第九話・9

 香奈姉ちゃんは、少しでも長く僕といたいのか、僕の看病をしてくれていた。

 本当なら、香奈姉ちゃんにもやることがあるはずなのに。


「──香奈姉ちゃん」

「起きてたの、楓」


 香奈姉ちゃんは、キョトンとした表情を浮かべて僕を見る。

 トイレに行きたかったから、目が開いただけなんだけど。


「うん、ちょっとね」

「『ちょっと』って?」

「だから、『ちょっと』はちょっとなんだけど……」

「はっきり言いなさいよ。…『ちょっと』って何よ?」

「だからその……。お手洗いに行きたくて……」


 僕は、香奈姉ちゃんから視線を外して言う。

 そんなことを香奈姉ちゃんに言うのは、すごく恥ずかしいんだけどな。


「え、お手洗い? それならそうと、はやく言ってよ。──ほら」


 香奈姉ちゃんは、そう言うと僕に手を差し伸べてくる。


「え?」

「ん? どうしたの?」

「いや、何でもない。香奈姉ちゃんもついてくるつもりなのかなって」

「当たり前じゃない。楓に何かあったら大変だからね」

「そうそう何もないと思うんだけどな」

「何もなくても、私は心配なの」

「そっか。それなら、しょうがないね」


 僕は、微笑を浮かべて香奈姉ちゃんの手を取った。

 トイレくらい、一人で行けるんだけどな。


 トイレにたどり着くと、香奈姉ちゃんはなぜか心配そうな表情を浮かべて、僕に言った。


「私も手伝おうか?」


 一体、何を手伝うというのだろう。


「何を?」

「おしっこ。一人でできる?」

「………」


 ………。

 僕の脳内は、すっかりフリーズしてしまう。

 どう言ったらいいのか、よくわからなくなってしまった。

 香奈姉ちゃんからしたら、僕は一体、何歳の設定になってるんだろうか。

 それよりも、男の大事な箇所を香奈姉ちゃんに見せるわけにはいかない。


「…そのくらいは、自分でもできるよ。だから、少しだけ待ってて」

「わかった。…でも、何かあったら言ってね。すぐ行くから」

「う、うん。何かあったら…ね」


 僕は、微苦笑してそう言った。

 何があっても、絶対に言わないでおこう。

 ただ用を足すだけだしね。

 報告するようなことは、何もないはずだ。

 しかし、トイレで用を足している最中に、香奈姉ちゃんは入ってきた。


「か~え~で!」

「うわぁ⁉︎ 香奈姉ちゃん⁉︎」


 僕は、慌てて声を上げる。

 しかし、おしっこは滝のように出ている。

 香奈姉ちゃんは、面白そうな様子で僕のおしっこ中の大事な箇所を覗き見てきた。


「男の子って、そんな風におしっこするんだね。不思議~。それに立派なあそこね」

「いやいや。そういう問題じゃないでしょ⁉︎ どうして香奈姉ちゃんがトイレに……」


 こういう時に限って、おしっこってよく出るんだよな。

 ホント、参っちゃうくらいに……。

 香奈姉ちゃんは、僕の大事な箇所を見て顔を赤くし、口を開く。


「うん。実は私も、おしっこしたくなっちゃってね」

「え……」

「楓が『お手洗い』って言い出したから、私もお手洗いに行きたくなっちゃったの」

「それって、もう少し我慢できるかな?」

「もう少しなら」


 香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうにそう言った。

 もう少しと言っても、すぐに終わるんだけどさ。

 用を足し終えると、僕はすぐに寝間着のズボンをあげて、香奈姉ちゃんに視線を向ける。


「もういいよ。僕は、お手洗いの前で待ってるから──」


 僕は、そう言ってトイレから出ようとした。

 しかし香奈姉ちゃんは、すぐに僕の腕を掴み、トイレから出られないようしてくる。

 そして、もう片方の手でパンツを下げ、そのまま便座に座った。


「え……。香奈姉ちゃん?」

「………」


 香奈姉ちゃんは、少し恥ずかしそうな表情を浮かべ僕を見てくる。

 そして次の瞬間、香奈姉ちゃんが座った便器から水の音が聞こえてきた。

 水はまだ流していないから、何をしたのかは明白だ。

 香奈姉ちゃんが、そのまま用を足したのである。

 あまりにもあっという間のことで、僕がなにかを考えることを諦めさせるには充分な出来事だった。


「さぁ、楓。この後、どうする?」


 香奈姉ちゃんが言う『この後』というのは、もうわかりきってる。

 また僕に、用を足した後の処理をしろっていうことだろうな。


「あの……。またやるの? 僕が?」

「楓が『お手洗いに行きたい』って言ったんでしょ? 責任もって、私のおしっこの後の処理くらいしなさいよ」

「どうして僕がそんな……」

「問答無用だよ。こういうことは、サクッとやっちゃってよね」

「…これで二度目だよ」


 そう言いながらも、僕は近くにあるトイレットペーパーに手を伸ばす。

 体調は芳しくないんだけどな。

 香奈姉ちゃんは、僕の腕を強く掴んでいて『逃がさない』という態度だったから、僕としても、どうしようもない感じだった。

 ──それにしても。

 こういう事って、普通は自分でやるもんだと思うんだけどな。

 香奈姉ちゃんには、頭が上がらないよ。

 僕は、トイレットペーパーを包んで香奈姉ちゃんの大事な箇所に触れる。


「んっ!」


 香奈姉ちゃんは、弾かれたかのように身体をビクッとさせて顔を赤くした。

 僕は、優しく拭き取るとトイレットペーパーを便器に落とす。

 あまり、香奈姉ちゃんの大事な箇所を撫でくり回したくないから、すぐに手を引いた。


「待って。そのままで」


 香奈姉ちゃんは、引こうとした僕の手を掴む。


「香奈姉ちゃん?」


 一体、何だろう。

 そう思った矢先のこと、香奈姉ちゃんはトイレットペーパーに手を伸ばして、それを一定量だけ包み、また僕に持たせた。


「もう一回、これで拭き取って」

「…わかったよ」


 拒否しても、香奈姉ちゃんには意味がない。

 もう一回拭き取ってほしいのなら、望みどおりそうしてあげよう。

 僕は、もう一度香奈姉ちゃんの大事な箇所を拭き取った。


「んっ」


 どうしても声が出ちゃうものなんだろう。

 敏感なところなんだな。女の子の大事な箇所って。


「終わったよ」


 拭き取り終えると、僕はそのままのアングルで香奈姉ちゃんの大事な箇所を見る。

 毛はなくつるぺただが、魅惑的な箇所だ。

 僕の大事な箇所が、思わず反応してしまうくらいだった。

 それにしても、変な性癖が香奈姉ちゃんについてしまったな。


「ありがとう」


 香奈姉ちゃんは、礼を言うと途中まで下ろしたパンツを引き上げる。

 僕は、呆然と香奈姉ちゃんがパンツを穿き直す姿を見ていた。


「おしっこもしたことだし。行こう、楓」

「うん……」


 香奈姉ちゃんの言葉に、僕は頷いていた。

 一体、何がしたかったんだろう。

 よくわからない。

 とりあえず、トイレから出る前に手を洗わないとな。


 部屋に戻りすぐにベッドに入ると、香奈姉ちゃんは再び僕の側に寄り添ってくる。

 寄り添ってくれるのは嬉しいんだけど、香奈姉ちゃんにもやることがあるんじゃないのかな。


「家に帰らなくてもいいの?」

「家に帰っても、特にすることがないんだよ」

「そうなの? 予習復習とかは?」

「それくらいなら、楓の部屋でだってできるよ」


 たしかに教科書や筆記用具は、鞄の中に入っているから予習復習は問題なくできるか。

 バカな質問だった。


「そんなことよりも、楓の体調の方が心配だよ」

「僕なら、心配いらないよ。何日か寝てれば治ると思うし」

「それは、そうだけど……。だけど、お姉ちゃんとしては心配なの」


 そこまで心配してくれるなんて。

 なんだか嬉しいな。

 こんな姉的存在の幼馴染に心配されたら、はやく風邪を治して良くならないとって思っちゃうよ。


「ありがとう。香奈姉ちゃん」


 僕は、今出来る限りの笑顔で礼を言った。

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