第42話 外国人、リフォーム談義に花を咲かせる
「DIYが特別好きってわけじゃないなら自分でリフォームなんてするもんじゃないよ」
役場からの紹介で会えることになったステキなリフォームを行っている鈴木
てっきり、彼はリフォームが好きな人なので勧めてくれるのだと思っていたミーシャは意外に思った。
「まず、大概の場合は道具や材料をそろえるだけでプロに仕事を頼むより高くつく。自分の場合は材料をリサイクルで得てるから安くついてるけど、道具代はそれなりにかかってるしね。そして、時間がかかる。この家は1年ほどかけてリフォームしているけどまだ完成したわけじゃない。他にも色々理由はあるけど基本趣味の世界だからまずはDIYが好きじゃないと勧められないよ」
ミーシャの怪訝そうな顔を見て詳しい説明をしてくれる。
「そうですか、正直DIYが好きかどうかわからないです。アパートにしか住んだことないので、考えたこともなかったですし。それに不器用ですから」
「そーんなん、俺も一緒だよ。壊す方は得意だけど作ることなんてやったことなかったからな。でも興味があるなら教えるぞ」
初対面で気難しそうに見えた鈴木氏は意外に気さくで、質問すると嫌がらずに答えてくれる。
むしろ、話すのが楽しいようで、質問したこと以外の話もしてくれる。
訊くと、以前はそれほど人付き合いも良くなかったらしいが、この町に来て、正社員となり、家を買い、地域の人からもそれなりの人物として期待されるようになったことで自信が付き、人との関わり方が変わったのだという。
彼もこの町に来て長くないので、この町が奇妙に感じることに関して相談してみる。
「ミーシャさん、あんたの待遇が良いのは特別なことじゃないよ。俺だって日雇いだったのがこの町に来た途端正社員になれたし、給料も悪くないどころか結構いい。何も交渉すらしてないのに昇給までしてくれた。他じゃありえねぇことだ。俺が思うにこの町では若い労働者が圧倒的に不足しているってことだろ」
彼は40代だが、それでもこの町では若者という扱いらしく、希少な存在なので大切にされているのだとか。
「そうなんですか?でも、でも、私の場合、外国人ですし、手続きも面倒なはずですし、それにホテルだけじゃなくて町役場でも声をかけられたんですよ。どっちの仕事もなんの経験もないのに?変じゃないですか?」
すでにリフォームの話から脱線してしばらく経つが、二人とも
「そうかー?あんた英語が喋れるんだろ。それに日本語も上手いし。それなら仕事の話が来るのは当然じゃないのか?」
「ありがとうございます。でも、そんなことはないですよ。だって、この町に来るまでは何度仕事に応募しても全部書類審査で落とされてましたし、知り合いのALTティーチャーが言うには仕事が見つからなくて国へ帰った人もたくさんいるそうです」
「そうかー。そうだよな。俺もだんだんこの町に毒されてきてるから外の世界の常識がわかんなくなってきてるのかもな。ここじゃ、あんたみたいに若いならそれだけで引く手あまただから それが普通だって感じるようになっちまってるな」
「『引く手アタマ』ってどういう意味ですか?」
「アタマじゃなくてあまただ。ようは引っ張り合いっこになるくらいみんなに求められるってことだ。
若い労働者ってのは並んででも食べたいラーメンみたいなもんだってことだよ」
なんだか訳のわからない例えが出て来るが二人ともお酒が回って来ているので突っ込みはない。
「でも、不思議じゃないですか?なんでこんな田舎にこんなに多くの仕事があるのですか?英語が必要とされる仕事なんて都会にしかありませんよ、普通」
「そういやそうだな。みんないい仕事を求めて都会に出てしまうんだからな。
それになんで こんなに解体の仕事があるんだって話だよ。ボロい建物ばかりだし取り壊した方がいいのは確かだが、他の田舎町で そんなに仕事があるなんて話は聞いたことがないしな」
「そうでしょ、おかしいんですよ。海外からの観光客が多少いるみたいですけど、それだけでこんなに雇用が生まれるはずはないです。この程度で『引く手アマタ』になるなら、わたしが住んでいた高野市の方が何十倍も大きいしもっと『引く手アマタ』になってないとおかしいです」
覚えたての言葉を無理やり何度も文章に入れて話すと少し滑稽に聞こえるらしいが、言葉を覚えるには効果的な方法なのでミーシャは気にせず使う。
亮平は別にそんなことは知らないが酔いが回って来ているので気にしない。
「まあ、そんなんだが、悪いことが起きてるわけじゃねえからいいじゃねえの?」
「でも、なんでこの町だけが発展しているのか知りたくないですか?」
「うーん、気にならなくもないが、俺みたいなブルーカラーワーカーには理解できそうにないな。でも、たぶん理解してる人を知ってるぞ」
「そうなんですか!誰ですか?」
「町長だ。
近所に木工店があって リフォームのために機械を借りたりするんだが、実は町長さんの家なんだ。
そのつてで顔見知りだから、行けば会えるぞ」
「町長さんって、すごく偉い人ですよね?」
「いや、そうでもないんじゃないか。話してると普通の人だしな。そういや、娘さんが少し普通じゃないけどな」
「娘さんはどうされたんですか?」
「まあどこが悪いってワケでもないみたいだけど、なんかちょっと頭が大きい感じの子だったな」
「巨頭症ですか」
「キョトウショウって随分難しい言葉知ってんな。よくわからんが、たぶんそれなんだろ。気になるんだったら明日行ってみるか?いるかどうか知らんが日曜日くらい家にいるんじゃねーか」
「いいんですか?あっ、でもそういやもう帰らないと。すいません随分遅くまで」
「そういや、もう暗くなってきてんな。終電8時で終わりだから間に合わねーな」
「ええー、そんな早いんですか!どうしましょう?」
「ホテルは一つしかねーけど、仕事始める前にいきなり終電乗り遅れてホテルに駆け込むってのもなんだな。
それに送って行こうにも原付しかねーからなー...もし、いやじゃなかったら泊まってくか?」
「いいんですか?ぜひともこちらこそお願い申し上げます」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。部屋は空いてんだからいくらでも使ってくれていいってことよ。何ならアパート見つかるまで使ってくれてもいいくらいだ」
「それもぜひともお願いします。ここで住まわせてもらえたらどれだけ助かりますことか」
「まじか、日本人だとそう言う時、遠慮するモンだが、まあ使う予定もないから使ってくれて構わんよ」
「えっ、そうなんですか?遠慮した方がよかったですか?」
「いやいや、別に遠慮せんでええぞ。ちょっと、違ってると思っただけで悪い意味じゃねーから」
「そうですか、なんか恐縮です。あの、それで家賃はいかほどお支払いすればよろしいでしょうか?」
「えっ、あー、そんな契約すんのとか面倒だしな。それに言っとくけどリフォームしたって言ってもまだまだ鉄筋コンクリートのアパートに比べたら夏は虫が出るし、冬は寒いし、不便だぞ。
家賃を取れるようなもんじゃねーから、掃除とたまに夕飯作ってくれればそれでチャラってことでどうだ?」
「『チャラ』って家賃はそれだけでいいってことですか?」
「ああ、そうだ。家賃は掃除と夕飯だ」
「そんな、なんか申し訳ないです」
「そんなもんだろ。何と言っても、総額10万で買った家だからな。気になるんならリフォームの手伝いもしてくれ、まだあの部屋エアコンつけてねーしな」
「わかりました。それじゃあ、それでチャラでお願いします。それと食費も出させてください」
「分かった、それでチャラだな」
「はい、チャラですね」
こうしてミーシャは目的通り古民家に住むことが出来ることとなった。しかも、自分でリフォームすると言う手間をかけずに。
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