第25話 神通力は、竜気の出力。


 映画や漫画を見て、超能力に憧れたことってない? 

 わたしの一推いちおしは、瞬間移動だった。SFの転移より、もっと便利だなって。

 時をけたいとまでは思わないけど、好きな場所にべるのはいいよね。

 

 ファンタジーに出てくる魔力も楽しいけど、現実味が感じられなかったな。

 ゲーム感覚が強いっていうか、やたらと数値化されるところが、ちょっとねぇ。

 ある日突然、今の自分が目覚めるかもっていうドラマチック性がないじゃない。


 この世界の神通力は、数値化されてないけど、ドラマチック性もなかった。

 神通力を上手く使いこなすには、地道な訓練が必要。できるだけ幼いうちから。

 そう、ちょうど、ピアノに似ている。親の意向いこうで、お稽古けいこさせられるところも。


 ピアノを叩けば、誰でも、音は出せる。竜眼族であれば、感情波が出るように。

 この段階は、曲にもなってないから、ただの竜気。神通力とは呼べないらしい。


 一本指でも、メロディを聞き覚えれば、『さくら』くらいは弾けるよね。

 この辺りが、神通力としては、初歩。ショコラは、まだこのレベルだったの。


 本格的に練習するようになると、他人が弾く曲も聞き分けられるようになる。

 この段階が、初級クラスで、他人の竜気を識別する【感知波】を使い始める。


 音楽高校に入学できるのは、ピアノの才能があって、猛練習した人だけでしょ。

 ここまで来ると、中級クラス。【防御波】で身を守れるのは、豪族階級だって。


 音楽大学まで進める人は、難曲も弾けて、他人に教えることもできるレベル。

 これは、上級クラスで、【攻撃波】を放つことができるのは、貴族階級以上。


 どこかの学校に就職して、教師としてやっていけるのは、ほんの一握り。

 指導力が必要で、周囲の竜気を【同調波】でまとめられるのが、王族になる。


 そして、どこかのコンクールに優勝して、ソリストになれるのが、本物の天才。

 帝家、王家に入れるのが、【感電波】まで使う神門じんもんクラスの王族というわけ。


 竜気が強いってことは、手の大きさや指の長さと同じで、生まれつきのもの。

 短い指では、弾けない曲があるように、努力の前に、素質が必要となってくる。

 その点、わたしは、楽勝で2オクターブに届くほど、竜気が強いんだってさ。


 おまけに、腕が4本あって、ひとりで連弾を弾けるくらいの竜気量だって。

 腕が4本――どんな化物なんだよ。それって、突然変異か何かか?

 きゃー、わたしってば、天才だったんだね、と喜べるはずがないでしょうが。


<喜ばなくてもいいから、次のページ開いて>


 ソラ先生は、シビアかつクールに命じられた。

 どうやら、上司に、もっと厳しく教育しなければ、わたしを成長させられないと助言されたみたいなんだよね。

 わたしは、甘くて優しいチューターの方がいいのに。


 どこのどいつだ。そんな余計なことを言った竜は。

 いやいや、追及するのはやめよう。他に覚えることが山のようにあるのに、竜の上司を気にしてる暇なんかない。

 竜の社会組織なんかより、竜眼族ひとについて知るのが先なんだよ、先。


<はいはい。次のページね> 


 今日は、絵本が数冊届いたので、わたしは、それを眺めながら(帝竜国語は読めない。楔文字みたいな模様よ)、ソラ先生の講義を受けているのだ。二時間近くたつのに、まだ一冊目の半分。補足説明の方が長いので、なかなか進まない。


 竜気の制御を学ぶには、竜気とは何かを知らねばならぬというわけで、パチンコ台の実習と並行して、座学が始まったのよ。もう、他の教師なんか、いらないんじゃないのかな。ソラ先生は、何でも知っていらっしゃるようだし。


<これは、竜気の流れを水の流れとして表した絵ね。イメージしてみて>


 なるほど。竜気というのは、水流のようなものなのか。

 人や竜の中には、竜気が流れる水路があって、竜気がたまれば、ダムを作る。

 そのダムを力場りきばと言って、力場が大きいほど、竜気量が多いとみなされる。


 力場と力場は、上水道みたいな気脈きみゃくで、お互いに繋がっている。

 その気脈が、太いものを気綱きづなと呼ぶ。ソラとわたしの気綱は、特に太い。

 力場から気脈に竜気を流す勢いが速いと、竜気が強いと感じられる。


 うん。なんとなく、わかってきた。あの白い光は、水なんだ。

 竜界は、竜気の上水道が張り巡らされて、できてるってことね。

 そして、魔力は、水と混じらない油みたいなもんで、弾かれるわけよ。


<うん。イメージできたと思うよ、ソラ> 


 わたしは、次のページを開きながら言った。

 この調子で、どんどん行こう。そう思ったのに、早くもつまずいた。

 円形が八分割された図に、何やら書き込みがいっぱい。全然読めんぞ。


<これは、[横八門]よこはちもんと言ってね。神通力の種類を表してるの>


 たしかに、東西南北が、更に二つに分かれて、八色に色分けしてある。


<ここが、一番重要な起点の[艮門]ごんもん。それから、[震」しん[巽]そん[離][坤]こん[兌][乾]けん[坎]かんの七門。全部で、八門になるのよ>


 ソラは、キツツキ嘴で、東北の『白』から、時計回りで、図を突いていく。


<[艮門]は、竜気が竜気として出入りする門でね。竜眼のことを[艮門]とも呼ぶの。あと、【感情波】とか【防御波】とか【攻撃波】、あれは全部、【艮門波ごんもんは】のカテゴリーに入るのね。それで、【艮門波】しか使わない竜眼族を[艮門系]、または、[マーヤ系]と言うわ>

<マーヤって、御先祖さまのひとりだっけ? あの何とか四子よんしの>


<そう。王祖四子おうそよんしの長女。帝母マーヤ。末っ子の次女が、時宮セルシャね。[艮門系]以外の神通力を使う竜眼族は、[七門系しちもんけい]か、[セルシャ系]と言われるの。【心話】や【遠話】、【転移】といった神通力は、[七門系]になるわ。ダルカスのような誓神官は、みんな、こちらの系統よ>

<ふうん。何で区別するわけ? どこが違うの?>


<帝竜国は、[艮門系]で、他の国は、[七門系]が多いのが、一つ。[艮門系]は、四本指で、[七門系]は、五本指が多いのが、二つ。男性の王族は、[艮門系]だけど、帝家や王家は、[七門系]になるというのが、三つ。でも、一番の違いは、四つ目ね。[艮門系]の男性は、生殖能力があるけど、[七門系]の神通力者は、中性なのよ。五本指の男性もいることはいるけど、比率的には、少ないの>


 [艮門系]が、[マーヤ系]で、四本指は、男性。

 [七門系]が、[セルシャ系]で、五本指が、中性。


 よし、覚えた。すぐに、忘れそうだけど。


<女性には、中性がいないわけ?>

<不妊症の女性も、ごく稀にいるけど、ほとんどは、妊娠すると、神通力が使えなくなる女性型だから>

<出産すると、すぐに使えるようになるの? 授乳しているときは?>

<授乳? あぁ、竜眼族は、歯を持って生まれてくるから、授乳期はないのよ。異種族とは違って。だから、出産が終われば、神通力はすぐに回復するわ>


 何ですと? 

 あっさりとしたソラの答えの中に、聞き捨てならない話が出てきたぞ。

 授乳期がない? それって、哺乳類じゃないってことにならない?


<ちょっと、待った。授乳しないってことは、お乳が出ないってこと……?>

<うん。乳腺なんて、必要ないもの。竜眼族は、竜類に近いのよね。人は、一応、胎生だけど、ごくごく稀に、竜眼族の男女から、竜の卵が生まれることもあるし>


 更に、驚愕の新事実が明らかに! 

 聞いた? 竜眼族は、竜の親類だってさ。


<人が、竜の卵を産むの?!>

<四十年に一個くらいはね。おかしい?>

<おかしいよっ! 四百年に一個だろうと、四千年に一個だろうと、おかしいでしょうがっ。おかしいったら、絶対に、おかしいって!>


 どうなってんのよ、ここの遺伝子は。卵生と胎生が、チャンポンだって?

 あぁ、そりゃ、ダーウィンの法則が成り立つとは、思っちゃいなかったけどさ。

 いくら異世界だって、こんなのってないよ。脳味噌が破裂しそう……。



 どうやら、わたくし、人間をやめただけではなくて、哺乳類ですらなかったようでございます。とほほほ……。



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  [ 横八門よこはちもんの神通力 ]  ※興味のある方のみ御覧ください。


[艮門]ごんもん 第一門の北東――白……防御波 攻撃波など。


[震門]しんもん 第二門の東―――黄……心話力 翻訳力など。


[巽門]そんもん 第三門の南東――橙……遠話力 暗示力など。 


[離門]りもん 第四門の南―――赤……隔視力 予知力など。 


[坤門]こんもん 第五門の南西――緑……瞬動力 転移力など。 


[兌門]だもん 第六門の西―――青……念動力 浮動力など。


[乾門]けんもん 第七門の北西――紫……変換力 変動力など。

 

[坎門]かんもん 第八門の北―――黒……透視力 再視力など。



  [ 縦四門たてよんもんの神通力 ]


[神門]じんもん―――帝家、女王や竜王の最高クラス。


[大門]だいもん―――王家、宮家、宝家の王族クラス。


[中門]ちゅうもん―――貴族、豪族クラス。初歩、初級、中級、上級に分かれる。


[小門]しょうもん―――平民クラス。もしくは、訓練前の幼児。

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