第149話 逃遁

サイドから貫いた凶弾



青木、美菜萌の目の前で斉藤が狙撃された。



美菜萌「さ…さ…」



目を見開かせ、これ以上口から言葉が出せない美菜萌と絶句し唖然とした表情の青木の前で斉藤の身体は無抵抗に重力へ従い、地に倒れ込んだ



美菜萌「い… いや… さ…」



長棒が手放され、枯れ葉に埋もれると美菜萌の手は激しく震えだし、木陰から飛び出した



それからその震える手で斉藤の背中を揺すった。



即死だろう…



目を開けたまま死に絶えた斉藤の背中をさすり、しゃがみ込んだ美菜萌



レジスタンスが組まれてからの仲間であり



敵対組織と一緒に戦ってきた戦友でもある



そして美菜萌にとってはお兄ちゃん的存在でもあった



倒れてゆく仲間の姿なんて幾度も目の当たりにしてきた



その度に何度も押し殺してきた



だけど…



今回は… 我慢できない…



その力を強め、目に涙を浮かべはじめた美菜萌



今にも張り裂けそうな悲しみの感情が噴き出す直前



突然後ろから強引に美菜萌の腕が掴まれ、引っ張り上げられるや、木の陰へと引きずり込まれた。



青木「シィー」



そして2人は目を合わせた。



だが…



青木を見るなりやはり冷静沈着な美菜萌でも流石に感情のコントロールが出来ない様子だ



溢れる涙が頬を伝い



今にも泣き叫びそうな爆発寸前なその口がいきなり掌で塞がれた



美菜萌「い」



青木「っとと よ~く分かる… 分かるけど 聞いて 今は堪えてくれ 厄介なスナイパーが相手だからさ あの人はマジやばめだから… 感情に流されれば俺等もすぐに斉藤の後追いになる」



美菜萌「…」



いつの間にか拾いあげたマカロフを握り、長棒をそっと手渡した。



青木「さぁ これを持って まずは深呼吸しよう 気持ちを落ち着かせて さぁ 言われた通りにやってごらん はい スゥゥ~~ハァ~ スゥゥ~ ハァーだ やって」



口が塞がれたまま言われた通りに鼻で深呼吸をはじめた美菜萌



青木「そう その調子 気が落ち着くまでやり続けるんだ」



その間 青木は身を潜めながら辺りを見渡し、警戒した。



周りはスペツナズの発砲と奴等の喚き声、熊の咆哮が尚も続いている



青木「斉藤の無念を晴らすにはまずここを何としても切り抜けないとだ 君をみんなの所に連れ戻す どう? 落ち着いた?」



美菜萌「んんんん」



頷き、何か言いたげな美菜萌の口から手をどかすと



美菜萌「口塞がれたら息が出来ません」



涙も乱れもおさまった美菜萌を目にし



青木「そっか ごめんごめん… 流石 強いね」



美菜萌「ごめんなさい 取り乱してしまって ちょっと落ち着きました」



するとニンマリ笑いかけた青木



イジャスラフ、アイビス、斉藤の死体をあとに…



青木「カモン」



美菜萌の手を引き、青木が木陰を伝って移動をはじめた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ズームアップされたレンズを覗き込む男 明神



フォーカスリングがつままれ、ピント合わせの微調整を行いながら隠れた獲物を探す そのさなか



ザァザァ



「見つけたか」



背後から現れた山吹等本陣



明神「イエス」



冴子「テディベアちゃん達 何処どこ~? 全然見えないけど~」



明神「当然肉眼じゃ無理だ この先にいる でも今は危険だぞ ゾンビの群れにロシアの軍人さん達とにぎやかな大混戦になってる 他にもレジスタンスが数匹チョロチョロしてる アイビスがそいつらに殺られたよ」



山吹「そうか…」



すると手を繋いだ少女の前に座り込み、山吹が何やら耳元で囁いた。



山吹「彩羽よ パパとママを殺した悪い熊さん達がこの先にいる 首を取ってくれば魂の欠片が集まるぞ」



彩羽「それ集めればパパとママに会えるの?」



山吹「あぁ そうだ 欠片さえ集まればいずれな パパとママに会いたのなら悪い熊の首を取ってきてくれるかい」



彩羽「うん 許せない 私のパパとママを返してもらうんだから」



山吹「そうだな さぁ 行ってきなさい」



彩羽「わかった」



怒り顔の少女が山吹の手から離れ、森の中へと消えて行った。



冴子「健気ね… 純粋な少女を騙すなんて幻史ってホント悪い男」



山吹「フッ」



すると



明神「どっこいしょっと じゃあ俺は」



立ち上がり動き出した明神に



山吹「何処に行く?」



明神「もうちょっと近づいてみますわ レジスタンスの鼠を仕留めてきます」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



コーキュートス 地下坑道



タタタタタタ タタタタタタ



ギョエエエエ~



デスワームの表皮に無数の銃穴が開き、はらわたを露わにしながらもがき暴れる中



「ぎぁぉぁあ~」



スペツナズ兵が頭から丸呑みされる中



ボゴォ~



壁という壁から、次から次へと頭部を突き出し、そこら中からデスワームが参上してきた。



パン パン パン



月島「この化け物何匹いるんだぁ」



タォン タァン タタタタタタ



村田「やべ うじゃうじゃ 出てきたぞ」



エレナ「…」



タタタタタタ  



的確にワームや頭に銃弾を撃ち込んでいくエレナ



ガチガチ



マガジン排出ボタンが押され、排出と共に新たなマガジンを嵌め込みながら御見内へチラリと視線を向けた。



ポリーナ「フフフ」



滅茶苦茶となる戦場の真っ只中、ごっついナイフを構えるポリーナと対面した御見内



御見内vsポリーナ



御見内がMPを肩に掛け素手で構えを取った。



ポリーナ「…ウフ」



互いにゆっくりと間合いを詰め、先制で動いたのはポリーナ



横薙の刺撃を放つや、右肘のブロックではじかれ、次いで繰り出す寸前 左腕のガードでそれは阻まれた。



ポリーナ「…」



互いに数歩退き、間を計るや再びポリーナが連続でナイフを振るってきた。



だがそれも手刀、肘や上腕を使って巧みにディフェンスでいなす



3連撃のスラッシュを捌かれ、ポリーナが再度身を引き距離を取った。



それからナイフをクルッと逆手に持ち替え



ポリーナ「フフッ Сделай это(やるわね)」



ポリーナが鋭角から素早い斬撃を放った瞬間



御見内が事前で手首をキャッチ、同時に反転しつつ背後へと回り込み、関節を決めながらそのまま投げ飛ばした。



ポリーナの体躯は奇麗に回転され、背中が着けられた。



鮮やかな放物線を描いた投げ技



合気道の四方投げが決まった。



御見内はすかさずナイフを蹴り飛ばし、ハッとしたポリーナが顔を上げた瞬時



ガコッ



ポリーナが途端に白眼を剥き、目を閉じると共に崩れ落ちた。



御見内が肘を振り抜いていたのだ



顎にヒットさせ、脳を揺さぶられたポリーナはそのまま気を失った。



だから… 東洋人だからって たかをくくり過ぎなんだよ…



スペツナズのポリーナを一瞬でKOさせた。



次の瞬間



いきなり壁から飛び出してきたデスワームが醜怪な口を広げ、襲いかかってきた。



ドカァー



御見内がとっさに横飛びで回避するや、食らいつく口が地表に激突、ポリーナごと押し潰した。



転げた御見内はMPを手に取り、デスワームに銃撃した。



タタタタタタ



ギィィイイ~



穴だらけにされたボディーから緑色の血が吹き出し、激しくバタつかせる



御見内は周りに目もくれず小屋へと駆け寄った。



そして勢い良く中に侵入した瞬間



御見内の目に映ったのは、穴から顔を出した3体のデスワーム共



粘り気ある唾液を垂らし、今まさにポン吉、臼井、柊に襲いかかろうとする寸前だった



そしてポン吉が焦りながら小銃を構えるよりも先に



パスパスパス パスパスパスパスパスパスパス



MPから放火され、デスワームの頭部に弾丸が直撃された。



キェイィィィ~



3つの鳴き声があがり、デスワーム等が頭を引っ込める。



そして腰を抜かしたポン吉、青ざめた臼井、柊に御見内が口にした。



御見内「処置は中断だ すぐに逃げるぞ」



その言葉で臼井、柊がそれぞれ重体となる根城、百村をおぶった。



その横で腰を抜かしたポン吉に御見内が胸倉を掴み、喝を入れた。



御見内「ポン吉さん 立て 今巨大ミミズの大歓迎を受けてる そんなんじゃ2人をエスコートなんて出来ないぞ しっかりしろ いいな?」



ポン吉「う は… はい…」



そして御見内がドアノブを掴み



御見内「出たら一目散に出口を目指す 止まるな 全力で走れ みんな いいな?」



柊、臼井、ポン吉が頷き



ドアを開くや4人は外へと飛び出した。



先頭で飛び出した御見内が目に入ったデスワームに発砲、そして叫んだ



御見内「みんな 走れぇ~ 逃げるぞぉ」



3人は駆け出し



御見内「エレナァァ~」



その声に振り返ったエレナ



エレナ「村田さん 行きましょう」



そしてエレナ、村田も四方に銃を向けながら離脱をはかった



暗い坑道に2線のライト光が照り、先頭にポン吉、根城を背負う柊、百村を背負う臼井を挟みすぐ斜め後続に御見内が位置した。



また小走りで出口を目指す4人を追いかけ、エレナと村田の姿も…



ゴゴゴゴ~ 地中を移動する音



地盤が揺れ、天井に地割れが生じ、活発な移動の気配



ミミズの化け物共が地中から追いかけ…



ドカァー



4人が通過したすぐ後ろから顔を出したデスワームに御見内が振り返りざまで発砲した。



パスパスパスパスパ



ギェェィイイ~



そしてデスワームは悲鳴をあげ頭を引っ込める



こいつらマジ何匹いるんだ…?



すると



今度は行く手を遮る様に20メートル程先の地表から2匹同時に飛び出してきた



ポン吉「ひぃぃい~」



驚きとたじろぎで止まろうとしたポン吉へ



御見内「止まるな」



ポン吉「え?」



このまま突っ込めっての…?



立ちはだかる2匹の内1匹が何やら吐き出す仕草を行った。



あの粘液か…



させるか…



パスパスパスパスパスパス



御見内は走射で引き金をひいた。



ギィィイイ~ キィイイイ~



縦一線に複数の銃痕が刻まれ、2匹が怯んだ



ポン吉も走りながら89式小銃を連射



暗闇にパッパッパと銃口からフラッシュがたかれ、デスワームの悲痛な鳴き声が更にあがった。



1匹はたまらず地中へと逃げ込み、もう1匹は激しくもがいたのち



動かなくなった。



4人は死したミミズの横を駆け抜ける



エレナ「みちぃぃ~」



そして背後からエレナの声が響き、2人も合流した。



村田「へっ これある意味ミミズに感謝かもな どさくさに紛れてロシアと裏切り者を振り切れたんだ あいつらあのまま化け物にでも食われてくれれば尚ラッキーか」



御見内「村田さん 油断は禁物っす ここを無事出れなきゃそんなの意味が無い」



村田「わぁ~てるよ」



エレナ「2人の容態は?」



臼井「いい訳無い 重体だ 意識が無くなった」



エレナ「…ヤバめね 急がなきゃ」



ポン吉「ねぇ それよりホントに出口はこっちでいいの?」



柊「あってるよ トロッコの線路が続いてるんだ 間違いなく出口に通じてる筈だよ」



その時だ



真っ暗な坑道に微かに差し込む日の光を目にした。



柊「おい ほら見ろ みんな お日様だ 出口は近いぞ あともうちょっとだ」



村田「よし いいぞ」



ポン吉「うわぁ~ やったぁ~ 助かった」



元気を取り戻し、笑顔を浮かべるポン吉



ゴールは目前のようだ



光明が差し、御見内等全員に安堵の表情が浮かべられた



次の瞬間



ゴゴゴゴ~ ゴゴゴゴ~



突如



今までとは桁違いなレベルの地響きが坑道を駆け巡った。

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