第二十二話・10
やっぱり楓と一緒に寝るのは、気持ちが落ち着く。
一緒にお風呂に入る時とかは、どちらかというと元気とやる気を充電している感じだし……。
こうして楓の寝顔を見ながら寝るのは、自分の気持ちにゆとりを持たせてくれるから、これはこれでいいのかも。
私は、楓の頭を優しく撫でる。
楓の方はというと、私の胸の中ですっかり眠ってしまっているから、撫でられている事には気づいてはいないだろうな。
「弟くんは、私にとって心の支えなんだからね。誰かのものになったら、許さないんだから」
そんな言葉も、眠っている楓には聞こえていないだろう。
それにしても。
楓の寝顔は、とてもかわいいな。
普段のかっこよさとはまったく違う。
「今回だけなんだからね。弟くん」
私は、楓の身体を優しく抱きしめていた。
起こさないように慎重に──
朝起きたら、私は全裸だった。
無意識のうちに下着を脱いじゃったのかな?
そう思ったのだが、どうやら違ったようだ。
楓が寝ているうちに、全部脱がしちゃったみたいである。
その証拠に、私の下着が楓の手に引っ掛かっていたのだ。
「もう……。弟くんったら……」
私の胸の中で眠っている楓に対して、怒りの感情は湧かない。むしろ嬉しいかも。
どうしてこんな事をしてしまったのかについては、敢えては聞かないでおこう。
楓の手は、私の乳房をにぎにぎと揉みしだき、そのまま先端部を指先で弄っている。
その刺激がなんともいえないくらい、気持ちいい。
朝から、こんな激しくされたら……。
やっぱり起こした方がいいかな。でも──
「そんな事されたら、私も黙ってはいないぞ」
どうせパンツの方も脱がされちゃってるわけだし。
いいよね。このくらいなら。
私は、そのままの格好で楓のことを抱きしめる。
さすがにこれ以上の事はしてこないかとも思うけど、覚悟はできている。
今日は、学校はお休みなのでこのまま眠ってしまってもバチは当たらないし。
お休みの日は、楓と一緒にお買い物に行くのが一番だ。
だからといって遠くまで出掛けられないので、ショッピングモールで我慢しているけれど。
その代わりに、精一杯オシャレには力を入れたつもりだ。
今回は、オシャレな白のチュニックに黄色のスカート付きのショートパンツ。
派手過ぎず地味過ぎずといった服装で、楓と腕を組んで歩いている。
「やっぱり休日はデートをするに限るね。そう思わない? 弟くん」
「あ、うん。そうだね」
その曖昧な返答を聞くかぎりだと、楓にも予定があったのかな?
私のわがままで、楓のことを引っ張り回してしまったか。
それなら、悪いことをしてしまったかもしれない。
私が誘うと、さすがの楓も断れなかったみたいだし。
「大丈夫? 何か予定でもあった?」
「ううん。特に何もないよ。香奈姉ちゃんの方はどうなの?」
「私の方は、特にないよ。今日は、弟くんと一緒にお買い物に行きたかったなって思って」
「そっか。それならいいんだけど」
楓は、安堵の笑みを浮かべてそう言っていた。
これは絶対に何かあるな。
昔から楓は、人に気を遣う時に限って、何かを誤魔化すような笑みを浮かべるから、わかってしまうんだよね。
「やっぱり何かあるんでしょ? 弟くんは何か隠し事があると、そうやって意味のない笑顔を浮かべるんだから」
「え。別に何も……。僕はただ──」
楓は何かを訴えるように、そう言う。
正直なところ、楓は口先がうまい方ではない。
たとえ何かを言ったところで、言い訳にしかならないと思っている節がある。
楓の態度を見てたらわかるのだ。
そんな楓を見ていたら、これ以上言えないじゃない。
「もういいよ。もういいから──」
私は、そう言って楓のことを優しく抱きしめる。
「わっ! ちょっと! 香奈姉ちゃん?」
言うまでもなく、楓はしどろもどろになっていた。
あきらかに私に対しての隠し事はあるんだろうけど、ここでは敢えて聞かないでおこう。
「はやくお買い物に行こう。今日は、せっかくのデート日和なんだから、思いっきりイチャイチャしたいよね」
「イチャイチャ、か。悪くはないけど……」
「ん? お姉ちゃんとイチャイチャするのは、嫌だったりするのかな?」
「ちっとも嫌じゃないよ。むしろ嬉しいかも……」
「そっか。それなら、躊躇うことはないね」
私は、満面の笑顔でそう言っていた。
これで、心置きなく楓とデートができる。
私の気持ちは、ホントに有頂天だった。
誰にも邪魔されないデートほど、嬉しいものはない。
「さて、どこから行こうか?」
「どこからって……。行き先は、決まってたんじゃないの?」
「残念でした。実は、特に決まっていないんだよね。弟くんなら、どこがいい?」
「僕に訊かれても……。いきなりは、決められないかな」
楓は、戸惑ったような表情でそう言った。
まぁ、そうだよね。
あまり積極的ではない楓の性格を考えたら、簡単な事ではないよね。
仕方ない。
こんな時は、お姉ちゃんである私が、楓のことをぐいぐい引っ張っていくしかないよね。
「無理しなくてもいいんだよ。せっかくのデートなんだから、弟くんが行きたいなと思った場所に行けばいいだけだし」
「香奈姉ちゃん。でも……」
途端、楓の表情が安堵のものに変わっていく。
よほど私のことを信頼しているっていう証拠だ。
「大丈夫だよ。弟くんなら、ちゃんと私のことをエスコートできるよ」
「そうなのかな……。僕的には、とても不安なんだけど……」
「こらこら。今は私とのデート中なんだから、そんな顔しないの。弟くんだって男の子なんだから、私を守ることくらいできるでしょ?」
「うん。まぁ、そのくらいなら──。できない事はないけど……」
「それだよ。弟くんは、私の『彼氏さん』なんだから、やればできるよ」
私は、笑顔で楓の口元に指を添えてあげる。
楓のことを信頼するには、まず信じなきゃダメだろう。
──大丈夫。
楓はきっと私の気持ちに応えてくれる。
案の定、楓は私の手をぎゅっと握ってくる。
そのまま引っ張ってくれれば、何も言うことはないんだけど……。
楓は、しばらく歩いた後で私の方に視線を向ける。
その顔は、なんとも言えず、不安そうな表情だった。
私は、どうしたんだろうと思い訊いてみる。
「どうしたの? 何か気になる事でもあった?」
「いや……。香奈姉ちゃんは、不安じゃないのかなって……」
「何で不安なの?」
「なんとなく、かな。香奈姉ちゃんは、嫌なことはハッキリと言うから、その……」
どうやら楓なりに気を遣っているらしい。
そんなの気にする必要はないのに。
「私は、弟くんと一緒にデートができれば、何も言うことはないよ。全然嫌なんかじゃないし。むしろ嬉しいかも──」
「そっか。それなら、よかった」
そう言うと、楓は安堵の表情を浮かべて再び歩きだす。
これでいい。
楓に必要なのは、積極性なのだ。
男の子として、もう少し引っ張ってくれるものがあれば完璧なのである。
でも、楓だからなぁ。
どこまで積極的になってくれるか、それこそわからない。だけど──
期待しちゃってもいいのかな。
私は、なんとも言えない複雑な面持ちで楓の顔を見ていた。
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