相田美雪

22日目

 ホテルのベランダから夜空を見上げてみる。街灯に照らされていて満点の星空とはいかないが、それでも東京で見る真っ黒な夜空と比べると輝いて見える。昨日はめいいっぱい遊んで、疲れてすぐに眠ってしまった。いつもなら電話をかける夜の9時。長居くん昨日、どんなふうに過ごしていたんだろう。


「電話、かけてみようかな」


 部屋の時計を見ると8時30分。もうすぐ9時だ。電話はしないって言ってあるから、長居くんは待ってないんだろうな。


 でも、声が聴きたいな。


 部屋をのぞいてみると、家族はテレビやスマホを見てくつろいでいる。


「美雪、何してるの?」


「ううん、景色を見てただけ。ちょっと飲み物買ってくるね」


 部屋を出て扉が並ぶ長い廊下を通り抜ける。エレベータを降りるとロビーの広間。この時間は人がまだたくさんいる。あたりを見渡すと、チェックインをした受付は電気が消えていて、その近くは人が少ない。ソファーに腰かけてスマホを見ると20時45分と時間が出ている。はあ、どうするんだろう。


 突然電話したら迷惑かな。毎日30秒の電話。もっとたくさん話がしたいよ。長居くんはどうして、電話は30秒だけなんて言ったんだろう。長居くんはきっと、普通の恋人になりたいよね。ふたりで出かけたり、登下校をしたり、手を繋いだり、その、あの、キスとかしたり。


 私が悪いんだ。電話だけにしたいなんて言ったから。でも、私だってこんな関係をずっと続けたいわけじゃない。どうしたら勇気がでるかな。


 考えがまとまらないうちに、スマホは21の数字を映し出す。


 勢いで指を動かして、電話のアイコンをタップする。


 プルル。


「相田さん、どうしたの?旅行中だったよね」


 電話をかけて体感で1秒もしないうちに、長居くんの声が聞こえる。このいつもの感じ、なんだか安心するなあ。


「ううん、ごめん。なんか急に電話したくなっちゃって」


「・・っえ」


「何も話すこと考えてないんだけどね」


「あのさ」


「何?」


「旅行から帰ってきたら、相田さんに話したいことがあるんだ」


「え?」


「聞いてくれる?」


「うん。もちろん。30秒で話せるの?」


「あはは、がんばるよ」


ブチッ。ツーツー。


私も、謝らなきゃいけないことがあるよ。


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