全て夏のせいにしてしまえ

@maokai

第1話

夏がそうさせたんだ。

夏の暑さのせいで。

電車の中の寒すぎるクーラーのせいで。

青い空に浮いている真っ白な雲のせいで。

夏の夜に一人で歩く公園の心地よさのせいで。

私はあなたに恋をしたことに気づいた。

五感で感じるものすべてにあなたが関わっているのが心地よくて、

私は夏の夜に散歩する。

「それで何があったのよ。いつまでも唸ってるだけじゃわからないでしょ。」と美子がタバコをくわえながら私に言った。

「私は人に感情を左右されるのが嫌なの。その人の言動に敏感になって

傷ついたり落ち込んだり、馬鹿らしいと思ってたのよ。」

「で、その彼は何か違ったの?」

美子が面倒臭そうにいった。

「ダメな人だった。いい人じゃなかった。タバコは吸うし、自分の感情をさらけ出すことはないし。楽しいとか、美味しいとか言わない人。男の人って大抵そうだけどそれよりももっとひどいの。もっと冷淡で、何が楽しくて笑うの?って感じの人。でも、そんなところに惹かれてた。話したいときは黙って聞いてくれてたし、話したくないときは何もしないでただそこにいてくれた。でも一緒にいる回数が増えるたびにそれじゃ満足しない自分がいたの。私が感情を話したら同じように自分をさらけ出して欲しかったし、私が彼のことを思うのと同じくらいに彼も私のことを考えて欲しかった。私にとって恋っていうのはそういうことだから。周りの人なんて気にならないくらいに感情をぶつけるものだったから。彼にはそれができなかった。そういう人だったから。私には物足りなかった。」

私はイライラしていた。

美子のタバコの煙が微妙にこっちに来ることに対してもイライラしたし、何よりも彼のことを考えて悩んでしまっている自分に対してもイライラしていた。

これも全部この蒸し暑い夏の暑さのせいだ。

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