第115話 挑戦

前頭が禿あがり、白衣姿の男と純白のパーカーにフードを深々と被り、長さ30センチ程の木のスティックを手にする男



2人の男がゆっくりした歩調で近づいて来た。



野々宮がインカムの交信を中断し、MPを構えた。



野々宮「止まれ ZACTだ」



益良教授「ホッホッ ザクト?そのザクトが何の用かね… ここは関係者以外立ち入り禁止だ」



野々宮「こいつが見えないのか?傷害致死罪でおまえ達を逮捕する」



それでもお構いなく歩み寄って来る2人



益良「柊 臼井 何そこの装置の電源を落としてるんだ? さっさと再開させるんだ」



野々宮「おい そこの2名 聞こえなかったのか? 止まれって言ったんだ」



野々宮はMP5SDを構えながら前に出た。



益良「変な気を回して倒戈(とうか)するつもりか? 肉親が繋囚されてる事を忘れたかおまえ達」




柊「ぅ…」



臼井「あ…いや…」



益良「最後の験体だぞ それがBにもAにもなるやもしれん 当たりが生まれるかもしれんのだ さっさと続けるんだ」



臼井「は…はい…柊」



柊「あ…あぁ」



野々宮「駄目だ 再開なんてさせない この施設はこれよりザクトが掌握し、この施設ごと破壊する」



益良「フッフッフ 何を寝言をほざいている…」



野々宮「おまえがここの責任者のようだな 腐敗しきった殺戮者どもめ 正義の裁きを受けてもらうぞ」



双方が近づいて行き、MPの銃口が益良の額へつきそうな程距離を縮めた



その時だ



隣りのパーカー野郎が突如手にするスティックを振るってきた。



アバニコ(頭上で手首を返すように打つ)で側頭部を狙った素早き打ち



野々宮は咄嗟に腕でガードしそれを受け止めた。



こいつ…



野々宮が視線を向けるが深々と被られたパーカー 鼻筋までしか見えない…



MPの銃口をそのパーカー野郎に向けようとするや



それよりも早いコンパクトなモーションからの打ちで手首に打ち当てられた。



野々宮の顔が微妙に歪み



銃口がパリー(掌で打ち払う)され、狙いが反らされるや



今度はスナップを利かせた木の棒のショートな下段打ちが弁慶(脛)へと当てられ、次に腕を脇から絡ませ、背後へ体移動しながら野々宮の体躯が前のめりによろけた。



また同時に銃挺を握る手首が捻り返され、MPがディスアーム(敵から武器を奪い取る)された。



銃身を掴み上げたパーカー野郎は瞬時に野々宮からMPを奪い取り、脇をキメ、腕の関節をキメていた。



御見内「隊長」



そしてMPが投げ捨てられ、野々宮も投げ飛ばされた。



MPも野々宮も床を滑らせる



だが 野々宮はすぐに起き上がり、片膝を立てながらそのパーカー野郎に目を向けた。



この俺が一瞬にして銃を奪われ…関節をキメられただと…



滑り落ちたMPへチラッと視線を向け、仁王立つパーカー野郎の背中を目にする野々宮



さっきの身のこなし… 打ち当て…



武人か…



截拳道(せっけんどう ジークンドー)? シラット(インドネシア武術)か? クラヴ・マガ(イスラエル格闘術)…?



何者だこいつ…



何にせよこいつは…



かなり実戦的な武道家…



御見内「おぃ そこのパーカー 銃ならここにもあるぜ この距離なら絶対外さねぇ」



今度は御見内がMPを身構えた。



御見内「隊長 大丈夫ですか?」



野々宮「問題ないです それよりそこの男 何かしらの格闘術の経験者です 油断大敵ですよ」



御見内「えぇ 今ので分かります」



益良「ハッハ 銃での脅しなどこの男には通用せんぞ」



御見内「脅し? 誰が脅しだって言った? これはおまえ等2人を撃ち殺す為に構えてるんだよ」



今だ無言を貫くパーカー男



益良「こいつは私の最高のボディーガード エスクリマドールだぞ」



御見内「エスクリ何だって…?」



益良「エスクリマドールだ フィリピン武術 カリの達人だよ」



カリ…?



そういえば 美菜萌さんが数日前に言ってたな…



幹部の中にカリの使い手がいるとかどうとかって…



この白パーカーがその カリってやつの使い手か…



御見内「へ~ それで?… いくら武術の達人でも弾は避け切れないよな? そこのエスクリ何チャラ 試してみるか?」



益良「ハッハッ 銃があるからって粋がりおって 若竹 そこの小童(こわっぱ)舐めてるようだから 少し相手してやれ」



御見内「小童? それ俺の事を言ったのか? 老いぼれるにはまだ早いんじゃないか? 状況も把握出来ないのかよ 勝手に決めるな 誰が相手なんてするかよ」



すると 男がいきなり白フードを剥ぎ取り、面を現した。



バブルマッシュなヘアースタイル



シンプルなシルバーのピンピアス



しっかり日焼けが残る健康的な黒い肌色



世の女性誰しも一度は振り返ってしまいそうな程の甘いマスク



今風のイケメンが素顔を晒した。



そして感情の籠もらない無の視線で御見内を見据えていた。



それから若竹は無言で人差し指を御見内へ差し向けるや



クイックイッと折り曲げてきた。



明らかにかかって来いよの挑発行為



うっすら口角を上げ、含み笑みさえ浮かべている。



益良「ほれ 挑戦を受けぬのか? 尻込みするようなら そちらの敗北者を連れてさっさと尻尾を巻くがいい 早々にここから立ち去れ 小童」



すると



突如引き金がひかれた。



パス



益良の頬スレスレを目に見えぬ弾丸が通過する。



御見内「本来ならそのよく動く口内にぶち込んでる 本当ならおまえはもう死んだ…… 面白い そこのボディーガードを負かしてじっくりとおまえの面を拝みたくなってきたよ」



益良「ぐっ…」



御見内「隊長 このパーカーは俺が相手しましょう その間にラボの破壊を頼みます」



野々宮「相手なら私が」



御見内「いや そいつからの御指名のようなので俺がやりますよ」



野々宮「分かりました やれますか?」



頷く御見内



益良「破壊だと ならんぞ 若竹」



そして野々宮が立ち上がるや、若竹が動き出し、行く手に立ちはだかった。



その瞬間



MPが臼井の胸に放られ、預けられ



両者の間に割って入っていった。



若竹の武器となるスティックが掴まれ、御見内が割って入っていたのだ



御見内「おい そりゃあないぜ 相手が違うんじゃないか 望み通りサシの挑戦受けてやるんだからさ」



若竹「…」



力の込め合いが行われる中



御見内「行って下さい」



野々宮「分かりました すぐ戻ります この場は頼みます」



野々宮が取っ組み合いする2人の横を通り過ぎ奥へと向かって行った。



益良「貴様ぁ ならんぞぉ」



慌てた益良が野々宮の後を追いかけようとするや



臼井「教授 動くと撃ちますよ」



益良の振り返った先にはサブマシンガンを構える臼井の姿があった。



益良「ぐぅ 裏切りおったな…ただじゃすまんぞ 若竹 さっさとそのガキをブチ殺してあいつを追え」



御見内「キャンキャンうるせぇー ジジイだな 追わせねぇーよ」



これから若竹との格闘戦が行われる。

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