第十六話・15

 僕の家で夕飯を食べた後、僕は香奈姉ちゃんの家に案内される。

 兄と花音がいるところでは、練習しづらいと判断したんだろう。

 気が緩んだのか、香奈姉ちゃんは自分の部屋に入るなりさっそく上着を脱いだ。

 上着を脱いだらその下は何も着ていないので、言うまでもなく下着姿がお披露目になる。


「さぁ、楓。練習しよっか?」

「練習って、何の?」


 僕は、少々焦り気味にそう聞き返していた。

 とても練習するっていう感じの雰囲気じゃなかったから、ついそんなことを言ってしまったのだが。

 見慣れているとはいえ、下着姿をまじまじと見てしまうのは、気がひける。


「バンドの練習に決まっているでしょ。…それとも、私とのスキンシップがいいのかな?」

「バンド練習がいいです」

「そこは即答なんだね。私的にはその……」


 香奈姉ちゃんは、残念そうな顔をする。

 そんな顔をされてもな……。

 練習するという理由で香奈姉ちゃんの部屋に来てるわけだし。

 それ以上のことは、しないと思うよ。多分。


「香奈姉ちゃん的には、何がしたいの?」


 それを言ったのが、僕の間違いだったと思う。


「私はね──」


 香奈姉ちゃんは、そう言って僕に寄り添ってきた。

 もちろん下着姿のままで…である。


「ちょっ……⁉︎ 香奈姉ちゃん⁉︎」

「大きな声をあげないの。お母さんに聞かれちゃうでしょ」

「う、うん。ごめん……」


 僕は、素直に謝った。

 香奈姉ちゃんにとっては、このくらいは序の口なんだろう。

 僕にとっては、下着姿の状態でも充分刺激が強いんだけど。

 いくらセックスをした仲であっても、これはさすがに……。

 香奈姉ちゃんは、ゆっくりと僕を押し倒して、そのまま騎乗位になる。


「花音は今、楓の家にいることだし……。今日は、安心してエッチなことができるね」

「練習は? しなくていいの?」


 僕は、香奈姉ちゃんの腰の辺りに手を添えて、そう訊いていた。

 香奈姉ちゃんの部屋には、練習をしに来たのであって、そんなことをしに来たわけじゃない。

 香奈姉ちゃんは笑みを浮かべ、お返しとばかりに僕の顔に手を添える。


「練習もいいけど、私とのスキンシップも大事でしょ」

「それは……」


 僕は、思わず香奈姉ちゃんから視線を逸らす。

 僕にとっては、どっちも大事なんだけどなぁ。

 香奈姉ちゃんは、ちょっとだけ不満そうな表情を浮かべる。


「なんで悩むかなぁ。今は、私と二人っきりなんだから、したい事をすればいいんだよ」

「だからって、いきなりスキンシップは……。気が早くないかな?」

「何言ってるの。私たちの仲なら、大丈夫だよ」

「それは、まぁ……。でも練習はどうしたの?」

「少しくらいサボったって大丈夫だよ。真面目な楓なら、なんとかなるでしょ」

「香奈姉ちゃんに言われると、返す言葉がないんだけど……」


 僕は、そう言って微苦笑していた。

 香奈姉ちゃんは、すでにする気マンマンなのかさっそく体を被せてくる。

 香奈姉ちゃんのおっぱいが、僕の顔の上に被さってしまう。


「うっ……」


 僕は、思わず声を漏らす。

 香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべて言った。


「ちょっと我慢してね。すぐに気持ち良くなるから──」

「ちょっと……。香奈姉ちゃん。そういうことは、その……。練習が終わってからでも……」

「今日は、練習はしなくても大丈夫って言ったでしょ。私も、特にする事がないし……」


 香奈姉ちゃんは、僕の頭部を優しく抱きしめてくる。

 やっぱり、香奈姉ちゃんの部屋に招かれたのは、こういうことをするためだったんだな。

 僕は、香奈姉ちゃんの背中にゆっくりと手を添えた。

 香奈姉ちゃんからは、とてもいい匂いがする。

 石鹸の香りだろうか。

 それとは違うような。


「ん……。楓。ちょっとくすぐったいよ。一体、どうしたの?」


 香奈姉ちゃんは、頬をほんのりと赤く染めて訊いてきた。

 それでも、『やめて』とは言わないんだ。

 香奈姉ちゃんらしいっていえば、そうだけど。

 僕は、静かに香奈姉ちゃんの体の匂いを嗅いでいた。


「いや……。なんだかいい匂いがするなぁって思って……。何か付けてるの?」

「ううん。何も付けてないよ。ちょっと……。楓ってば、私の体を弄りすぎだよ」


 香奈姉ちゃんは、恥ずかしがりながらそう言ってくる。

 さすがに、これ以上香奈姉ちゃんの体を弄るのはまずいか。


「ごめん……」

「別に謝らなくてもいいけど。したいんだったら、もうちょっと優しく弄ってほしいな」

「いや……。それは……」


 僕には、それ以上のことが言えず押し黙ってしまう。

 優しくしてほしいって言われても、香奈姉ちゃんが騎乗位になっているから、僕にはどうにもできない。


「まぁ、無理にとは言わないけどね。実際、エッチなことをしようとしてるのは、私だし──」

「香奈姉ちゃん……」

「だったらさ。私が、楓にご奉仕してあげるから、楓は絶対に抵抗しないでほしいな。それだったら、お互いに文句はないでしょ?」


 香奈姉ちゃんは、ナイスアイデアと言わんばかりにそう言ってきた。

 抵抗しないでほしいって……。

 香奈姉ちゃんの言う『エッチなこと』って、一体、何なんだろう。

 どちらにしても、これ以上は──


「エッチなことをするのはいいけど……。優しくしてくれないと、僕も……」

「なるほど。優しく…か。たしかに私は、優しくするのは苦手な方かもしれないけど、ご奉仕することにかけてはなかなかいけると思うよ」

「ご奉仕って……」


 もしかして、ずっと前にやったメイド服を着てのご奉仕のことなのか。


「また、あの時みたいにメイド服を着てご奉仕してあげよっか?」


 香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべてそう言ってきた。

 香奈姉ちゃんのその顔を見たら、本気だってことが伝わってくる。

 今は、下着姿だから、メイド服を所望すればすぐに着替えられるんだろう。しかし──


「いや……。それは、さすがに……。香奈姉ちゃんにも、明日のことがあると思うから──」

「遠慮しなくてもいいんだよ。私は、楓のためなら、なんだってやるんだから」


 前にも聞いたな。その台詞。

 嬉しい言葉だけど、この体勢で言われたら、これからエッチなことをしますって宣言してるようなものだ。

 僕の方も、その気だから香奈姉ちゃんの体を弄っているんだけど……。

 特に、おっぱいはとても柔らかくて触り心地が良い。

 香奈姉ちゃんは、さっきから頬を赤く染めてこちらを見つめている。


「ん……。やっぱり、楓の手つきはクセになっちゃうなぁ。もっと揉みしだいてほしいな」


 そう言うと、香奈姉ちゃんは僕の手をそっと掴んできた。

 香奈姉ちゃんはそう言うが、僕的には、香奈姉ちゃんが騎乗位にならなかったら、こんなことはしないだろうな。

 何を思ったのか、香奈姉ちゃんは僕の手を掴んだままブラジャーに手を添えさせる。

 そして、そのままブラジャーが外れていく。

 次の瞬間には、おっぱいの先端が露わになった。

 そんなものをじっと見ているわけにはいかない。

 僕は、思わず視線を逸らす。


「あ……。香奈姉ちゃん……」

「ちゃんと見てよ。楓」


 しかし、香奈姉ちゃんに手を添えられてしまい、無理矢理、香奈姉ちゃんの方に向けさせられてしまう。

 どうしても見てもらいたいようだ。

 やっぱり、僕とエッチなことがしたいんだろうか。

 いや、香奈姉ちゃんに限って、そんな軽はずみなことをしてくるはずがない。

 あの時とは、状況も違うし。


「おっぱい……。大きいね」

「そうでしょ。奈緒ちゃんからも、同じことを言われたよ」

「そうなんだ」

「うん」

「………」


 これ以上は、会話が続かない。

 僕は、微妙な表情を浮かべて香奈姉ちゃんの顔を見る。

 香奈姉ちゃんも、僕の表情に何かを察したのだろう。すぐに両腕で胸を隠す。


「楓には、刺激が強かったかな?」


 恥ずかしそうに頬を赤く染めて、そう訊いてきた。

 もう見慣れてしまったものを、今さらどうこう言うつもりはない。

 僕だって、男だ。

 男女の間の機微には、敏感な方だと思う。


「うん。いくらセックスをした仲だとしても、やっぱり香奈姉ちゃんの裸を見るのは、ちょっとね」

「だったら、楓も裸になってみる? それなら恥ずかしくないと思うんだ」

「それは遠慮しておくよ」

「そこは即答しちゃうんだ」


 香奈姉ちゃんは、なぜかムッとした表情になる。

 僕が拒否しなかったら、絶対に脱がそうとしていたな。

 そうはいかないぞ。


「僕は、香奈姉ちゃんみたいに、自分の部屋にいるからって裸にはならないよ」

「何よ。自分の部屋にいる時くらい、裸でいたっていいでしょ!」

「それは、まぁ……。自分の部屋にいる時くらいはね。ラフな恰好でいたいものだけど」

「そうでしょ。楓なら、わかってくれると思っていたよ」


 香奈姉ちゃんは、嬉しそうにそう言う。

 つまりは、花音には理解されなかったってことだよね。それって──

 香奈姉ちゃんがどんな恰好をしようと文句はないけど、せめて慎みを持った態度でいてほしいな。

 さもないと、周囲が抱いている香奈姉ちゃんの印象が壊れてしまう。

 僕は、穏やかな表情を浮かべて香奈姉ちゃんを見ていた。

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