新たなステージ

第28話 新しいお仕事

「「「町長、当選おめでとうございます」」」


選挙事務所として駅前に借りたそれなりに大きな部屋いっぱいに集まった運動員や後援者が声をかけてくれる。


その中には町民ではないが応援に駆けつけてくれた三好先生もいる。

最近は仕事の方で新しいことを始めて忙しいらしく、あまり会えていなかったが選挙期間中はなるべく事務所に顔を出してくれている。


いや、年末調整の時期以外で会う機会はもともとなかったはずなのだが、森田町長に提出した観光振興策を実施する際に相談したら、ボランティアとして色々手伝ってくれていたのだ。

そして、観光資源を調査するため町内の名所めぐりを、三人で何度か出かけるうちにお付き合いさせてもらうことになったのだ。


そんな幸運なことが起こり得るのかと疑ったが、どうやら真実は随分マメに先生とラインのやり取りをしていたようだ...私の知らない所で。

それぐらいしてもらわないと、自分では何もアクションを取らなかっただろうから娘の仲立ちには感謝しかない。


では、なぜ選挙に出ているのか。


それは、森田町長が倒れたからだ。

森田町長が選挙で再選したのが約1年前の4月だから、その10カ月後、年が明けて大雪の2月に心筋梗塞で病院に搬送された。

そして手術で一命はとりとめたものの、公務を続けることが難しくなったため引退を決意されたのだ。


容態の安定した町長は私を病院に呼び出すと、後釜として選挙に出てくれないかと頼んで来た。

当然私は断ったが、街の観光振興策がなぜか上手くいったので、町長は私の手腕が町には必要なのだと力説される。


私は確かに企画書を提出したが、実行したのは町長自身だ。

私もコンテンツの英語化に関しては手伝ったが、PRが上手く行った原因はそこではない。

海外バックパッカーに絶大な信頼を得ている旅行ガイドブックの改訂時に ちょうどよいタイミングで町の情報を紛れ込ませることに成功した謎人物真実がいたおかげだ。

そのおかげで海外からの問い合わせが急増し、観光客の数も増え始めたのだ。


とにかく森田町長は術後の体力のない中、私を必死に説得し、そのままにしておくとまた発作を起こしそうだったので最終的には受けることにした。


私の思惑としては、地盤も、親戚ネットワークもない上野町に来てまだ二年ほどしか経っていない新参者より対抗馬である町議会議長の方に票が集まるだろうから、町長の気持ちを汲んでとりあえず選挙に出馬するだけしておき落選してお茶を濁せばよかろう、と言うものだった。


残念ながら町長が提供してくれた地盤と親戚筋と選挙ノウハウはとても堅強なものだった。その上、私が敏腕社長だという評判を社員たち(すでに10名ほどまで増えている)が普段から過大に喧伝していたため大差で当選してしまった。

丁度、森田町長が再選されてから1年が経つ今年の4月に。









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