第二十三話・3

 私は、楓以外の男の子と付き合うつもりはない。

 だから、いきなり告白されてもやんわりと断ることしかできない。


「ごめんなさい。私には、もう好きな人がいるの。だからあなたとは……」

「そうですか……」


 そう言うと、その男の子はがっくりと肩を落として立ち去っていく。

 最近、またこういうのが増えた気がする。

 その度に、こういう口実で断ったりしているんだけど。

 やっぱり楓と一緒にいる事が少ないから、それが逆にチャンスだと思われてるのかな?

 それとも、意図的だったり──

 どちらにせよ、私には他の男の子と付き合うつもりは毛頭ない。

 だからこそ、これ以上こんな場所にいても無意味だ。

 私は、次の相手が現れる前にそそくさとその場から離れた。

 今日だけで3~4人の男の子から告白されてしまったのだ。

 最新記録を更新してしまう前に離れるのが正解だと思われる。

 はやく楓と合流しないとな。

 そう思い、私は楓のいる場所に向かう。


 楓がいるいつもの場所には、すでに先客がいたみたいだった。

 女の子だ。それも、普通に見たら充分すぎるくらい可愛いと思えるくらい。

 長めの髪を下のあたりで結んでツインテールにしてる女の子で、違う高校の制服を着ている。

 制服の上にカーディガンを着ているためどこの高校なのかはわからない。だけど私と同じ女子校ではないのは、見たらわかる。何しろ、スカートの色が違う。

 比較的短めなのは変わらないが。

 ちなみに、ここからだと話の内容も聞こえてこないためわからない。

 もっと近づきたいと思うくらいだけど、盗み聞きをする趣味は無いからやめておく。

 しばらくすると、女の子は楓にお辞儀をして離れていった。

 見た感じはギャルっぽい印象だけど、意外と礼儀正しいのが私の心をざわざわさせてしまう。

 楓はああいう女の子が好みなのかな?

 そもそもあの子は誰なの?

 そんな事を考えながら、私は楓のところに向かっていく。


「あ。香奈姉ちゃん」


 私の姿に気がついたのか、楓は緊張した面持ちで私のことを見てくる。

 あの女の子との間に何があったのかは、敢えて聞かないでおこう。


「遅くなってごめんね。…行こっか?」

「うん」


 楓は、いつもの笑顔を浮かべる。

 やっぱり、他の女の子には取られたくないな。

 だからこそ、楓とは積極的にエッチな事をしてるんだけど。

 楓には、もう私の体なんて魅力的には感じないのかな。

 どうなんだろう。

 私は、楓の腕にギュッとしがみつき口を開く。


「どうしたの? 何かあった?」

「ん? どうして?」

「ん~。なんとなくかな。弟くんの顔を見ていたら、ね」

「やっぱり香奈姉ちゃんにはわかってしまうんだなぁ。さすがだよ」


 楓はなぜか感心した様子でそう言っていた。

 そんなに驚くようなことかな。

 不意に聞いてしまった私の神経を疑ってしまうくらいなんだけど。


「さすがって言われてもな……。弟くんとは、長い付き合いだからね。そういうのは、すぐにわかってしまうんだよ」

「そういうものなの?」

「うん! そういうものだよ」


 わかっていないのは、弟くんだけだよ。

 そう言いかけたが、言うのをやめた。

 そういうのは、本人が気づくことだから。


 いつも思うことだけど、楓ってどこか私に遠慮している感じがする。

 せっかくの帰宅ついでのデートなんだから、もう少し積極的になってくれてもいいんだけど……。


「ねぇ、弟くん。これなんかどうかな?」


 私は、一着の洋服を楓に見せた。

 しっかりと見やすいように私の体に重ね合わせるようにして洋服を見せる。

 今着ている制服は体の丈にちょうどよく合うようにできているので、こういう洋服などを見せるにはちょうどいい。

 楓は、相変わらずというか何というか、いつもの笑顔を見せて答える。


「うん。良いんじゃないかな」

「………」


 その反応は期待してないんだけど。


「どうしたの? 僕、何か気に障るようなことでもやった?」

「べっつに~。自分の胸に聞いてみればいいんじゃない?」

「自分の胸に? う~ん……」


 楓は、悩ましげな表情で俯く。

 やっぱり、わからないか。

 いきなりそんな事を言われたって、わかるわけがないよね。

 そんな事を言ってしまう私も、意外と意地が悪いかもしれない。

 私は、今手にしている洋服を元のところに戻すと、別の洋服を取り出して楓に見せる。


「冗談だよ。それよりも、これならどうかな?」


 私が手に取ったのは、さっきの洋服よりもお洒落で可愛いものだ。

 これなら、返答には困らないはず。

 楓は、しばらく洋服を見て口を開いた。


「悪くはないと思うよ」


 またもさっきと同じような反応。

 私は、敢えて不機嫌な表情になる。


「適当に答えてない? 弟くん」

「そんなことは……。とても良く似合っているから、他に言葉が見当たらなくて……」


 あたふたした様子で、楓はそう言った。

 そう言われてしまったら、嬉しい気持ちにはなる。

 しかし、誤魔化されてるような気がしてならないのは私だけなのか。


「ふ~ん。だったらいいんだけど」


 楓のその表情を見ていたら、さらに聞こうとは思えなかった。

 私は、さっさと買い物を済ませてしまおうと思い、手にしている洋服を元の場所に戻す。

 洋服を買いにきたわけじゃない。

 今回買いにきたのは、新しいハンカチなどだ。

 ここのお店の物は全部、お洒落なものが多いから、女の子たちの間で噂になっている。

 だから、ついつい洋服に手が伸びてしまうのだ。

 楓が良いよっていうのなら買ってもよかったんだけど、いかにも感心がなさそうなのでやめておく。

 ちょっとくらいはね。

 感心を示してくれてもいいんじゃないかな。

 1人の女の子としては、そんな風に思うわけで──

 今回、手に取った洋服。

 私的には、とても気に入ってるんだけどなぁ。

 きっと楓には、わからないだろう。

 私は、軽くため息を吐いてレジへと向かっていった。

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