初恋の想い出

勝利だギューちゃん

第1話

小学4年生の頃の担任の男性教師は、

まるで、大昔のテレビドラマに出てくるような、教師だった。


悪い意味ではなく、生徒との交流を大切にしている。

そのために、休みになると生徒を引き連れて、遊びに行っていた。


その日は丁度、登山に行った。

先生や、級友たちは、とても、楽しそうにしている。

元気だな・・・


僕はというと、正直な話、そんな体力は持ち合わせていなく・・・

「もう、限界。少し休もう」

「だらしないわね。それでも、男の子なの?」

「僕は、か弱いんだ」

「私は、女の子だけど、平気よ」

「君は女じゃない」


ゴツン


「聞えなかったな。もう一回言って」

「君は、女の子のなかの、女の子です。」

「よろしい。100点満点」

頭を撫でられる。


この子は、体育会系の女子で、リトルリーグに入っている。

エースとして、活躍している。

数多い男子を押しのけて、レギュラーになったのだから、たいしたものだ。


「私、将来は、女子プロ野球の選手になるんだ」

「君なら、なれるよ」

「ありがとう。でも、努力は続けないとね」

とても、生き生きしている。


それに引き換え・・・


「さあ、休めた?」

「どうにか・・・」

「じゃあ、行こうか。みんなを待たせたら悪いしね」

彼女は手を差し出して来た。


もっと、ごつごつしていると思ったら、年頃の女の子の手だ。


「私は、サウスポーだからね」

「そうなの・・・」

納得した。


それから、10年の時が経った。


小学校を卒業してから、都会に引っ越した僕は、

久しぶりに、生まれ育ったこの村・・・

いや、町になったんだな・・・


帰ってきた。


愕然とした。

ある程度の、発展は覚悟していたが、もう別世界。


ここまで、変わるものなのか?


あの日の山を見た。

ロープウェイが、開通している。


「久しぶりに、登ってみるか」

あの山へ、向かった。


「よう、元気だったか?」

後ろから声をかけられる。

「あっ、先生、お久しぶりです」

懐かしい担任の顔がそこにはあった。


教師は何年経っても、受け持った生徒の顔を忘れないのは、

本当のようだ。


「じゃあ、生徒を待たせてるから、また今度な」

「先生も、お変わりなく」

相変わらず、生徒たちと、親交を深めているようだ。


「あまり、変わってなかったな。先生」


僕は、あの日の山への道を進んだ。

進んだのはいいが・・・


自分の衰えを痛感した。


「もう、勘弁。少し休もう」

木陰に腰を下ろした。


「相変わらず、だらしないね」

懐かしい声がする。

逆光で顔は見えない。


でも、あの子に間違いはない。


「僕は、か弱いんだよ」

「私は、平気だよ」

「君は、女子プロ野球チームの、エースだろ?」

「うん。だから平気、」

失礼ながら、たくましくなっていた。


「でも、君もがんばってるんだね」

「何を?」

「いつも見ているよ。君の漫画。ファンが多いよ」

「それは、どうも・・・」


彼女は、女子プロ野球になるという夢を叶えた。

僕は、漫画家になるという、夢を叶えた。


今は、女子野球をテーマにした漫画を連載中。

そのモデルが、彼女なのは言うまでもない。


「でも、よく僕だとわかったね。ペンネームなのに」

「どうして?」

「さっき、先生に会ったけど、何も言われなかったよ」

彼女は笑う。


「女の子をなめないでね」

「えっ」


【女の子は、好きな男の子の事は、何でもお見通しなんだから】

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初恋の想い出 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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