第94話 願事

翌日 レジスタンスのアジト



屋上を歩く御見内、エレナ、ZACTの隊長麻島の3人



エレナ「てっきり純やさん達が来てくれるもんだと思ってたんですけどね」



麻島「なにぶん急な要請でしたし 最前線で奮闘してまして…彼等は抜けられない為 代わりに私共が…」



御見内「あいつら元気ですか?」



麻島「はい 早くも頭角を現したようで今や殲滅隊には欠かせぬ存在です 特にあの江藤さんには驚かされますよ… あの背中から生えた触手もさる事ながら人間離れしたスピードとパワーで果敢にも群れの中に1人で突っ込んで行きますから 一騎当千とは彼の事ですね」



エレナ「へぇ~ すご~い」



御見内「あいつはハイブリッドだからな…感染の恐怖も無いから無茶も出来る」



麻島「話しは常々伺ってます 御二方があの高速道の侵攻を食い止めた張本人なんですって?」



御見内「高速道の侵攻?」



麻島「その要因の大元を御二方が断ったのだと岩渕さんや純やさんからお伺いしてます」



エレナ「それは少々大袈裟です 私達2人だけじゃないですから あそこにいたみんなの力があったからこそ成し得たんです」



麻島「そうなんですか… ですがあの侵攻を食い止めるなんてよっぽどです その立役者にお会い出来るなんて光栄の極みです」



エレナ「そんなのやめて下さい 私達はそんな別に…」



麻島「いえ それによって多くの隊員の命が救われたのは事実です 今回の作戦計画 恩を返すつもりで全力でやらせて頂きますので 必ずや成功させましょう」



エレナ「あ…いえ…」



御見内「宜しくお願い致します」



すると



「ザァー 隊長今どこにいますか?ザァ」



トランシーバーが鳴り



麻島「屋上だがどうした?」



「ザア 1階に来て下さい ザァ」



麻島「分かった すぐ向かう」



麻島「ではっ ちょっと呼ばれたのでここで失礼します」



御見内とエレナが会釈し、麻島が屋上をあとにした。



手すりにもたれながら景色を眺めるエレナ



エレナ「今日はポカポカでいいお天気だね~」 



御見内「あぁ」



エレナ「静かでのどかで田舎町って感じだね」



御見内「そうだな」



エレナ「これからすっごく忙しくなりそうね」



御見内「あぁ」



エレナ「血が流れちゃうんだよね」



御見内「え? あぁ もしかしたらこの作戦で死人が出るかもしれない」



エレナ「私それだけは嫌だな… 仲間の死ぬ所見るなんてもう懲り懲りだよ」



御見内「それは同感だ」



エレナ「なら止めようよ」



御見内「え?」



エレナ「今止めれば傷つく事はなくなるじゃない こっちからあえて危険な場所に行かなくてもいいじゃない」



御見内「何言い出すんだ?」



エレナ「作戦を実行しなければ血は流れないんだよ だから…」



御見内「いや 遅かれ早かれ… 形が違えど、この争いは続く 終わらないよ 傷つきたくなければもうこの土地から離れるしかない」



エレナ「ならいっそ離れちゃおうよ」



御見内「そうゆう訳にはいかない」



エレナ「悲惨な現場を見ちゃったのは分かるよ でもさぁ…」



会話を詰まらせたエレナの隣りについた御見内



御見内「でもなんだ?」



エレナ「今回はゾンビの巣じゃない 相手は人間の巣だよ… 知恵のある人間の巣 人間対人間じゃゾンビの様にはいかないかも 鉄砲だって持ってるし殴られたら簡単に死んじゃうような怖い武器だって持ってる」



御見内「…」



エレナ「囚われてる人達には申し訳ないけど 今 道がこの計画を中止すれば犠牲者を出さずにすむ」



御見内「エレナ…」



エレナ「今回はあまりにも危険過ぎるの… だから止めよう」



御見内「あの悲惨な状況を目の当たりにしてしまった以上 もう見捨てられない… 拷問による人の悲鳴が延々と続き耳から離れないんだ 人が精肉工場にぶら下げられた肉のように吊されてて、目に焼きついてるんだ 身体の自由を奪われ、逃げる事も出来ずに玩具として扱われてる少年達の姿が頭から離れないんだ それを見捨てろってのか?」



エレナ「分かるよ 勿論そんな事は分かってるよ でも…」



御見内「それにここのみんなだって とうにリスクも覚悟も決まってる筈だ 俺達がこの土地に来る前からこの争いは続いてるんだから… 俺達が今ここで躊躇すれば この先出遅れてもっと被害が拡大する恐れだってある 先手を打たないと」



エレナ「うん…」



御見内「大丈夫 今回はザクトの部隊だっている きっとうまく行くよ いや うまく行かせよう だからここはエレナにも覚悟を決めて欲しい」



エレナ「うん…」



御見内「それでこれを使って これはエレナが使った方がいい」



御見内が懐からハンドガンと弾倉を取り出し、エレナに手渡した。



エレナ「鉄砲…」



御見内「あぁ やっぱこれは俺よりも師匠が扱うべきだからね ある種御守りがわりだよ… エレナ!おまえがこいつとその腕でみんなを守れ」



エレナがマカロフとマガジンを受け取った。



エレナ「これで守る…?」



御見内「そうだ 俺が知ってる限りおまえのその射撃術にかなう奴なんていないよ それを人を殺(あや)める為だけに使うんじゃなく 襲いかかって来る町民の動きを止める為に使えばいいんだ」 



エレナ「動きを止める? それ手足をって事ね」



御見内「そうだ 手足を撃たれただけなら死にやしない 殺さず、反撃を与えず 向かって来る敵(町民)の攻撃力を不能にするんだ エレナはそのピカイチな技術で守勢に徹すればいいんだよ」



エレナ「言うよりも簡単じゃない すっごく難しい注文だね」



御見内「あぁ だけど俺にだって出来た…まぁ全員は無理だったけどね… でもエレナにならそれで全員を救えるかもしれない」



私なら救える…?



仲間も…敵である町民の人達も…



救える…   か…



御見内の言葉がエレナの胸に響き渡った。 



御見内「エレナのずば抜けた射撃レベルならそれは可能だと俺は思ってる」



みんなを死なせない様に私が守ればいい…か…



支援に徹する…か



御見内「みんなを救おう」



これがあれば…



私にならやれる…



エレナから急速に不安や迷いが払拭されていく



ちょっと得意なこれで…



やれる…



そうだよ… きっと私ならやれる…



そして エレナから不安や迷いが消えていった。



エレナ「道 ごめんね 私が不安がってちゃ駄目だったね…ついつい弱気になっちゃった」



御見内「そうなるのは当然だよ」



エレナ「もう大丈夫 私は私のやれる事をやってみるよ」



御見内「その意気だ 決行時は本調子で頼むぞ」



エレナ「うん…頑張る」



笑顔が戻ったエレナがマガジンを向けながら口にした。



エレナ「ねぇ 道さん でもこれだけじゃあ全然弾は足りないよぉ」



御見内「あぁ 勿論分かってる 麻島さんに言って当日はアサルトライフルを用意させよう 89がいい? それともサブ系? もしサブ系なら確かMPシリーズが何品かあると思うんだ」



エレナ「種類は何だっていいよ」



御見内「そっか 分かった 聞いてみる じゃあそれはいざという時の為に持っててくれ」



エレナ「御守りがわりでしょ?」



御見内「あぁ 物騒な御守りだけどね」



エレナ「ねぇ 今日は何かあるの?」



御見内「え? いや特にはないかな…」



エレナ「こんな御守り嫌よ どうせなら本物がいい 特に何もないなら本物の御守りを取りに行こうよ」



御見内「本物?そんなの何処に?」



エレナ「神社に決まってんじゃん 貰いに行こうよ 成功するように願掛けも兼ねてさ」



御見内「あぁ うん それはいいかも オーケー いいよ じゃあ後…」



エレナ「今すぐ」



御見内の手を握り締め、手を引くエレナ



エレナ「善は急げよ さぁ行きましょ」



御見内「ちょっとそれ違くないか?」



エレナ「違く無い そら行くよ」



エレナに引っ張られながら連れ出された。



それから2人は近くの神社へと行き



今では何の価値も無い小銭を賽銭箱へと放り込み、手を合わせた。



そして 無人と化す授与所(売店)に吊された御守りを手に取り



紙クズな千円札を置いたエレナ



御見内「金なんて…」



エレナ「いいの こうゆうのが大事なんだから… えっへへ ゲットしたね」



御守りを手にし、嬉しそうなエレナ



するとエレナは急に立ち止まり、御守りを握り締め胸に当てるや目を瞑った。



エレナ「はい 今作戦が無事に成功するようにと道が無事でありますようにって願いを吹き込んでおいたからそれと交換」



すると御見内もエレナを真似



願いを御守りへと吹き込んだ



御見内「俺も吹き込んだ」



エレナ「フフ ありがと じゃあ交換ね」



そして互いの御守りを交換し合い



エレナ「それなくしちゃ駄目だからね」



御見内「首から掛けとこう じゃあ後で紐つけよう」



エレナ「うん そだね」



2人は神社を後にした。

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