第186話 拉致

青木「すぐ来い やべぇ事になってんぞ」



臼井「来てくれ」



村田「何だよ…」



今度は何だよ…? そんな表情を浮かべた村田



麻島「海原 ここを見張ってろ」



海原「分かりました」



フロアー内中核に屋上へ抜ける階段があり手招きする臼井と青木が人集りを抜け、上がって行った



3人もそれについて行った。



一方



マツ「みんな落ち着いて とにかく部屋に入ってくれ」



石田「爺さん さぁ ここの部屋に入って」



大半の生存者が廊下に出る算を乱した状態の中



遼太郎が気になるエレナは人ごみを掻き分け、一番奥の部屋へと向かった。



脅えて座り込む老婆を支え、ゆっくり立ち上がらせる美菜萌の姿を横目に扉が開きっぱなしの部屋へと入り込んだ



部屋に入るなり一番に出迎えてくれたのは愛犬のクリス



エレナはクリスの頭を数回程撫でるや人集りを目にした。



こんな惨事にも関わらず呑気にいびきをかいて眠る七海、その隣りでぐっすり眠る早織が目につき、パイプ椅子に座った怪我人の半田



そして部屋を歩き回るおば様におぶられ眠る遼太郎の姿を目にした。



おば様はエレナを見るなり人差し指を唇に立て シィ~~のジェスチャーを送ってきた。



良かった…



この部屋には心配していた全ての人物が揃い、みんな無事な事にホッとしたエレナは安堵の表情を浮かべた。



ガチャ



屋上の扉が開かれ、御見内達が外に出た



そしてある光景が目の前に飛び込んで来た。



それは真夜中の寒空に立ち込めた煙



真っ赤な炎が纏わりつき、燃え盛る輸送機だ



そんな破壊された残骸を前に一同絶句した。



村田「まじかよ…」



麻島「火を消さねば 消火器だ 村田 来い」



村田「はい」



2人は急いで消火器を取りに駆け出す



その場に残された御見内、青木、臼井の3人はただただ無残にも燃えゆく朽ちたヘリを茫然と目にした。



青木「最悪だよな これで一層脱出が困難になった」



臼井「もしかして 下の車両も…」



青木「あぁ ここがやられたならそう考えるのが妥当だ」



これをやった奴…



ひたすら火に包まれた機体を無言で眺める御見内の脳裏に月島と万頭の存在を浮かべた



この建物のどこかに潜んでいる…



下のみんなにこれ以上危害が及ぶ前に…



見つけ出さなくては…



下唇を噛みしめ、拳をきつく握り締め、そう思考を巡らせた



その時だ



炎上する機体の後ろからふらりと1人の男が飛び出してきた。



ロングコートがほむらの灯りに照らされ



手にはランチャーらしき物がぶら下げられている。



そいつは3人の前に堂々と姿を現した。



いきなり現れたそいつに3人は目つきを変え、青木がいち早く銃器を向けた。



続けて臼井も構えを取る



青木「誰だおまえ?」



「…」



青木の問いかけに答える事無くそいつが向ける視線の先には



御見内



御見内はそいつと視線を合わせながらゆっくりと和弓を構え、矢を装填させた。



御見内「万頭だな…」



万頭「あぁ その通り おまえが御見内か?」



御見内「そうだよ」



万頭「よくぞあのバスタードを退けた やるじゃないか 流石あなどれん小僧の評価は上々か」



青木「こいつ…」



万頭「フフ 今なら代表が興味を示した理由も分かる気がする」



御見内「興味? 俺に一体何の用だ?」



万頭「さぁな ひっ捕らえて連れて来るよう命じられただけだ」



御見内「テメェー等のボス 山吹にか…」



万頭「そうゆう事だ 貴様を拉致させて貰う」



御見内「はっ そうかい… やってみろよ ひっ捕らえれるなら… 出来るもんならやってみろ」



万頭「無論 そのつもりだ」



3者から狙われるも平然とする万頭



万頭「フフフ」



余裕かつ自信ありげな笑みを浮かべた。



同時刻



ザワザワ



「何があったんじゃ? 怖くて部屋でなんかジッと出来んぞ」



マツ「頼むから部屋に入ってくれ」



混乱の収拾がつかず…



場を鎮めようとマツ等が奔走するが廊下内は未だバタつき生存者達で溢れていた。



バタン



そんな混雑する廊下に部屋から出てきたエレナがマツ等と共に沈静にあたる



その背後にある一枚の窓ガラス



その窓が静かに開かれ、ロープを伝って1人の男が素早く廊下に降り立った。



誰にも気づかれず、ごったがえす混雑に紛れ、自然に溶け込んだ男



あの月島だ



月島がフロアー内に侵入、含み笑みを浮かべながら廊下を見渡した。



さぁて…



早織とかいうガキと…



エレナ…



どこにいる…



月島が手前の開かれた部屋に目を止め、そのまま入り込んだ。



入るなりリビングで赤子を背負い歩き回るおばちゃんと椅子に腰掛けウトウト寝落ちする半田を目にした。



そして布団に2つの膨らみを目にした月島は足音立てずに近づき、しゃがみ込んだ



顔まで覆われた掛け布団にそっと手を伸ばし



めくろうとした寸前



こちらを振り返ったおばちゃんと目を合わせた。



月島は素早く懐に手を突っ込み拳銃を握ると



おばちゃんは… 静かにね! のジェスチャーを送ってきた。



それから小声で



「悪いんだけど そろそろこの子寝かしつけ成功しそうだから そこの玄関閉めてもらえない それと電気もお願い」



月島がコクりと頷くやおばちゃんは再び背を向け窓から外を眺めながら子守歌を口ずさみはじめた。



布団がゆっくりめくられるとそこにはいびきをかいて眠る七海の寝顔



泥酔し無防備な女が眠っていた



そして七海が眩しそうな表情で寝返りをうつや布団が被され、次に隣りの布団がめくられた。



そこにはスヤスヤと眠る幼き少女の姿



この幼いガキ…



見つけた… このガキで間違いない



早織だ‥



捕獲ターゲットを発見しニヤリと笑みを浮かべた月島が懐から何やら取り出すやそれを口へと装着



立ち上がると今度は掌サイズのある物を取り出した。



部屋の明かりが消され、ドアノブを握ると同時にそれがリビングに放り込まれ、ドアが閉められた。



月島は騒がしい廊下に出るなりニンマリと笑い、さっきと同様の物を複数取り出し、騒然とする生存者達の中に投げ込んだ。



その数秒後



シュー シュー



物体からいきなりガスが噴射



廊下中にバラまかれた複数の異物から一斉に煙りが噴出された。



「キャー 何これ」



「何だ 火事か 煙りだぁ~」



廊下中にガスが蔓延し周辺が一気にガスで包まれていった。



散らばった複数の異物から同時噴射、あっという間に廊下はガスで満たされ



その煙にエレナがハッとさせた時



何この煙…



マツ、海原、美菜萌や石田等が異変に気づいた時には時既に遅し、煙りに包まれ



マツがその煙りを吸い込んだ



またエレナも…



美菜萌や海原…石田や中野、佐田達も…



エレナ「かはっ」



エレナがガスを吸い込み咳払いした。



マツが口を腕で覆い



マツ「みんな…大丈夫か…」



美菜萌も口を押さえ、隣りに座り込む老人を目にするや老人がいきなり滑るように倒れだした。



美菜萌「おじいちゃん…」



すると



廊下にいる生存者達がバタバタと倒れだした。



マツの前で人々が次々と倒れだし



この煙…



何かのガスか…?



マツの視界も急激にぼやけだし、意識が遠のき、目蓋が勝手に閉じゆく



バタン



そして生存者同様マツも倒れ込んだ



美菜萌「マツさん がはっ こほ」



それを見ていた美菜萌が咳き込みながらマツに駆け寄り肩を揺するや



石田、佐田等も生存者達に埋もれ倒れ込む姿を美菜萌は目にした。



そして海原も前倒れし



エレナまでもが意識を無くし美菜萌の目の前で倒れ込んだ



一体… 何が… 起きたの…



美菜萌以外、全員廊下に総倒れしていた。



その光景に愕然とさせた。



また消火器を取りに戻った麻島、村田が非常扉を開くや隙間から猛烈に吐き出された煙が2人を襲った。



村田「何だ これ 火事か… ゴホ」



麻島は咄嗟に口、鼻を腕で塞ぎ



麻島「閉めろ」



だが… 



ドアノブを握ったまま突然倒れ込んだ村田



麻島は体当たりでドアを閉め、倒れた村田の身体をさすった。



麻島「村田」



意識を無くした村田の顔をうかがった麻島



毒ガスか…… ん? いや…



村田は意識を無くしたものの…



死んではいなかった



ちゃんと呼吸し



寝息をたてている



ただ眠っただけのようだ



つまりこれは毒ガスじゃなく… 睡眠ガス…



廊下にまき散らされた煙の正体が睡眠ガスと判明された。



麻島「くっ」



だが睡眠ガスとはいえ 村田は吸引してものの数秒で堕ちた



よほど強力なガスだ



迂闊に入って 煙を吸えば俺も二の舞になる…



麻島「チッ 難儀にかわりは無い」



床中に重なり合って、眠りについた人々の中



美菜萌「うぅ…」



かろうじて意識を残す美菜萌だが、強烈な眠気に襲われ、美菜萌も次第にまどろみはじめた。



負けじと睡魔と戦い、そんな虚ろう中



煙の中を移動する男がいた。



月島は静かになったフロアー内を見渡し、先程のドアを開くや部屋の明かりを点けた。



椅子から倒れ、横たわる半田や赤子をおぶったままうつ伏せで倒れるおばちゃん、窓際で眠る犬を目にし、布団をめくると胎児のように丸まる横向きな寝相の早織を見下ろした。



それから早織をそのまま抱き上げ、脇へと抱えた。



早織の身柄を奪取した月島は悠然と廊下に飛び出し、今度はエレナを探しはじめた。



つま先で身体をどかし1人1人ツラ確認を行っていく



老いぼれ… 違う 



ババア… これも違う…



静寂するフロアー内にいくつもの寝息がたち無力な眠り人達が無抵抗に月島の物色を許した。



そして生存者に重なり仰向けに倒れるエレナを発見、被さる生存者を足でどかし、月島が眠れるエレナを見下ろした。



見つけた…



月島「フハハ」



それから月島はエレナを肩に担ぎ上げた。



重…



エレナを肩に、早織を脇に



女、子供とはいえ2人同時に運ぶのはきついな…



月島「チッ」



月島が舌打ちしながらこの場から撤収を図ろうと踵(きびす)を返した その時だ



突然足首が掴まれた。



ん…?



月島が振り向くや



足首を掴んだ美菜萌の姿を目にした。



美菜萌「どこへ…?」



目を開けるも辛そうな表情で掴んできた美菜萌を蔑んだ表情で見下ろす月島が口にした。



月島「驚きだな まだ起きてる奴がいるなんて」



美菜萌「ど… 2人をどこへ連れてく気…」



すると



月島が美菜萌の掴む手を振り払い、吐き捨てた。



月島「本来ならこのまま皆殺しにするつもりだったんだ 命拾いしただけでも俺に感謝するんだな」



美菜萌「うっ ま… 待…」



伸ばした腕が落ち、ガクンとこうべが落ち、まぶたが閉ざされた美菜萌



ついに睡魔に負け、力尽きた美菜萌を背に窓から脱出を試みようとロープを掴んだ時だ



バタン



今度は非常扉が開かれ、現れたのは麻島



麻島「待て 月島 やはり おまえの仕業か」



月島「チッ まだ動ける奴がいたのか…」



口や鼻をガスマスク代わりに破いた衣服で覆い、銃器を向けた麻島



月島も咄嗟に眠ったエレナを盾がわりにし、拳銃を身構えた。



麻島「裏切りの次は誘拐か… 2人をどうするつもりだ?」



月島「関係ねぇー まとう 」



麻島「俺がいる以上この場から逃げ切れると思うな 月島」



月島「逃げ切れないだぁ? 鬱陶しいぜテメェーは 逃げ切るよ」



麻島「大した自信だ だがそうはいかん その2人を離せ」



麻島がMPで狙いを定めながら距離を詰め始めた。



月島「おい麻島 止まれ この女の頭をこの場でふっとばしてこのガキをここから投げ捨てたっていいんだぜ」



ピタリと足を止め、睨みつける麻島



月島「そうだ 次は進んだ分だけ下がれ」



麻島「2人を離せ…」



月島「下がれぇ~」



威嚇の咆哮で月島が怒鳴った。



麻島は言う通りにゆっくりと後退



数秒間睨み合った。



麻島がいる以上このまま2人を担いでロープ降下するのは不可能…



チィ… 仕方ない…



麻島「…」



月島がいきなりエレナの背中を足蹴に押し倒した。



麻島「な…」



気を失うエレナの身体は突き飛ばされ、倒れた生存者の上に前倒れした。



その隙に月島は窓から飛び降り、片手でロープに飛びつくや滑り落ちて行った



麻島は倒れたエレナに駆けより、安否の確認をするやすぐに窓から外を覗いた。



月島「До свидания (ダスヴィダーニャ さようなら) ハハハハ 」




闇夜に溶け込み、視認は不可能、降下する月島の笑い声のみが響いた。



麻島「クソぉ」



麻島はすぐに屋上へと移動した。



そして屋上の扉を開いた瞬間



トリガーがひかれ



ブシュュュュ~



麻島目掛けロケット砲が発射された。



ブシュュュュ~



開いた途端自分に向かって来るロケット弾が目に映るや



目前で着弾



ドカァァー



爆発を起こし、麻島は吹き飛ばされた。



そしてそのまま階段を浮遊し壁へと激突



麻島「ぐはっ」



全身を打ちつけた麻島の身体はずり落ち、麻島も気を失った。



万頭「フフ」



爆発跡の隣りには倒れた青木と臼井の姿



その横には数個の睡眠ガス弾が転がっていた。



そしてランチャーが捨てられ、万頭の肩に担がれているのは気を失った御見内



万頭は御見内を肩に担いだまま、屋上の手すりを跨ぐや、前方のビルまで張られたロープに腕を伸ばした。



それから取り付けられた滑車を手に取り、そのまま飛び降りた。



万頭はロープを伝い真夜中の高所をそのまま空中横断していった。



麻島、青木、美菜萌、マツ、村田、海原、臼井、半田、七海、石田、中野、佐田



そしてエレナ…



全員意識を無くす中



からくもエレナは未遂に終わったものの…



御見内と早織の2人が万頭、月島によって攫われた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る