第114話 製造

怯えた表情でたじろぐ2人の研究者に銃を構えながら近づく御見内



また接合途中な実験体に目を向けた。



御見内「そこの移植中の腕はなんだ?おまえ等何をやってる?」



いつ撃ち殺してもおかしくない程



研究者に詰め寄る御見内の顔は怒りに満ちていた。



そして1人の研究者のオデコに銃口を押し付けた。



御見内「人の身体でおもちゃ作りか…… つくづくおまえ等はクソだな おまえ等も黒の奴と同罪だ 俺が今すぐ罰してあの世に送ってやる」



「ちょ…やめ…」



御見内「おまえ達には倫理の話しをしても無意味なんだろ?」



トリガーに添える指が今にも引かれそうなMP本体が怒りで微かに揺れている。



「う…撃たないで…」



御見内「話しの通じない奴から命乞いなんか聞きたくねぇ~な」



すると



隣りの研究者が口にした。



「た…頼む 殺さないでくれ」



御見内「あぁ?罪無き人々をキメラ化しといて…我が身だけはそんなに大事か? 随分と虫がいいんだな」



「は 話しは出来る 話しを聞いてくれ…私達はこんな事好きでやってる訳じゃない」



御見内「…」  野々宮「……」



「やらなければ妻が殺されるんだ…だから仕方なく… だから私達の話しを聞いてくれ」



御見内「…」



野々宮「御見内さん ストップです」



野々宮によって押し付ける銃口が外された。



野々宮「聞かせてもらおう」



「私は妻を こっちは母親が人質にとられている そして協力しなければ共々皆殺しにすると… そう 脅されている 強制されてるんだ」 



御見内「人質?」



「あぁ 私の妻のお腹の中には子供が……」



野々宮「御見内さん…」



御見内「えぇ どうやら嘘は言ってなさそうです」



「ありがとう 信じてくれるんだな」



すると野々宮がベッドに近づき、中断され、寝かされた男を眺めながら口にした。



野々宮「これが例の…」



御見内「何の為に?何でこんなものを製造してるんだ? 」



「それは…」



「臼井さん… ヘタに喋ると…」



臼井「分かってる… その前に一つこっちから聞きたい その格好 あんた達は軍部の者か?」



野々宮「えぇ まぁ そんなもんです」



臼井「なら私達を救いに来てくれたって事なのか?」



御見内「もしあんた等が善良であるならばそうだ」



臼井「柊(ひいらぎ)!今の話 聞いたな? ここは全てを話してこの人達にすがるしか俺達に救いの道は無い」



柊「えぇ…確かに ですが…」



御見内「何もかも隠さず話せ」



臼井「分かった 私達の知ってる事は全てお話しする」



御見内「まずバスタードの事を詳しく教えろ この腕や脚をくっつける意味は?」



臼井もベッドに寝かされた男へと近づき、野々宮同様顔を覗かせた。



臼井「これがそのバスタードと呼ばれてる奴の製造段階1の状態になる」



野々宮「段階1?」



臼井「あぁ 何をしてるかはこれを見れば一目瞭然でしょう 御覧の通りここでは人体に他の人間のパーツをくっつけてる パーツや付ける箇所に意味はない」



臼井があらゆる装置の電源を切りはじめた。



臼井「柊 そこの電源を落とせ もう接合は必要ない 代わりにその腕を切るんだ」



柊「了解」



臼井「ただ くっつける事に意味があるんだよ… まぁ疑問が深まるだろう」



すると臼井が隣りのデスクへと移り、パソコンのマウスを扱いながら口にした。



臼井「その前にお2人さん ちょっとこいつを見てくれ」



柊が装置をいじるやアーム型の機械が作動しマニュピレーションされる



そしてアームの先端からレーザーが照射され、接合部分がカットされていく



その間 2人がパソコンを覗き込むや画面に映るある画像を目にした。



倍率され映された線虫らしき2つの虫の画像



野々宮「これは?」



臼井「話しをする前にまずこいつらの存在を知っておいた方がいい」



野々宮「これは… 寄生虫…?」



臼井「そうだ 右がマイクロネーマ・デレトリック 左が芽植弧虫と呼ばれている虫 寄生虫だ どちらも寄生タイプの線虫だよ」



御見内「…」



臼井「この2匹 世界的に見てもほぼ人体への寄生症例は無く、過去2例程ある だからあまり知られてない寄生虫なんだが、こいつらに侵されると宿主の脳内は食い尽くされてしまう… じつは非常に恐ろしい寄生虫なんだ」



ズームアップされた不気味に映る寄生虫の画像



臼井「これらが突然変異を起こし、増殖し、人間に襲いかかってきた…こいつら2匹こそが感染者とゾンビの原因であり、この世界的大パニックを引き起こした張本人なんだよ」



御見内「…」



野々宮「こいつらがこのバイオハザードの原因だって?」



臼井「その通り 原因はウイルスだと思われがちだが 正体はこの虫達だ しかもこいつらには役割がある こっちが感染者用…」



臼井がマイクロネーマデレトリックの画像を指差した。



臼井「…そしてこの芽植弧虫の方がゾンビ用って所だな こいつらは本当に恐ろしい まず体内に卵が侵入したらすぐに孵化しながら脳を目指すんだ そして脳を支配しつつ内部を蝕んで行くんだ… 分裂するんだよ その分裂で増殖していき 内臓を食い荒らし、取り込みながら同化していくんだ」



御見内「…」



臼井「こんなにも恐ろしい虫だ 人間などイチコロだ 未曾有の大パニックにもなる」



野々宮「こんな虫に絶滅寸前まで人類は追い込まれたのか…」



臼井「だが それも直に終わるかもしれないぞ なんせ世界的にもだいぶ研究が進みこいつらの全貌が明らかにされたんだから だいぶ色々な事が分かってきてるんだよ アメリカではこいつら用の駆除薬が開発されて既に世に出回りはじめてるって聞いたよ」



野々宮「その情報は確かか?助かる道が出来たのか?」



臼井「あぁ いずれはこのゾンビパニックも終息に向かうだろうな まぁ あとどれくらいかかるかは定かじゃないけど」



御見内「臼井さん…だったな その吉報も詳しく聞きたい所なんだが 生憎トークに花を咲かせる程時間がないんだ そろそろ本線に戻ってくれるか」



臼井「おぉ そうだったな 悪かった 話しを戻そう こいつらは人間の体内に入ると増殖を繰り返し、同化するって言ったが 実は更に変異したり進化を遂げたりする事が調べで分かったんだ」 



野々宮「変異…?」



臼井「そうだ 変異とは幼虫同士が接合し合体して一匹の大きな成虫に変態する事 そしてその姿というのがこれだよ」



臼井がマウスをクリックすると新たな画像が映しだされる



野々宮「なんだこれ? 脚が生えてる」



画像には複数の脚が生えた奇っ怪な虫の姿が映っていた。



臼井「これがいわゆる進化した成虫の姿だよ ちなみにこっちが普通の成虫になる」



脚なしな普通の成虫画像が指さされた



御見内「それで…そのくっつける意味はなんだ?」



臼井「バスタードに他の細胞を繋げると、この反応が高確率で現れるんだよ」



野々宮「腕や脚を繋ぐと反応…」



臼井「つまり脚の生えた成虫が生まれる 色々実験した結果 この接合のやり方が一番成果をあげてる 何故かは分からないが他人の細胞…つまり腕やら脚をくっつけるとそれを取り込もうと反応が起きる すると内部で…虫に更なる大きな反応が現れるんだ こういった接合や吸収…同化する事で その過程で成虫に進化する率が高まるんだ」



御見内「何の成果だ? もう回りくどい言い回しは無しにしてくれ ハッキリ分かり易く教えてくれよ」



臼井「今説明してる最中だろうに 随分とせっかちなあんさんだな」



御見内「要は何を生み出そうとしてる?」



臼井「人工的な変異体感染者だ… すなわち知能のある感染者の製造だよ… そして一番の目的はもう生まれた 求めていた研究の成果は既に達成された もう成就されたんだよ 念願のバスタードレベルAがな」



野々宮「バスタードレベルA?」



臼井「あぁ 全ての数値でAランクのとんでもない人形 最高級品の継ぎ接ぎ人形がこの世に生まれちまったんだよ」



御見内「なんだと…」



臼井「変異体感染者になればある程度の知能を有する 超人のようなパワーを持ち、しかも命令に従う便利な道具を作り出したんだよ」



野々宮「そのバスタードレベルA…」



臼井「あぁ その中でも特別に優れた変異体だ 私達と全く変わらぬ知能…それから特殊な能力が備わってる… 再生能力ってやつがね」



すると御見内は耳を疑った。



御見内「ちょっと待て 今何の能力があるって言った?」



臼井「再生能力だよ 腕を切り落としても…生えてくるんだ」



再生能力だと…



御見内の顔色がみるみると青ざめ、臼井の言葉が途端に遮断された。



嫌な予感が的中した…



これじゃあまるで…



あの悪魔のような女の再来じゃないか…



野々宮「生きた人間を故意に感染者へ変え、操るか… 目的は?」



臼井「私もそこまで詳しくは知らないが バスタードの部隊を作り それを率いて近い内感染者とゾンビを一掃しようと目論んでいるようだ そして一掃後は北海道と東北を支配下にユートピアを建立しようとしてるらしい」



すると 凄い剣幕で



御見内「バスタードAってのは何処にいる?この奥か?すぐに始末する」



乱した御見内が臼井へと詰め寄った。



御見内「すぐそこへ連れてけ」



そして臼井の胸倉を掴み、いきり立つ御見内



臼井「バスタードAならここにはもういない とうに代表が何処かに連れてったよ」



御見内「おまえら何をしたのか分かってるのか? とんでもない奴を作り上げたんだぞ あの悪夢を…」



臼井「え?」



野々宮「ちょ 御見内さん 急にどうしたんですか やめて下さい」



野々宮が羽交い締め、御見内を引き剥がした。



御見内「お前らは何も知らないからそんな呑気でいられる… 人間如きの制御なんか通用する筈がないだろ そいつは必ず暴走する…すぐに牙を剥きはじめるぞ」



野々宮「御見内さん 御見内さん 落ち着いて下さい」



御見内「一番復活させてはならない奴を再びこの世に呼び出しちまったんだぞ」



野々宮「御見内さん!」



暴れる御見内を背後から抑えつける野々宮



臼井「復活って…?」



野々宮「御見内さん 冷静になってください」



暴れる御見内を必死に抑え、諭した。



その言葉でふと我に返った御見内は次第に冷静さを取り戻していく



そしてようやく落ち着きを取り戻した。



御見内「はぁ はぁ すいません隊長 取り乱してしまって」



野々宮「らしくないですね 大丈夫ですか?」



御見内「もう大丈夫です それより臼井さん バスタードはもう人間じゃないんだな?」



臼井「あぁ 感染能力を遺伝子操作で制御された感染力を持たない感染者だ もう人では無い」



御見内「ならばここのラボごと全てのバスタードを処分する 部隊など活動させてなるものか 協力してくれ」



臼井「残念だが 一足遅かったようだ バスタードBからCランクの人形達は一昨日運び出されたばかりだよ 今ここに残ってるのは廃棄予定のDが20体と製造途中、結果待ちの験体が22~3あるだけだ」



野々宮「何処へ運ばれたんだ?」



臼井「私もそれは分からない 一昨日軍人らしきロシア人がラボへ訪れて来て100体を運んでいったばかりだ」



野々宮「ロシア人? それって例のスペツナズか…?」



御見内「ならここに残ってるものだけでも今すぐ処分しよう 隊長 救出作業はみんなにまかせてすぐにでもここのラボを破壊しましょう」



野々宮「えぇ そうですね ここの破壊の方が優先です 分かりました 今指揮車に報告しときます」



柊「カット終わったよ」



臼井「柊 そいつをすぐに殺処分しろ」



柊「え?」



臼井「私達もちゃんと連れてってくれるんだろうな?」



御見内「あぁ」



臼井「妻も助けてくれるんだろうな?」



御見内「あぁ 約束する だからラボ破壊に協力しろ」



臼井「分かった 協力しよう」



野々宮がインカムを手にし、報告を入れようとした



その時だ



ウィィィィー



前方のドアが開かれ



2人の男が入って来た。



「なんだ そこで何をしている?」



臼井「ま…益良(ますら)教授…」



益良「そこの2人は何者だ? 説明しろ臼井」



柊「若竹さん…」



インカムの手を止めた野々宮



御見内も突如現れた2人に視線を向けた。

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