第10話 この転生が、幸せに続く第一歩

「さてと、そろそろ良い時間なので、おいとましますね」

「はい。子供達の相手をしてくれてありがとうございました」

「いえいえ。夜空も楽しかったみたいですし、また機会があればこちらにも寄らせていただきます」


 遊び疲れておねむになってしまった子達を布団にいれてあげてから、僕は夜空を小さくして肩に乗せた。ついさっきまで楽しそうに鳴いていた夜空も、空気を読んでか全然鳴かない。だから僕は、お疲れさまと良いながら、彼女の頭を撫でてあげた。


「ではリヒトさん、行きましょうか!」

「……僕は帰る予定なんですが」

「大丈夫です! 向かう先は同じですから!」

「え、っと……? ポルカさんも竜の羽休め亭に用があるんですか?」

「私はないのですが、先程のエスメラルダちゃんからの手紙に、夕方辺りに時間を合わせて来いと」

「なんでしょうね……。エスメラルダさんも来るってことでしょうか?」

「いえ、その辺りは書かれていなかったので」


 静かにそーっと……それでいていそいそと、二人して外へ出る準備を進め、音を立てないように急ぎ足でゆっくり孤児院を出た。


「夕方になると、少し涼しいですね」

「ええ。お昼は暖かいですが、夜になると風が出てきますから。リヒト君も、風邪などを引かないよう、常に一枚余分に持っておくことをオススメします」

「気を付けておきます」

「私も、ついうっかり夜まで教会で寝てしまい、気付いた時には身体を冷やしてしまっている事が多いですから。油断大敵、ですよ」

「油断してるのはポルカさんでは……」


 むしろ誰か一人くらい起こしに来てあげないのだろうか?

 でも、起こしたとしても立ったまま寝るくらいの人だし、もはや諦められてるとか……。


「まぁ、私は病気も治せるすごく有能な回復魔法の使い手ですので、風邪を引いたとしても、自分で治してしまえるのですよ」

「ああ、なるほど。便利ですね」

「そのせいで、どんなに体調が悪くとも、休む事の出来ない……素晴らしい状態に……」

「ポルカさん、今は別の事を考えましょう、ね? ね?」


 どんどん顔がブラックになっていくポルカさんの手を取って、意識を引っ張り上げるように声を掛ける。するとその行動が効を成したのか、次第にポルカさんの顔色が戻ってきた。

 よし、ここで話題を変えれば!


「ポルカさん。ひとつ気になっていた事があるのですが」

「はい。どうされましたか?」

「ポルカさんって、なんで神官をされてるんですか? 適性が回復魔法しかなかった、といえど冒険者や他のお仕事は出来るでしょう?」

「そうですね……。恩を返したかった、というのが大きいでしょうか」


 そう言って、ポルカさんは思い出すように一瞬瞼を閉じ、ゆっくりと話し始める。

 まるで慈しむような声色で……。


「実は私も孤児だったのです。魔物が大量に一方向へ流れ込む現象――通称“スタンピート”と呼ばれる災害に、運悪く住んでいた村が巻き込まれてしまい、親兄弟、親戚に至るまで、全てが亡くなってしまいました」

「……それは、なんていうか、その、」

「いいんです。今となっては心に折り合いも付いていますから。……そして、その後この街ではない街に流れ着き、孤児院に入ることができました」

「なるほど……それで恩」

「いえ、正直なことを言えば……教会に対しての恩、というわけではないのです。私が恩を返したいのは、私を慈しみ、育ててくれた女性神官、クレアという方に対してなのです」


 語るようにゆっくりと、そして時折思い出すように微笑み、ポルカさんは話を続ける。


「クレア様は言いました。“神官だからと、教会に心を捧げる必要は無い”と。彼女自身、少し型破りな女性だったみたいで、孤児院まで届く怒号をよく聞いた気がします。……ちなみに、私の土下座はクレア様に教えて貰ったものなんですよ」

「なるほど。どういう人かなんとなく分かりました」

「さらに、クレア様は私を特段に可愛がってくれて……よく一緒にお昼寝もしたんです」

「教会の椅子の上で?」

「そうです! すごいですね、よくわかりました!」

「今の流れで分からない人は、話を聞いていない人だと思いますよ!?」


 謎が一気に解けた……というか、ポルカさんの奇行はほとんどその人が原因か。

 でも、そのクレアさんはなんで、教会を信じない方が良い、みたいな感じのことをポルカさんに伝えたんだろう? 神官になるなら、教会のことを信じていた方が気軽な気がするんだけど……。


「とても簡単な説明でしたが、なんとなくは分かっていただけたでしょうか?」

「ええ、ありがとうございます」

「ちょうどお店にもつきましたし、夜風が冷えてくる前に入りましょう」

「そうですね。夜風は冷えますから」


 風邪を引いたときは練習も兼ねて、自分でやってみてくださいね? と、聖職者にあるまじき手のひら返しを見せつつ、ポルカさんは我先にとお店の中へと入っていく。

 そんな姿にため息を零しつつ、僕もその後を追った。



「リヒト、初クエスト達成、おめでとー!」

「わひゃ!? な、なに?」


 ポルカさんの後を追って入った僕を待ち構えていたのは、沢山の人の“おめでとう”コールだった。

 特に声が大きかったのは、出迎えてくれたティアちゃん。

 正直、真横で大声を出されたのは生まれて初めてだったので、鼓膜が破れそうな感覚というのを初めて体感した。すごく……大きいです……。


「ティアちゃん、これって」

「うん。今日、リヒトがクエストを受けてから、みんなに根回ししたの。みんなって言っても、本来ボクが招待したのは、モーガンさんとエスメラルダさんだけだったんだけど……」


 そう言って、ティアちゃんは困ったみたいに頬を掻く。

 それでも、そんな風に根回ししてくれたのは凄く嬉しい。僕のためにこんなに人が集まってくれるっていうのが……なんだかジーンと来てしまいそう……。


 そんなことを思いながら、涙をグッと我慢していた僕の方へ、飲み物を手にしたモーガンさんが話しかけてきた。


「おう! リヒト、教会には行けたみたいだな」

「おかげさまでなんとか。夜空が頑張ってくれたので」

「ピッ!」

「リヒト君、回復魔法は覚えられましたか?」

「はい! ポルカさんに、魔力量とか適正魔法も調べていただいて、回復魔法も教えて貰えました!」

「えっ!? リヒトの魔力量とか適正魔法って何だったの? 教えてー!」


 モーガンさん、エスメラルダさんと話をしていると、傍で給仕をしていたティアちゃんが乱入してくる。

 どうやら、適正魔法や魔力量がわかるだけでも、冒険者としての大成が予想できるものらしい。あと、ただ単に人の適正魔法とかは気になっちゃうってやつかな?


「僕の魔力量は……たしか、すごいいっぱい! だったと思います」

「……なんだそりゃ? お前ホントに調べたのか?」

「ポルカ、ちゃんと計ったの?」

「なんだかすごい雑な結果だね。リヒト……騙されてたりしない?」


 三者三様に言いたい放題だ! でも、納得しちゃう!

 やっぱりどう考えても、“すごいいっぱい”っていう結果はおかしいよね!? ね!?


「……スヤァ」

「計った本人、到着早々に寝てる……」


 もはやこの人は一体なんのためにここに来たのかすら分からない……。

 きっと、夜風に当たって冷えた身体が、室内の暖かい空気に触れて眠くなっちゃった、ってやつなんだろう、そう思おう。


「……で、魔力量は百歩譲って良いけどよ、適正魔法は何だったんだ?」

「えーっと、たしか……適正が高いのが、召喚と回復。普通くらいが、空間と生活と、変質? だったかな」

「四属性魔法が一つも無いというのも珍しいですね。エルフの冒険者の方は、皆さん魔力量も多く、四属性のどれかを扱えることが多いので、魔力を大量に使う大魔法で戦う方が多いのですが……」

「でもなんとなく納得出来るかも。リヒトってあんまり攻撃に向いてない感じするし」

「確かにな。それを言ったら、冒険者って感じもしないけどな」


 「だよね!」と、モーガンさんとティアちゃんは二人で盛り上がる。

 そうして、ある程度話が纏まったところで、モーガンさんは「そんじゃ、俺は先に帰るぞ」と席を立った。


「モーガンさん、ほとんどご飯食べてないですよね?」

「家に妻と娘が待ってるんでな。あんまり遅くに帰ると心配させちまう」

「なるほど。ご家族にモーガンさんをお借りさせていただき、ありがとうございました、とお伝えください」

「おう。そんじゃ、またな」

「はい。おやすみなさい」


 片手を上げて去って行くモーガンさんを見送った後、残ったメンバーの方を見ると……エスメラルダさんの横に一人知らない人がいることに気付いた。

 むしろなんで今まで気付いてなかったのか……誰かと話でもしてたのかな?


「あの、エスメラルダさん……そちらの方は?」

「あ、ご紹介が遅れましたね。この人はラトグリフさんです。ビスキュイ冒険者ギルドのギルドマスターですよ」

「えぇ!? なんでそんな人がココに!?」

「私が連れてきました」


 驚く僕の目の前で、エスメラルダさんがドヤァと得意げな顔で胸を張る。

 エスメラルダさんって結構真面目で、優しいけれど少し硬いってイメージだったんだけど……あれは仕事用の顔だったのか。騙されてしまうとは……不覚。


「君がリヒト君だね。私はビスキュイ冒険者ギルドのギルドマスターをしている、ラトグリフだ。先日大型の鳥系魔物と契約している召喚術士が現れたと聞いてね。こうして会いに来たのだ。初めてのクエストクリアおめでとう。君が上に上ってくるのを楽しみにしているよ」

「は、はい。がんばります」

「ちなみにね、リヒト。その人、八英雄の一人。片翼のラトグリフって人なんだよ」

「……え、えぇぇぇぇ!?」


 ボソッとティアちゃんに耳元で零された情報に、僕の脳が大混乱を起こした。

 八英雄ってさっきポルカさんに聞いた、子供達に人気の英雄って人でしょ!?

 なんでこんなところにいるの!? ホイホイ出会えるような人じゃないでしょ!?


「あ、あわわ……」

「緊張しなくて良い。今はただの気の良いおじさんだ。それよりも、君……適正魔法に召喚と変質が入っていると言っていたね?」

「そ、そうです、けど」

「いや、懐かしいと思ってね。リークランシェも同じ魔法が適正に入っていたからね」


 そう言って「はっはっは」と快活に笑う気の良いおじラトグリフさん。

 リークランシェってたしか、森羅のリークランシェって人でしょ……? 八英雄じゃん……。

 その後も、ラトグリフさんから出てくる人の名前に一々驚かされ続けたことで、僕は心身共に疲れ果て、休憩も兼ねて、少し夜風に当たりに行くことにした。



「あー気持ちいいなー」


 少し寒気を感じそうだけど、熱くなった身体をほどよく冷ましてくれる風に、僕は一人、地面に座り込むようにしながら当たっていた。

 ちなみに、僕の隣より食い気を優先した夜空は中に置いてきた。今頃沢山食べてることだろう。


「うわ、ちょっと寒いね」

「ん? ティアちゃん、どうしたの?」

「リヒトが外に出るみたいだったから、一人じゃ寂しいかと思って」


 そう言って僕の隣りに腰を下ろし、ジュースの入ったグラスを手渡してくれる。

 こういった所が非常に気配り出来る良い子なんだよね……男だけど。

 それに、僕の初クエストクリアをお祝いするためだけに、いろいろ走り回ってくれる子だし……男だけど。

 なにより、月明かりに照らされて見える顔がとても可愛らしい……男だけども。


「ねぇ、リヒト。回復魔法ってどんな感じなの?」

「ん? んー……不思議な感じかな? 開いてた傷が一瞬で塞がっていくのは、自分でやったにしても、微妙に納得ができないよ」

「あはは。そうなんだ」

「ティアちゃんは適正魔法とかって調べてないの?」


 何の気なしに訊いた問いに、ティアちゃんは「うぐっ」と言葉を詰まらせる。

 なんだろう、何か変なこと聞いたかな?


「あ、えーと……その……」

「ん? いつものティアちゃんっぽくないなぁ」

「あ、あはは……。ねぇ、リヒト。少しだけボクの話を聞いてくれる?」

「うん、いいよ」


 気負いもなく受け入れたことに驚いたのか、ティアちゃんは僕の顔を見て少しだけ固まる。

 けれどすぐに大きく息を吸って、話し始めた。


「あのね、ボク。昔は冒険者になりたかったんだ。父さんが買ってきてくれた英雄の本に憧れてね」

「英雄の本? ラトグリフさんみたいな八英雄の?」

「そうそう、そういうの。ボクが憧れたのは救国の戦士の物語。自らの育った国のために、自らの命を賭して戦い、国を救った英雄の物語だよ」

「その人の名前って……もしかして」

「魔槍のフライオーデン。魔槍グングニルを所持していた英雄さ」


 魔槍グングニル――なるほど、だからティアちゃんの決めゼリフが“ボクのグングニルが、君を穿ちたがってるんだ”だったのか。

 いや、普通に考えておかしいよね!? 憧れの英雄の武器を、自分の×××ピーに当てはめるとか、色々とおかしいよね!?


「救国の戦士の物語は、国を救う最後のシーンが一番人気なんだけど、ボクが好きなのはもっと前……彼が数々の冒険を繰り広げる所なんだ。沢山の人と出会い、別れを繰り返し、幾たびの危険を乗り越えて、ようやく手にした力……それが魔槍グングニル」

「……」


 その英雄、苦難の末に手にした武器の名を×××ナニとして扱われていると知ったら、悪霊として復活しそう……。

 どうか安らかにお眠りください。お願いします。


「ボクはね、英雄になりたかったわけじゃないんだ。ただ、彼のような冒険をしてみたかった」

「まだ諦めるのは早いんじゃないの? だって、ティアちゃんはまだ……」

「ダメなんだよ。ボクには魔法も戦闘の技能もない。運動がとても苦手で、後から始めた子にだって簡単に追い抜かれてしまうし、魔法も……魔力は少ないし、適性も生活魔法だけ。これじゃ、冒険者になったとしても、すぐに死んでしまうから」


 淡々と話すティアちゃんの顔は、いつもの可愛い顔ではなくて……まるで機械のように感情が消えていた。

 きっと、もう何年も……自らの気持ちを、自分自身で抑えつけて、無理矢理納得してきたんだろう。


 その気持ちは僕にだってよくわかる。

 四肢が動かなかったあの頃は、両親や看護師さん、医師の皆が来てくれるだけで幸せだった。

 けれど、神様と会った時、四肢を動かせると分かった途端……僕はもっとやりたいことがあったと、気付いたのだ。

 今から思えばアレは、四肢が動かないことが“当たり前”だったから、そのことを考えないように、諦めるように……僕の心が動いていただけなんだろう。

 自分には出来ないから、だから……望まない。でも――


「出来る身体があって、それをしないのは……」

「ん? リヒト、どうかした?」

「いや、なんでもないよ。ティアちゃんが決めたことなら、僕は何も言えないから」

「そう……だよね。うん」


 歯切れの悪さに、もしかしてまだ冒険者への未練は断ち切れてないのかも? と思ったけれど、僕がそれを言うよりも先に、ティアちゃんは立ち上がり、一歩前……誰もいない通りへと身を躍らせた。


「それにね、今は……こうして、冒険者さんのお手伝いをするのが、とても楽しいんだ。だから大丈夫。ボクは間違ってないよ」

「ティアちゃん……」

「うへぇ、寒くなってきたね。リヒト、戻ろう」

「あ、うん」


 クルッと僕の方へと向きを変えたティアちゃんの顔は、いつもの可愛らしいティアちゃんの顔で……。それでもなんだか、泣いてるような顔にも見えてしまって、僕はこれ以上何も言えなかった。



「ふ、ふへー……お腹いっぱいだね」

「ピ、ピィ……」

「夜空は食べ過ぎだと思う。最後の方は僕の分も食べてたし」

「ピィィ……」


 ティアちゃんと外で話した後、皆と楽しく談笑しつつご飯を食べ終わった僕は、今借りている部屋のベッドの上で、夜空と倒れていた。

 夜空は完全に食べ過ぎなのか、最早飛べていない。

 あれだね、飛べない鳥はただの鳥ってやつだ! いや、ただの鳥は普通飛べるから……鶏?


「夜空、おいでー」

「ピッ」

「夜空のこの、ちょっと硬めだけどフワッともしてる羽が気持ちいいよね。もふもふ」

「ピッ、ピィィ……」


 不用意にテトテトと近づいてきた夜空を、ガバッと抱きしめて柔らかさを堪能。今の夜空は、お腹いっぱいで動けないし、なすがまま! まな板の上の鶏状態だ!


「……ねぇ、夜空」

「ピ?」

「皆、いっぱい色んな事を考えて生きてるんだね。僕、それすら知らなかったよ」

「ピィ」


 僕の生きてきた世界は、白い天井の物々しい機械が沢山置かれていた、あの場所。

 少しだけだけど、勉強を教えてもらっていた時期もあった。もちろん手なんて動かないから、見たり聞いたりっていう勉強だったんだけどさ。


 だけど今思えばあの世界には……将来を悩んで、考えるなんて事は無かった。

 皆いろんな話をしてくれたけれど、そのどれもに、将来って話は含まれてなかった気がする。

 きっと、僕が長くないことを、皆知っていたからなんだろう。


「だから今日、ポルカさんやティアちゃんの話を聞いて、不思議な感じがした」

「ピ」

「病気も無く生まれてきても……自分の自由には生きられないんだって、初めて知ったよ。僕、病気がなかったら、きっと自由にいろんな事が出来るんだって思ってたから」

「ピィ……」


 腕の中に夜空を抱きかかえながら、ポツリ……ぽつりと話せば、夜空はしっかりと話を聞いてくれる。

 だからこそ、夜空に訊いてみたいことがあった。


「……ねぇ夜空。僕、どうすればいいのかな? 皆になにかお返し出来る事とかってないのかな?」

「ピ」

「ん?」


 僕の問いかけに、夜空がもぞもぞと腕の中から抜け出してくる。

 まるで、スポンッと抜けるように飛び出してきた夜空は、僕の頭を翼で叩き……「ピッ!」と鳴いた。


「え?」

「ピッピピー!」

「よ、夜空さん? 何を?」


 そして突然宙を舞い、ベッドの上を走り、「ピィ……ピィ……」と息を切らせるような仕草をして、胸を張る。

 なんだろう、何かを伝えようとしてるのは分かるんだけど……ただひたすらに可愛いだけである。


「えーっと……もしかして夜空。自分の出来る事を最大限にやれってこと?」

「ピッ!」

「そっか、それでいいのか」

「ピィ」


 それでいいらしい。

 そっか、それなら僕にもできそうだ。


「なら頑張ってみる! どんなことが出来るか分からないけど、やれるだけやってみるよ」

「ピ! ピッ」


 ベッドの上に座って、気合いを入れた僕の肩に夜空も乗って、一緒に気合いを入れてくれる。

 まるで一緒に居るよって言ってくれてるみたいだ。


「せめて今日、皆が応援してくれた分くらいは返さないとね!」

「ピッ!」


 ティアちゃんに、ケッツンさん、ブランディさん。それに、ポルカさんとエスメラルダさんに

モーガンさんとラトグリフさん。

 あと、この世界に来させてくれた神様。

 

 そして、この世界で幸せになって欲しいと願ってくれた父さんと母さんのためにも、僕は精一杯生きなきゃいけない……いや、生きてやる!


 この転生が、幸せに続く第一歩なら、僕は二歩三歩と進んでいくんだ。――夜空と一緒に!


「よし! ……眠いし、とりあえず明日から頑張ろう」

「ピィ……」


 バタリ、と力尽きた様に僕らはベッドに倒れ、瞼を閉じた。


 その日見た夢は、父さんと母さんが優しく手を振ってくれていた気がした。

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