切なる夢
彼岸 風桜
第1話
これは彼女の願いを叶えるかわりに、彼女が失った記憶。特別に語りましょう。
窓際に置かれた木製の机、彼女の座る椅子、そして壁際に寄せられたベッドがあるだけの小さな部屋。
ランプの小さな灯りはとても頼りなく、その小さな部屋さえもかすかに照らすのみでした。
父親と住んでいた家も小さなものでしたが、父親の死後彼女が連れてこられた家はさらに小さなものでした。
幼いころから星の光を映すことのなかった瞳は、すでに光さえも写すことはありません。そんな彼女の瞳の代わりとなっていた存在がありました。
一緒に過ごした時間は短いけれど、プルーと名づけられた犬とは心を通い合わせていました。
いま、彼女の元に寄り添うのは、プルーの子供である黒銀と名づけられた犬。
黒銀とも心を通わせた彼女ですが、外に出ることはかないませんでした。
そう少女と犬だけが過ごすこの小さな部屋が彼女の全てでした。
昼も夜も分からない彼女に、夜であることを知らせるのは寄り添う犬だけです。
昼も夜も静かな場所にあるため、音を頼りにすることは叶わないのです。
少女は窓の外に、薄氷色(アイスブルー)の瞳を向けます。星の光もランプの明かりも映すことのない瞳。
それでも彼女は願い続けました。
昼の現実から目を背けるかのように。彼女は子供を成すことが出来ないように施され体の一部を失いました。
男性に抱かれることで、彼女は生かされたのです。何度抱かれても慣れることのないその行為。
夜だけが彼女の安息の時間。
そして手を組んで星空へと願いをかけるのです。
「一度でいい。この夜空に輝く小さな星の光をこの瞳で…満天の星空をみてみたい」
幼いころからの願いは、叶わないけれど諦めきれず抱いている夢。
こうして願うことで彼女は安定を図っていたのです。
小さく呟かれた少女の夢を知るのは、寄り添う黒銀のみ。
この後、彼女はこの小さな部屋から抜け出し、黒銀と共に雨の降り続く荒野を歩き続けました。はじめは追ってから逃げるために。けれど次第にその意味はなくなりました。そしてとある男性との出会いました。
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