第23話 町長選

四月になり選挙戦が近づく中、私たちは森田町長の選挙事務所を訪れた。

選挙運動期間と言うのは投票日前の5日間しかない。

だからと言って、それより前には何もしていないと言うわけではない。


選挙期間の前は選挙事務所となる場所に後援会事務所を設置し、後援会活動をしているのだ。

実際、名前が違うだけでやっていることはさして変わらない。

ただ、選挙カーのような目立つことをしていないだけだ。


後援会事務所は忙しそうだったが、町長には前もって連絡を入れておいたので会ってもらえた。

とりあえず、手伝えることがないか聞きに来た。

上野町の現状もいまいち把握しきれていないので、それほど多くを望まれても困るが少しぐらいは力になれるだろうと思ったのだ。


「これはこらは、杉本。ようこそお越しくださいました」

後援会のボランティアと言うか、親戚の人たちに聞こえるよう町長が大きな声で出迎えてくれた。

「いえ、こちらこそ忙しいところありがとうございます。何か手伝えないかと思って来たのですが、できそうなことはありますか?」

どうやら主な活動はパンフレットらしきものの束を配ることなので、できなくもないだろうと思ったのだ。


「お気遣いありがとうございます。しかし、選挙戦に関してはなんとかなりますので、社長には他のことを頼んでもよろしいでしょうか?」


後で聞くと、どうやらチラシを配るだけではなく、親戚関係の結びつきが強い田舎では人に会って挨拶など会話をすることが大切らしく、地元の人間がする方が良いのだという。


「私は杉本社長が行ったSNSを活用したPR活動の手腕に感銘を受けたんですよ。あれをこの町のPRにも活かせないものでしょうか?」


町長が言うには、上野町はもう林業だけではやっていけないので、他にも何か収入減が欲しいらしい。

いろいろと議会でも話し合われているが今のところ観光業が有力候補なのだという。


一体、何を観光資源にするつもりなのか疑問に思ったが、昔の宿場町と言う歴史と豊かな自然を押しているらしい、と言うかそれ以外にないのだろう。


何か出来ることはないか考えてみる、と返事をして事務所を後にした。



いつもならSNSを使ったPRを行った真実まみに相談と言う名の丸投げを行うのだが、今回は自分で自主的に手伝うと決めたことなので自分の中で少し考えてみると真実まみへ宣言しておく。


町のことを調べたり、観光業について調べたりする必要があるので、すぐにはできないが、それほど急ぐわけでもないのでゆっくりやることにする。





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