第196話 巨獣

庭園に置かれた大きな庭石の陰に身を伏せる青木と臼井



臼井と無事合流を果たし2人は豪邸を外から観察していた。



臼井「いた 2階に1頭いる」



窓からベランダに姿を現した大熊



青木も確認した。



青木「さっきの奴とは違うな」



臼井「あぁ さっきの奴より一回りデカいぞあれ」



青木「あいつがボスだ」



臼井「あいつが…」



青木「もう2頭いる筈だ 探せ」



臼井「あぁ だけどここからじゃ分からないな みんな大丈夫かな?」



青木「そう祈るしかないよ」



臼井「…」



青木「あんたの囚われた家族も救出しないとな この屋敷に幽閉されてるのに間違いない?」



臼井「あぁ ここの何処かにいる筈なんだが」



青木「熊の被害に遭ってなければいいけど」



臼井「あぁ…」



臼井が絶望的な表情を浮かべ、屋敷を観察しているや



臼井「おい あいつ… 何してんだ」



大熊がベランダの柵を跨ごうとしていた。



すると



ガシャン



熊の体重に耐えきれず、突然柵は壊れ、大熊と一緒に2階から落ちた。



臼井「あっ おい あいつ落ちたぞ」



ドスーン



青木「…」



地響きする程の音をたて2階から落ちた熊はケロッとした様子で起き上がり、宮殿があるだろう箇所の窓をブチ破り、中へと入っていった。



その数秒後…



タタタタタ



2人の耳に発砲音が聞こえてきた。



顔を見合わせた2人



臼井「やばいぞ」



青木「行こう」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



隠し通路へ近づく山口が足を止めた。



榊原「2階から飛び降りてきやがったぁ~ 吉田ぁ~ 逃げろぉ」



エレナ「え?」



振り返った山口



すると



ガガガガガガ



時間でなのか…?



突然勝手に壁が閉まりはじめた。



佐田「え? え? 何々…?」



美菜萌「閉まる」



動き出した壁を目にした山口



山口「くっ クソ…」



タタタタタ



村田「クソ なんだこれ 自動で閉まってるぞ」



ガガガガガガ



榊原「きたぁ~ 退避ぃ~ 退避ぃ

~」



閉まる壁とエレナ達を目にし躊躇し悩んだ表情を浮かべる山口の口から…



山口「後から追う とりあえず先へ行け」



そして山口が部屋から飛び出す後ろ姿を映し、壁は閉められた。



ドンドン



村田「おい どうなってんだよ これ」



裏側は普通の壁、スイッチも無ければレバーも暗証番号入力のボタンも無い、ただの壁



佐田「まさか閉じ込められた…?」



山口等とも分断されたエレナ、美菜萌、村田、佐田の4名



ドンドンドンドン



村田と佐田は慌てふためいた。



佐田「3人がヤバいぞ 開け」



ドンドン ドン



村田「クソ クソ」



すると



エレナ「2人共 今更ジタバタしても仕方ないわ」



エレナの一喝とも言える掛け声に2人が振り返った。



エレナ「進みましょう」



そして階段を見下ろすやエレナが下りはじめた。



美菜萌「…」



カン カン カン カン



足音が響き渡り



続いて美菜萌、村田と佐田も続いた。



かなり深くまで続く長い階段



壁には明かりが灯され足下も鮮明、視界も良好なのだがこの先何があるか分からない この静けさが不気味に感じ取られた。



それと下から臭ってくるこの焦げくさい臭い



何かが焼却された臭いが4人の鼻についた。



エレナは無言で下り、一行がひたすら先へと進んでいくや前方に通路らしきものが見えてきた。



階段は更に下まで延びているが、燃えた臭いはこのフロアーから漂っている



4人は沈黙のまま互いに視線を合わせ頷くと地下1階と思われるフロアー内を進みはじめた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



冴子「はあぁぁぁ~」



悶絶の絶叫をあげベッドに倒れ込んだ冴子



冴子「はぁはぁ ハハ もうギブ」



オーガニズムに達しヒクヒクする膣から恥ずかしい液が大量に溢れ出している。



眠らず、意識もはっきりしないトロンとした表情で横たわる御見内



首筋にはいくつもの噛み跡、歯形がつけられ、胸には無数の引っ掻き傷



そんなまどろみの淵で瞼たゆたう虚ろみな御見内の横顔をニヤニヤしながら見つめる冴子が時計に視線を向けた。



あと5分で意識が正常に戻るわね…



今日は十分楽しんだし…



次は…



冴子が起き上がるやある物の前に立ち止まり、顔を覗かせた。



それは小型のビデオカメラ



液晶モニターにはベッド全体が映りそこに横たわる御見内の裸体が映されている、画面には01:02:35 RECの文字



ビデオカメラが録画されている



冴子「楽しかったです え~ 3回もイっちゃった ヒャ」



手を添え内緒話しのように口にする冴子の顔が液晶モニターにドアップで映り



冴子「さて そろそろ次のお楽しみに入りま~す」



そしてカメラを意識しながら御見内の両手を紐で縛りはじめた。



冴子「え~ 凄っごい暴れちゃうと思うのでまずは縛っちゃいま~す」



御見内の両手、両足が紐で固定された。



冴子「よし これでオッケー」



冴子はベッドから飛び降り、画面からフェイドアウトするや



冴子「じゃーん これを使いまーす」



再び画面に現れた冴子の手にはノコギリが握られていた。



冴子「利き腕はこっちかな? え~今日はこの部分をノコギリを使ってギコギコしちゃいま~す」



カメラに向け、右腕上腕部を指で線引いた。



あと1分…



再び冴子がノコギリ片手に御見内へと跨がり、イチモツを挿入、腰を動かしだした。



冴子「ん ん… はぁ」



そしてビデオカメラに振り返り



冴子「あ… え~ ん これからSEXしながら… ん…ん あん… 腕を切断しまぁ… あん… す」



見開く虚ろな目の焦点が定まり、だんだん意識が鮮明になってきた御見内



意識がはっきりし見上げる御見内の視界には見下ろす冴子が映しだされた。



ピストン運動を止め、御見内の顔に近づけてきた冴子



冴子「惚れ惚れするくらい時間ぴったし おはよう 私の御見内くん」



御見内「くっ 冴子」



冴子「あなたのオチ○チン最高よ 相性ピッタシね でも… まぁいいわ さぁ 次は見せて 腕を切られてる時の痛みの顔とセックスの快楽を味わうこの2つが混ざりあった時のあの何とも言えない表情を」



冴子がイかれた狂気の目つきへと変わりノコギリ両手に振り上げた。



冴子「フフ 記念すべき新オモチャ第1号の御見内くん ぜ~んぶ記録しとくから 切断作業が無事済んだら一緒に見ようね」



御見内「くっ」



そして冴子がノコギリを振り下ろそうとした



その時



タァンタァン タァン



振り上げたノコギリの刃に銃穴が開き、取っ手部から刃が抜け落ちた。



冴子「あれ」



冴子が後ろを振り返ると



眼前には銃で殴りつけようとするエレナの姿があった。



ブン



銃床のハンマー部で小突く一振りをベッドから転げ落ちながらかわした冴子



空振りしたエレナにベッドの死角からすぐに起き上がった冴子の手にはメスが握られ



そしてエレナ目掛け、刺殺の突きを繰り出した。



その寸前



ハンマーの突きを合わせたエレナ



ガキーーン



メスが冴子の手から弾かれ、ベッドの上に落ちると同時に



ドカッ



冴子の胸に飛び蹴りがくわえられた。



壁に背中を打ちつけ、ベッドから離された冴子、またベッドを飛び越え、縛られた御見内の盾となったエレナ



エレナはすかさず89式自動小銃の銃口を冴子に向けた。



冴子「フフ 誰かと思えば貴女なの」



チラリとベッドに縛られた御見内に目を向けたエレナが冴子を睨みつけ、口にした。



エレナ「道をお願い」



後に続いて入ってきた村田、美菜萌、佐田にそう告げた。



村田「御見内」



全裸でベッドに縛られた御見内に近づいた3人



3人は唖然とし



美菜萌「ひゃ」



裸を目にした美菜萌が恥ずかしげに顔を逸らす中、村田と佐田が縛られたヒモを解いていった。



冴子「ちょっとぉ~ それ私の物なんですけど… 勝手に」



エレナ「私の物?」



こめかみに青筋が浮き出



エレナ「私の物だよ」



村田「御見内! 大丈夫か?」



村田と佐田が御見内を抱え上げ、起き上がらせた。



エレナ「3人共 道を安全な場所まで それと早く…」



エレナ「道の所持品は何処? 彼の服をどこにやった?」



冴子「フッフフフ 焼却済みよ だって私の物なんだからそんなのもう必要ないでしょ 暖炉でぜ~んぶ燃やしてやったわ」



もう片方のこめかみにも青筋が浮き出てきたエレナ



エレナ「何でもいい とにかく早く彼に服を着せてあげて頂戴」



村田「わ… 分かった でもエレナは」



エレナ「いいから 私の事はいいから行って ここは2人きりにして」



美菜萌「エレナさん ホント気をつけて下さい そいつは冴子なんですから」



エレナ「えぇ 分かってる こんなイかれた女は生まれてはじめてよ  ここは私にサシでやらせて」



美菜萌「…」



エレナ「早く!」



村田「あぁ 行くぞ 歩けるな?」



御見内「う…ぅ あぁ…スマン」



脚がよたる御見内に肩を貸し、連れ出す村田等が部屋をあとにした。



そしてドアが閉められた。



冴子「あ~あ 折角のオモチャを横取りするなんてヒドいよ」



エレナの目つきがこれ以上にないほど鋭く、怒りに満ちた表情へと変わった。



エレナ「アンタ… 私の男を寝取るとはいい根性してるわね」



エレナが小銃からマガジンを抜き取り、ポイ捨て、本体も投げ捨てると



エレナ「あっさり撃ち殺したんじゃ この怒り おさまりつかないじゃない この怒りのはけ口が無くなる…」



冴子「フフ あらそう 大変ね」



エレナ「テメェーは今からキッチリたっぷりと私がなぶり殺しにしてやっから」



怒りの頂点に達したエレナの声音、口調共に変わり、鬼の形相へと変わっていた。



冴子「まぁ おっかない」



ヤクザエレナへと豹変した。



牛刀、ナタ…などなど…



手にされたら厄介な武器



後ろのテーブルに並べられた凶器の数々を意識したエレナが眼つける



すると



冴子「フフ ねぇ~貴女の彼 ホント良かったわよ でもね… 一つだけ… 全然イかないんだけどもしかしてイ○ポの疑いでもあるんじゃないかな?」



エレナ「はぁ? 訳ねぇーだろ おまえのガバガバな緩いマ○コじゃ感じねぇーだけだよ 私ならいつも5分と保たねぇーから」



冴子「へぇ~ そうなんだ…」



冴子が白衣の内ポケに両手を突っ込みだした。



冴子「それより素手で私と張り合おうしてる?」



懐から6本のメスが取り出され、クローのように3本づつ指に挟まれた。



冴子「残念だけど私 同性にはからっきし興味が無いのよ コレクションにはしてあげられなくてごめんなさいね ただいっぱい切り刻んで殺してあげるからそれで許して」



エレナ「本物のサイコ女だな…」



エレナが拳闘の構えを取った。



エレナ「殺し甲斐があっていい」



冴子「フフフ」



エレナが素手で最凶の女殺人鬼に死闘を挑む



ーーーーーーーーーーーーーーーー



宮殿内に飾られた花瓶、壺などが薙払われた。



ガチャー ガシャン



「ゴオオォォオオ~~」



吠え声をあげ、障害物を蹴散らしながら猛突進してくる超巨大熊



タタタタタタタタタタ



榊原と吉田が出口で射撃を行うのだが…



弾を何発受けようともまるで怯む事無く突っ込んで来た。



吉田「あやや やば」



榊原「当たってるのになんでだ…? チッ 吉田 退避だ 逃げるぞ」



バキ  ガシャン



「ゴオオオオォォオオ」



すると



山口「こっちだ 来い」



山口が2階へと駆け上がり、2人を手招いていた。



吉田「わぁ~~」



ダッシュで階段を目指す2人の背後で…



バコン バキ ガタン



巨大な扉がいとも簡単に開かれ、猛獣の桁違いなパワーと勢いで、蝶番が外れ、扉がぶっ壊された。



タタタタタ



ホール内に突入した熊に山口が2階から発砲した。



腕や肩に被弾するのだがやはり熊の動きは止まらない…



床に血がたれてる…



被弾してるのは間違いない…



なのに動きが鈍る事も無く向かって来る巨大熊に山口は茫然とさせた。



山口「来い 上がれ」



2人が階段に差し掛かり、一段抜かしで駆け上るすぐ背後まで熊は迫り



そして巨大熊が仁王立つや平手打ちをかましてきた。



ガシャー



木製の手摺りは一振りで粉々に破壊され



ブン



振り払われた熊の手が榊原の脚部を掠った。



ガシャー



そして反対側の手摺りも粉砕され、破片が飛び散ると



熊も階段を這い上がってきた。



吉田「う…うわぁぁぁ」



「ゴォォオオ~」



牙を剥き出しに咆哮をあげながら襲い来る熊



すぐ真後ろにいる熊に振り返る事もせず必死に駆け上る榊原と吉田



山口「そのまま走れ」



山口も逃げの体勢で背を向け



先に榊原



続いて吉田が2階に足を踏み入れる間際



吉田の左足首が咥えられた。



吉田「え…?」



山口、榊原が振り返ると



吉田の身体が逆さに吊し上げられていた。



2人は急停止、逆さにぶら下がる吉田を目にした。



吉田「あ… ぁ…」



榊原「吉田」



すると



巨大な影が2人を覆い、吉田を逆さに吊るしたまま、ニョキっと姿を現した。



2人は銃口を向けた。



「フー」



鼻息が吹かれ



大熊がギロリと目を向けてきた。



たじろぐ2人は見上げ、山口が目を合わせる



吉田「や… やだよ 食われながら…死ぬなんて」



山口「吉田 喋るな そのままじっとしてろ」



動きを止め、吉田をくわえたままジィとこちらを目にする熊が突如



吉田を放り捨てた。



階段から放られ、落下した吉田の身体が床に打ちつけられた。



吉田「う… ぅう…」



そして山口と目を合わせてきた熊



こいつ…



物語るこの目…



山口「こいつ… 俺達を弄んでるのか?」



榊原「あぁ 逃げたきゃ逃げろ こいつがどうなってもいいのなら… そんな目してやがる」



「グフゥ~~」



榊原「どうする?」



山口「放ってはおけない」



榊原「今ここでこいつとやるのか? 銃弾が効かない化け物だぞ」



山口「効いてない訳じゃない 見ろ 血は出てる ダメージは絶対ある筈だ」



榊原「なら何発撃てばいいんだよ? その前に俺達が食われるぞ」



山口「目だ 集中的に目を狙えば流石にこの化け物でも動きは鈍る その隙に吉田を回収し逃げるぞ」



榊原「失明を狙うか… どうも上手くいく気がしないが 黙って食われるよりはマシだな」



即席でプランをたてた2人がサブマシンガンを身構えた。



「フー」



そして2人が銃口を熊の眼部に定めた



その時



それを見抜いたかのように熊が叩きつけの先制攻撃を振るってきた。



バコン



床に亀裂が生じる程の衝撃



2人は咄嗟に左右にバラけ攻撃を回避していた。



すると



ガシッ



今度は榊原が捕まえられた。



ベアハッグのまま軽々と持ち上げられ



榊原「ぐっ」



「フー」



鼻水混じりの鼻息が吹きかけられ、顔が近づけられた。



それから熊はまたも山口に目を向けてきた。



次の瞬間



ブン



榊原も投げ捨てられた。



ガン ガン ゴロゴロ



階段から転げ落ち、全身を強打しながら落下した榊原が床に倒れ込んだ



吉田「う… うぐ 榊原さん…」



吉田が床を這い、ピクリとも動かなくなった榊原に近寄るさなか



今度はいきなり大熊が階段からダイブ



ドスン



巨体の着地で床が揺れ、榊原と吉田の間に降り立った。



山口は慌てて2階手摺りから身を乗り出しサブマシンガンを向けた。



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