感染症Sequel

第197話 火傷

腹這いとなる吉田の前に憚（はばか）る事無く2足で立ち上がり、開（はだか）る熊が再び咆哮をあげた。

「ゴオオォォオオオオ～～」

それは仲間を呼ぶ仕草

その数秒後

「ゴオオォォオオ～～」

熊の吼声が響き、ドタドタ宮殿内をこっちに向かって来る足音が響いてきた。

吉田が吠え声に振り返り、山口も視線を向けるや

扉からもう1頭の大熊が姿を現した。

「ゴオオォォオオ～～」

「ゴオオォ～」

意志の疎通を図るように吠え合う2頭の大熊に囲まれた吉田と榊原

吉田は怯えた表情を浮かべ、ウロウロする2頭を見上げた。

大熊が動かぬ榊原へと近寄りクンクン臭いをかぎ、身体を揺する

そして超大熊が山口を見上げながら吉田の襟元を咥え、持ち上げはじめた。

吉田「ひぃ」

山口「吉田」

また榊原の腕も咥えられ、引きずられた。

クソ…　２人をどこへ連れ去る気だ…？

そうはさせるか…

山口が超大熊の眼部に照準を合わせ、狙いを定めた。

熊と目を合わせながら、トリガーを引こうした瞬時

吉田の身体が引き上げられた。

山口は咄嗟にトリガーから指を離した。

こいつ…

俺の行動を読んでるのか…？

吉田を盾代わりに使うとは…

そして熊の目から

諦めろ…

そう言ってるように思えた

山口「チィ　賢いやつめ…」

険しい表情で山口はサブマシンガンを下げ、何も出来ぬ山口を前に無情にも２人が連れ去られようとしている

その時だ

ビビビビ

突如　超大熊の背中に電撃が走り、咥える吉田がパッと離された。

ドサッ

山口の眼前で吉田が離され

「グォォォォ」

急に苦しみの咆哮をあげはじめた超大熊

微かに痙攣し超大熊が前倒れするとその背後にはあの純やがいた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

屋敷　地下1階　とある部屋

エレナvs冴子

エレナ「フゥー」

息を吐き

ボクシングの構えをとるエレナ

拳を2度グーパーしたのち　強く握り締めた。

怒りに満ちた表情から一変　一気に冷静な表情に変わり冴子との距離を計る

このイかれ女相手に怒りにまかせては駄目…

こいつを殺るなら…

ここは冷静に…　そして確実に…

こいつを仕留める…

一旦怒りの感情を殺し、研ぎ澄ましたエレナが冴子を目にしていると

冴子はメスのクローをちらつかせつつゆっくり横移動をはじめた。

エレナもすかさず横に動き、冴子との正面をキープ

そして互いに目を合わせ、対面したままゆっくり移動すると

冴子の肩が壁に当たり隅へと追いやられた。

同時に角へと追い詰めたエレナ

キリッと目つきを変え、拳の先制を繰り出そうとするや

同様に冴子も目つきを変え

先に手を出したのは冴子

真横の棚に置かれた蝋燭をクローで弾き、エレナに飛ばしてきた。

エレナは火の灯る蝋燭を腕で払いのける。

その弾かれた蝋が暖炉へイン

あらかじめオイルの塗られる薪に着火、燃え上がりはじめた。

っと同時に冴子が踏み込み、指に挟んだ3本のメスで切りかかってきた。

シュ　　シュ

大振りなメスの爪

エレナはその斬りつけを頭を振りながらかわし、一歩二歩と後ろ足で退きながら回避していると、脚部がベッドにつっかえ、そのまま背中から倒れ込んでしまった。

すると

6本のメスを光らせ、冴子が飛び乗ってきた。

エレナは咄嗟に両手首を掴まえ、メスの刺突を寸前で防いだ

エレナ「っ…」

冴子「ハハハハ　ぶっ刺しちゃうわよ～　その顔解剖させてぇ」

乗りかかる冴子の乱れた髪の合間から伺わせるイかれた目つき

狂った笑い顔を見上げ、6本のメスを目にした。

冴子「ヒャハハ　口裂け女にさせてよ～」

エレナ「うぐぐ」

力まかせにそのまま刺し殺しにかかる冴子と力比べで耐え凌ぐエレナが腹部に膝を滑り込ませ、足を当て

エレナ「らぁ～」

そのまま蹴り上げた。

冴子の身体は押し上げられ、引き離されるがすぐまた飛びかかろうとした

直前

エレナがシーツを掴み、投げつけた。

バサッ

愛液まみれなびしょ濡れのシーツが頭から被され視界を遮られた冴子

それをひっぺがそうと　もがいた。

そして

シーツを剥ぎ取った時

冴子の目の前には拳を振りかぶり、殴りかかろうとするエレナの姿があった。

そして

バコォ

エレナ渾身の右ストレートが冴子の鼻を捕らえた。

冴子は殴り飛ばされ壁に激突

ポタポタ垂れた鼻血を腕で拭うと白衣に血が付着、その血を目にし発狂しだした。

冴子「キャー　血ぃ　メス豚がぁ　私の自慢の顔によくもぉ…」

次の瞬間

ボカァ

今度は冴子の左頬に食い込んだ拳

カラン

2本のメスが指から落ち

エレナから強烈な左のフックが繰り出された。

次いで

ボゴォ

右の拳が冴子の腹部に突き刺される。

冴子「かはぁ」

カラン

残り全部のメスも手から落ち

唾液を飛沫させ、息も吸えずに屈む冴子の髪が鷲掴みにされた。

そしてエレナが口にした。

エレナ「今までどれだけの男を玩具扱いしてきたか知らないけど…　あんたは身動き出来なくなった相手をいたぶる事しか能のない殺人鬼　それが無ければただのイかれただけの女…　言うならただの非力な女よ」

冴子「かはっ」　

エレナ「対等な立場で私があんたなんかに負ける訳ないでしょ」

鼻血を垂らし、よだれを垂らし、俯く冴子の耳元でエレナがそう呟くや

グサ

エレナの背中にメスが突き刺された。

メスを握る冴子

冴子「フフ　甘ちゃんね　油断大敵よ」

だが

メス一本刺されようと微動だにしないエレナが呆れた表情で溜め息をついた。

エレナ「はぁ～」

ドカ

うずくまる冴子の顔面に強烈な膝蹴りが打ちこまれる

冴子「がは」

モロに顔面に入った冴子の手からメスが離れ、エレナが白衣の襟元を掴み半転で振り回すやパッと手を離し

バコォ

再び強烈な右ストレートを冴子の顔面に浴びせた。

冴子の頭が反り返り、血とよだれを天井に吹き出しながらベッドに倒れ、１回転、そのまま落ちた。

まんぐり返って背中を強打した冴子は息を荒げながらすぐに上体を起こし、ベッドに手をつき、這い上がった。

その冴子の瞳には…

既にベッドに乗り移り、サッカーボールを蹴るかのごとく、右脚を振り上げ、待ち構えるエレナの姿が映っていた。

冴子「ふぅー　ふー」

そして冷淡かつ怒りの籠もった一言がエレナの口から発せられる

エレナ「そいやいさいなら（それじゃさようなら）」

バコン

容赦なく冴子の顔面がシュートされた。

手加減無しな本気のトーキック（つま先蹴り）が炸裂

冴子の顔は三度（みたび）反り返り、吹き飛ばされるや何度もでんぐり返り、転がりながら後方の暖炉の中へそのままインされた。

その数秒後

冴子「ぎぁぁ～　熱ぢぃ～」

冴子の絶叫が響き、髪や白衣に引火

暖炉の中で冴子は火に包まれた。

冴子「ぎあぁぁぁぁあああ～～」

灼熱の炎に焼かれ

肉と髪と衣服の焦げる臭いが室内に充満する中

通常演技では出す事の出来ない死にゆく間際のリアルな人間の叫喚

暖炉の中で暴れ、バタバタ動かす冴子の足がエレナの目に映った。

冴子「ぎあぁぁあああぁぁあああ」

エレナは哀れな冴子の末路を見据え、背中に刺さるメスを抜いた。

そして放り捨てた小銃とマガジンを拾い上げた時

ふとある物に視線を留めた。

それは録画中のビデオカメラ

エレナはおもむろにそれを手に取り、再生ボタンを押した。

すると

画面にはいきなり始まったレイプシーンが撮されていた。

騎乗位で激しく腰振る冴子が御見内の唇を奪う映像

冴子による陵辱行為が生々しく記録された映像だ

なによこれ…

自分の彼が犯されいるその映像に…

エレナはショックを受けた。

エレナ「あ…」

耐えきれず、目を背け、すぐに停止ボタンが押された。

クソ…　私の道になんて非道い事を…

チキショー…

怒ったエレナはビデオカメラを思いきり壁に投げつけた。

ガシャー

カメラは完全に壊れ、それを見下ろすエレナ

愕然とし困惑する

裸にされ…　無理矢理犯されたんだ…

非道い目に遭わされたんだ…

御見内が受けた性的暴行の辛さと自分の彼があんな目にあった事の悔しさが重なりポカーンと穴が開けられたようにエレナは空虚な気分に陥った。

あんな薄汚い殺人鬼の女と肌を重ね…　道はあの女と抱き合ったんだ…

ついには嫉妬にも似た感情さえも込み上げだし…

いけない…

ううん…　それは違う…

頭を振ったエレナは自らの頭をはたき、我に返った。

しかし

こんな状況でもこんな感情って芽生えるんだ…

こんな殺伐した中でも自分はいち女なんだ…

そう実感し、やきもち焼ける普通の女なんだと再認識したエレナはすぐによこしまな考えを払拭

気を取り直した。

でも…　これでいい…

良かった…

無事救う事が出来たんだもん…

道は生きてる…

それだけでいい…

五体も満足なんだし…

無事だっただけで十分じゃない…

オールオッケーよ…

エレナは自分にそう言い聞かせ、納得させた。

次第に気分も晴れ、落ち着きを取り戻したエレナ

とりあえず早く道の顔が見たい…

会いたい…

無性に御見内に会いたくなってきたエレナは小銃に弾倉をはめ込み、御見内の元へ駆け出そうとした直前

テーブルに並ぶ武器に手が伸び

そしてエレナが振り返った時

いきなり牛刀の刃が目の前に飛び込んできた。

ブン

エレナは間一髪　その斬撃をかわすや連続でもう一振り成され

バランスを崩しながらもなんとか回避、その間に小銃を落としてしまうがエレナは壁際まで後退

壁に背をつけ、前方に着視すると

冴子「ふー　ふー」

まだ身体の一部が燃えつつ

全身焼けただれた冴子の姿があった。