(理想の王子様)
No.
第1話
2×××年、春。
かよこは大学構内の桜にスマホを向ける。
雨風にゆらゆらと散る桜吹雪。
ぼんやりと灯りがともる街灯。
自分だけしかいない世界。
「風邪引くよ?」
「わっ!」
ふいに傘で視界が遮られた。慌てて飛びのけぞると、そこにはいつもの優しい笑顔がいた。
「はるか!!」
「びっくりしすぎじゃない?どんだけ自分の世界に入ってんの。スマホも濡れるよ?」
「いやー‥一句読めそうな夜桜だわと思って。」
「相変わらずの変人ぶりね。今まで自習室いたの?」
等等、しゃべりながら歩き始めた。18時から3時間、自習室でテスト勉強をしていたのだ。自習室は22時まで空いている。かよこ達は法学部生。そのうちテストの話になり、優秀なはるかはどこそこの判例が出るんじゃ?とかためになる話をしてくれる。
自宅近くのコンビニに差し掛かったところで、じゃ、気をつけてね、と手を振りあった。
自宅に帰ったあとはぬるいシャワーを浴びて髪を乾かして、寝る。
3日後にテストを控えたお腹はぽんとふくらみ、肌荒れはすさみ、口には口内炎ができてる。お菓子をやけ食いしないとやっていけないのだ。
ああ、彼氏なんかだから出来ないんだわ〜と妙に納得したところで、ふと閃いた。
テストが終わったら、ダイエットして、合コンしよう!!
「月が綺麗ですね、ってアイラブユーの意味なんだとか。」
テストが終わった後の焼肉で、ネット依存症のあけみがなかなか素敵なことを教えてくれた。もちろん、前後の話あっての話だが、その話が妙に心に響いた。あけみ、はるか、かよこ、たけよしのいつもの四人メンバーでガールズトークが炸裂する。いや、実は一人だけ本物じゃないガールでも、はたまた本物のガールでもない、本物のボーイが混じっている。
「たけよし、お水とって!」
「ただいま!」
いつもは面倒見いいはるかだが、たけよしは小学時代からの幼なじみ。部活の先輩後輩みたいな関係になっている。同い年だが。
そこにややオタク気味なワンテンポずれたかよこと、完全オタクなあけみがいつの間にか加わり、絶妙なバランスを保っていた。たけよしはいつもニコニコした良いやつで、いまだにオタクなのかなんなのかよくわかんない。はるかはただの常識人。2人付き合ってるの?みたいな話になったこともあったが、完全にまったくそれはないことが分かり、つまらないと思いつつ、平和で良かったとも思った。
「ところでさ、みんな相手いないし、合コンしない?たけよしがあと3人男の子連れてくればよくない?」
「俺があぶれるじゃん。あと1人女の子連れて来いよ。」
「待て待て待て待て。私の意思も聞け。」
あけみが遮る。
「私、そういうの苦手。自信ない。」
「あけみ、メガネ外せば美人のくせに〜」
「メガネがないと見えない。以上。」
「ちとせ君。」
はるかがポツリという。
「男の子は1人、ちとせ君確定な。たけよしの親友やもん。」
かよこはちとせ君の名が出た時のあけみのわずかな動揺を見逃せなかった。
「あけみ、無理はせんでいいんよ?」
「んー‥でも人足りんのやろ?出たる。」
さすがはるか!みんなが思ったが、みんな何も言わない。あけみが酔っ払った時にちとせ君を理想の王子様!と崇め奉ってた話など、みんな知ってるが、みんな何も言わない。
わいわい、がやがや。みんなで一つの合コンを完成させていく。みんながみんな抱えているものがある。不安、期待、淡い恋心。そんな中、悪ふざけしながら、一番ノリノリになりながら、心の中で一つの疑問が渦巻いた。
私が恋をするだろうか?
感覚は、あの桜を見る心と似てる?
スマホの写真を見せながら、つっこまれながら、夜は過ぎ去っていく。
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