第十九話・2

 とりあえず、楓と会うのは次の日でいいと思い、私は自分の家に戻ってきた。

 年越し蕎麦を食べている時にも、花音は何か言いたげに私のことを見てきたが、私は『我関せず』の態度で蕎麦を食べる。

 それが気に入らなかったんだろう。

 花音は、ムッとしたような表情で声をかけてくる。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「なに?」

「楓たちと一緒に年越し蕎麦を食べなくて、ホントによかったの? 私的には、一緒に食べたかったんだけど……」

「大晦日くらいはね。楓たちだってゆっくりしたいだろうからね」

「だけどさ……」

「どうしたの? なにか心配事でもあるの?」

「心配事は、ないけど……」

「だったら、何も問題ないじゃない。あとは明日まで待てば大丈夫だよ」


 私は、そう言っていた。

 能天気と言われれば、そうかもしれない。


「やっぱり、初詣なの?」

「うん。バンドメンバーと約束したからね。こればっかりは、しょうがないよ」

「そっか……」


 花音は、そう言ってうつむく。

 花音の場合は、友達と一緒に行く約束をしてたから、別に気にする必要もないと思うんだけど。

 楓が絡むと、なんでそうなるのかな。

 悪いけど楓は、私のバンドの大事なメンバーだ。しかも貴重なベース担当である。

 そんな人を誘わないわけがない。

 もしかして、花音も同じことを考えていたのかな。


「花音は、友達と一緒に初詣に行くんだよね?」

「うん。そうだけど」

「もしかして、楓を誘おうと思ってたり?」

「それは……」


 その顔はまさに図星だった。

 やっぱり。

 付き合っているわけでもないのに、どうして楓を誘おうとするんだろうか。


「はっきり言うけど、初詣の日は私が先だからね。絶対に楓を誘わないでよ」

「どうしても、ダメ?」


 花音は、おねだりするかのように訊いてくる。

 そんな風に聞かれても、ダメなものはダメだ。


「絶対にダメだよ!」

「お姉ちゃんは、いつでも楓のことを誘えるんだしさ。初詣くらい、いいでしょ?」

「初詣くらいって……。私は、いつものバンドメンバーと一緒に初詣に行くんだよ。二人っきりじゃないんだからね」

「そんなのわかってるよ。だけど……」


 花音にとっては、色々と納得できないんだろうな。

 でも楓を先に誘ったのは、私たちだ。

 花音も、文句は言えないはず。


「はやく食べないと、蕎麦が美味しくなくなるよ」

「うん……」


 花音は、不承不承といった様子で蕎麦を食べ始めた。

 せっかくだから、お蕎麦を食べ終わったらお風呂に入っておこう。

 一人でお風呂に入るのはなんだか寂しいけど、今日だけは仕方ないよね。


 そして、迎えた元旦。

 この日は、新年ということもあり特別な日だ。

 特別な日だからこそ、こういう日は晴れ着で過ごすんだけど。

 私は、着物の着付けをしっかりと行う。

 一つ一つ丁寧にやらないといけないので大変だ。


「お姉ちゃん……」


 そんな中、花音は今にも泣きそうな表情で私を見てくる。

 よく見れば、着物の着付けがまだ途中なのか、あちらこちらではだけてしまっていた。

 そんな状態を見て、何があったのかわからないほど鈍いわけではないんだけど、一応訊いてみる。


「どうしたの?」

「着付けがうまくいかなくて……」


 花音は、涙混じりにそう言ってきた。

 まぁ、そんなことだろうと思っていたけど。

 着付けくらいは、自分でやってほしいな。

 まだ中学生だから、しょうがないか。


「もう。しょうがないなぁ。どれどれ……。こっちを向きなさい」

「うん」


 花音は、私に言われたとおりにこちらを向く。

 途中までの着付けだから、最初からやり直さなきゃいけない。

 私は、敢えて着物を脱がした。着物などを着る時、下着などは身につけていないから全裸のはずだ。

 あ……。ショーツくらいは穿いていたか。

 途端、花音のスレンダーな体が顕になる。

 胸の成長については後2~3年くらいしたら大きくなると思う。たぶん。


「どうしたの? お姉ちゃん」

「ううん。なんでもないよ。さぁ、はやく着付けを終わらせよう」

「うん。ありがとう」


 花音は、素直にお礼を言った。

 こうして着物の着付けをするのは、もう慣れてしまったな。

 私は花音のお母さんじゃないんだから、こういうのは自分でやってほしいんだけど。

 そんな本音は、きっと花音には聞こえていないんだろう。

 私は、丁寧に花音の着物の着付けを行なっていった。

 なんだか着せ替え人形みたいで楽しいから、色んなことを試してみたくなるけど。

 ここは敢えてやめておこう。

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