹き飛んだ。

「敵国のハトの真似事なんざできるか!俺達は最強なんだ!?」

ちなみにX国の伝書鳩全般に言えることだが、無駄な機能がたくさん仕込まれている。

そのため、でっぷりとした見た目となっていた。あと値段が高い。

「俺達は変わらない!これまでも!そしてこの先も!」


それから更に数カ月後、「i hato」の勢いは衰えることはなかった。そして更なる脅威がX国を襲う。

「格安ハトだと!?」

エー氏は店先に並んだ「ファー!ウェーイ!」の「P(ポッポー)20 lite」を見て叫んだ。

「P(ポッポー)20 lite」はエー氏の会社の伝書鳩よりも性能が良かったにも関わらず、価格は半額以下であった。

「P(ポッポー)20 lite」はZ国の伝書鳩であったが、これも飛ぶように売れた。ハトだけに。

「クソッ!売国奴共め!」

エー氏はツバを吐き捨てた。そしてそのツバにハトが群がった。


「やっぱり自分たちも安くていいハトを育てるしかないんですよ」

「てめぇみてぇな若造の意見なんざ聞いちゃいねぇェーッ!」

エー氏の前蹴りが部下の腹部に刺さる。

「アイヤーッ!」

部下は後ろに吹き飛んだ。

「俺達のハトは最高なんだ。誰がなんと言おうと最強なんだ」

エー氏はぶつぶつとつぶやく。

「なんとかしてやつらのハトを潰さねば……」

そのとき、エー氏の目に妖しい光が宿った。


Z国の伝書鳩が情報を流している。そんな情報がX国に広がった。

「こんなんじゃ安心して使えないな」

「俺、伝書鳩変えようかな」

そんな会話が聞こえエー氏の口角が思わず上がる。

「ファファファ……」

エー氏は自社の伝書鳩を駆使し、Z国の伝書鳩の悪評を国中に吹聴してまわった。

「これで我が社の伝書鳩が再び売れるはず……目を覚ませ国民よ」


そうしてZ国の伝書鳩ユーザのほとんどは「i hato」を使うようになった。

「なんてこったい!」

エー氏の顔はまるで、ハトが豆鉄砲を食ったような顔だった。




おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る