緑人鬼の襲来
桑昌実
1
収穫祭を終え、ふたたび日常に戻ったはずの『追い剥ぎの町』はしかし、騒然としていた。
奴隷商人ダミタルの首が、城壁の外にさらされていたのだ。その家族も行方をくらませている。
町雀たちは、彼の物故を惜しみこそしなかったが、兇漢がいまだ天下を往来していることには不安の念をあらわした。一方、陰謀に関わった者たちは、ひそやかな
そしてまた、すでに実行犯ジフィトーが捕らえられたことを知る者もごくわずかにいた。
ジフィトーと名乗る男は、貴族の屋敷にしては質素な執務室に通された。
ガラスの張られた大きな窓を背にして、重厚な執務机のむこうに、彼の身元引受人となった貴族、ボワダンが座っていた。
「お目にかかれて
ボワダンは机の上に身を乗り出して手をさし出した。
ジフィトー、改めバロシャムは、本名をいい当てられたことに驚きもせず、ボワダンの手を握り返した。
「こちらこそ、ボワダン将軍閣下。というより、お久しぶりと申すべきかな」
「将軍はおよしなさい。いまでは痛風がひどくてねえ、馬にも乗れないありさまですよ」
元将軍は小太りで背が低く、
ふたりはしばし、思い出話に花を咲かせた。
収穫祭へおもむいた折に、闘技場でバロシャムを見かけた、と彼は語った。思うところあって、居どころを調べさせようとした矢先にこの事件だ、という。
「このたびは
いかにも身を案じるような顔でボワダンはいった。真意を
ここへ連行されたということは、ボワダンは町の治安を守る責任者なのかもしれない。それどころか、ダミタル側の人間という可能性さえある。いま、バロシャムの生殺与奪の権は、彼の手に握られているといってもよかった。
「まあ、その件はよろしい。さいわい、卿が関わっていることを知る者も少ない。今日お招きしたのは、別のお話でして」
バロシャムの考えを知ってか知らずか、彼は告げた。
「わがあるじに、卿を推挙したいのです」
ボワダンの主君に仕えないか、ということである。
そう申し出るからには、現在バロシャムが領地を持たない漂白の身であると、知っているか、少なくともそう考えている。また、身柄を引き受ける過程で、ジフィトーという偽名も耳に入っているに違いない。
かつては爵位まで
しかしバロシャムは、
「身に余るお話ですが、お受けできません。ご容赦を」と、率直かつ丁重に、辞退した。
ボワダンは眉を上げたものの、「卿が望まないのであればしかたがない」とあっさり引き下がり、
「そのかわりといってはなんですが、ひとつお力をお貸し願えませんかな」
と、いかにも
彼の依頼は、
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