第46話 町長、説明をする

「...と言うわけで、景気を悪くする税金を減らして、景気をよくする税金を増やしただけだ。だから、町の財政が火の車でもこうやって発展させられたってわけだ」


良夫は、まるで自分で考えだしたかの様に亮平とミーシャさんへと説明を行った。


そこに罪悪感はないかと言われると、多少はある。

しかし、まさか7歳の女の子が考えた政策だとは言えないので仕方ない。


「いやいやいや、何言ってんの?景気をよくする税金なんて、金の卵を産むニワトリぐらいにおとぎ話じゃないか。

こんな分かり難くて長いボケ 初めて聞いたわ。

それで、ホントはなんなの?」

亮平は良夫が本当にボケたと思っているわけではない。そうではなく、良夫がお茶を濁して本当のことを言わないようにしているのだと思ったのだ。


ミーシャさんは亮平のツッコミを聞くまでは、良夫の言っていたことを信じてくれていたようだが、今は半々と言った感じだ。


「まあ、聞けよ。

おとぎ話のような話だけど、ホントなんだから。


このプラマイゼロ政策だけど、要は固定資産税だ。

簡単に言うと、土地にかかる部分を増やして、建物にかかる部分を減らして、プラマイゼロにするって政策だ。

さらに今ではそれをさらに進めて、町民税を減らして、減った分を土地にかかる部分の固定資産税増加で相殺している」


「だからやたら固定資産税がやたらと高けーのか!」

思い当たる節のあった亮平が声をあげる。


「いや、お前んとこは違うだろ。あんな使いもしない広い畑と山を持ってるから高いんだろ」


「うっ、そういや畑と山も俺の土地だったな」

初期投資が10万円と安かったので気にせず全部買ってしまったため、完全に忘れていたようだ。


「えぇー、畑とか山まで所有してるんですか?すごいセレブーじゃないですか!」

ミーシャさんは日本語が上手だが、和製英語は少し変な発音になるようだ。


「とりあえず減らす方は分かるだろ。

建物を建てたり、増設したり、リフォームしたり、設備投資したりすれば税金が上がるって言われたら二の足を踏みたくなるだろ?

それを減らせば当然みんな色々新しく商売しやすくなるし、設備投資や家のリフォームに金を使いやすくもなる。そしてその結果 仕事が増えるってわけだ。

ここまではいいか?」


「まあ、そりゃ分かる。そうでなきゃ俺も資材置き場用に倉庫を建てたりしなかったからな」

亮平は職場でもらってくるリサイクル資材が増えすぎて、もともとあった蔵では足りなくなってきたため、使わない畑もとい雑草畑にプレハブ小屋をDIYで建てたのだ。


「土地の方にかかる税を増やされると一番困るのは誰だ?」


「そりゃ地主だろ?」


「まあ、そうだけど。どういったところに土地を持ってて、どういう使い方をしてる地主だ?」


「駅前の土地ですか?」

ミーシャさんはこれだけ難しい話をしていてもしっかりと会話についてこれている。


「その通りだ。

地価の高い土地を持っている人だ。

だけどその土地をどんな風に使っている人が一番困る?」


「「...」」


「新しくできたあのホテルのオーナーは困ってると思うか?

てか、困るならわざわざ新しくホテルを建てると思うか?」


「何も使ってない人ですか?」

「ミーシャさん、正解。

一等地が高いのには理由がある。

一番儲かる場所だからだ。

一番儲かる場所で儲かる商売をしている人は、税金が多少高くても それ以上しっかり儲げるから、困らない。

一番困るのは、高い土地を持っているだけで、使っていない人だ」


「でも、それってお前言っちゃっていいの?そんなこと?

町民が困ること分かっててやってるってことだろ?

町長として問題にされるんじゃねーのか?」


「もっともな話だ。

だからあまり大きな声では言えない。ここだけの話にしといてくれ」

良夫は少し冗談めかしてそう答える。


もちろん、正当な理由もあるし、後ろめたいことなんて一つもないから知られてもいいのだが、わざわざ自分から波風を立てる必要はない。


「ともかく、駅前とか商店街シャッター街と言った一等地を再興するには、その土地を有効活用できる人に使ってもらわないといけない」


「ようは、使う気もないのにそこに住んでる奴は邪魔って事か?」


「身も蓋もない言い方をするとそうなるな。

そう言った人は、他の人がそこで商売をするのを禁止してしまうわけだからな。

駅前の一等地を占領して、使いたい人をもっと遠くの不便で儲からない土地に押しやってしまう。

そんな儲からない土地で商売を始めてもらおうと思ったら 町が補助金を出さないと採算が合わない。

国や他の街が大枚をはたいて工業団地とか学園都市とか作ってるのはそう言う理由だ。

何もしないならそう言う土地では何も起きない。

他の田舎町が衰退するだけで再興していないように。


でも、こんな田舎町でも、一等地なら自然に商売が成り立つ。

ただ、そのを取り除けさえすれば。

そこなら町が補助金を何も出さなくても勝手に民間で町を再興してくれる」



「うーん、なんか地上げ屋みたいな感じだな」


「ひどい言いようだな。おい。


まあ、正直に言ってくれるだけありがたいけどな。

反論するなら、町は地上げ屋と違って無理やりそこに住んでる人を追い出しはしないんだけどな

ただ、その土地の持つ価値の分はしっかり税金を払ってもらうだけで」


「いや、でも一等地だと相当高くなるから住み続けられないだろ」


「だが、それは住民の選択だ。

駅前の土地が高いのは儲かるし便利だからだ。

儲かるのはそこに人が集まるからだ。


便利なのは、町のサービスが一番充実しているからだ。


たくさん電気を使って夜でも明るくしたり、歩道もオシャレなレンガで敷き詰めたり、街路樹の手入れをしたり、道路の清掃をしたり、犯罪を取り締まったり、全部税金でやって便利にしてるんだ。


それを町の税金で回収するのは当然だろ?」


「そう言われればそうだけど、なんか政治家に丸め込まれた感じでスッキリしねーな」

口は悪いがこうやって面と向かって何でも言ってくれるから、良夫も町長としての肩書を気にせず亮平と付き合えているのだ。


「それじゃ、これはどうだ。

税金を投入してみんなが望むものをどんどん作ったとしよう。

道路、公園、図書館、博物館、美術館、動物園、他にも何でもありだ」


「学校もね」

良夫と亮平の気さくな会話になかなか口を挟むタイミングをつかめないでいたミーシャがここぞとばかりに発言をする。


「もちろん学校もだ。

そしたら当然地価が上がる。

上野町かみのちょうがやってるみたいに積極的にその地価を税金で回収しなければどうなる?」


「まあ、地主が儲けるだろうな」


「そうだ、そしてその土地を借りている人や、その周辺のアパートに住んでいる人の地代や家賃が上がる。

自分が働いたお金の一部を税金として取り上げられ、それを使って公共施設を作ったから、自分の家賃が上がるんだ。

反対に地主は別に特別何かしたわけじゃないのに、収入が増える。

そっちの方が不公平だろ?」


「...ん、でもそれってここ以外の場所は、全部不公平って言ってるようなもんだぞ」


「まあ、そう言うことだ。だけど、そう言った不公平な税制ってのは、いくらでもあるから珍しくはないだろ。

ビールにだけ不当に重い税金を課す酒税とか、自動車産業だけを優遇するエコカー減税とか、数えたらきりがないよ」


「そういや、そうか。

あっ、もうこんな時間か。

ミーシャ、そろそろ帰らないとまずいんじゃないか?」


「えっ、もうそんな時間ですか?

そう言えば、外が暗くなってる」


山あいの町の日が暮れるのは早い。

まだ、6時前だと言うのに随分暗くなっている。

昼前から話続けていることになる。


「ミーシャさん、送って行きますよ。

すいませんね、良夫さんが調子に乗って長々と話し込んじゃって。

本当は夕食もご一緒してもらえたらよかったんだけど」


「お気遣いありがとうございます。

でも、明日からまた仕事なので今日は電車のあるうちに帰ります。

ありがとうございました」


「こちらこそ、引っ越して来たら今度は難しい話はなしでまた来てください。

歓迎しますから」


「Nice meeting you, Miesha. I hope to see you soon.」

真実まみは途中から聞き役に回っていたため、ミーシャと話し足りないようで何やらラインIDを交換している。


名残惜しい別れの後、ミキがミーシャと真実まみを乗せて駅まで送って行ってくれた。


良夫と亮平は話の途中から飲んでいたので家で見送り、その後、久々に二人で飲み交わした。


「で、彼女のことはどう思ってるんだ...」


「お前な...」






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