第49話 予言

メサイヤ「あぁ いいだろう」



すると片付けの手を止めたメサイヤがキャスター(車輪)付きのボードを引っ張り出しペンを走らせた。



メサイヤ「拠点となる施設は全部で3箇所 まずここがサンクチュアリーと呼ばれる監禁と洗脳の間だ」



御見内も手を止め、メサイヤの説明を耳にした。



メサイヤ「とっ捕まえて来た人間をここで監禁し恐怖でマインドコントロール、北九州監禁事件を見本にした洗脳法で反抗心や決断力、団結力を削ぎ取り…肉体的に追いつめる そして2つ目の拠点がここから南東に約6キロ…」



メサイヤがボードに簡単な地図を描いていく



メサイヤ「…先にある廃墟 下水処理場 ここがコーキュートスと呼ばれている施設 ここでは拷問やら解体、実験、バスタードの製造といった酷い事が日常に行われている ここが拷問やら解体場やらラボとして使用されているいわば地獄だな… その製造したバスタードもここで保管されてるって聞いた事あるが実際に俺も行った事がないから詳しくは分からん まぁ行きたくも無いがな ここは監禁され廃人となった人間を遊び道具に使ってるマジ恐ろしい場所だ」



御見内「なるほど ここは俺が最も潰したい場所だな 人をモルモットに…許せん… ここを仕切ってるのは誰だ?」



メサイヤ「拷問、解体の場所は冴子さんとマルオ、マルモっていう…」



御見内「ブタみたいな巨漢の双子か…」



メサイヤ「知ってるのか?」



御見内「少しばかり情報は入ってる…実験場は?」



メサイヤ「そこは代表ともう1人 教授と呼ばれている益良(ますら)という外科医… 医者だよ」



御見内「なるほど」



メサイヤ「そして3つ目がそこから5キロ程東へ進んだ所に位置する廃棄物処理場 通称サタナキアと呼ばれている儀式の間がある…ここは誰しも何かしらの任務にあたる際に立ち寄り、ここで魔の加護の施しを受けたり、サバト、黒ミサなど悪魔崇拝の儀もとりおこなわれたりしてる…闇、魔、悪…負 そんなバリアーに覆われてるんじゃないかと思えるくらい邪念が立ち込める嫌な感じがする場所だ あそこはいつ訪れても寒気がしてくる」



ペンを置き、ボードを仕舞うメサイヤに



御見内「もう一カ所あるだろ」



メサイヤ「もう一カ所?いや施設はこの3箇所だけだが…」



御見内「ある雑魚を絞りあげた時 全部で4箇所あるって吐いたんだがな」



メサイヤ「もしかして屋敷の事かな…あるがそこは…」



御見内「そこは何だ?」



メサイヤ「施設ではないがな…そこは代表が住んでる豪邸だ… さっき入って来た奴が話してたろ…熊に襲撃されたっていう例の屋敷だよ」



御見内「それは何処にある?」



メサイヤ「分からん そこを知ってるのは一部の者だけだ」



御見内「そうか…貴重な情報確かにインプットした じゃあ次に頼…」



その時だ



再び扉が開かれた。



突如薄汚い格好の町民が1人中へと入って来た。



フードの陰から視線を向けた御見内の瞳孔が目視した途端開けた。



この男…



次いで1人の黒フードも部屋へと入って来た。



メサイヤ「なんだ?」



森で鉢合わせた…あの時の町民…



「この奴隷が侵入者が入ったとかほざきやがってよ~ 今探してんだよ おい雑魚奴隷 顔ハッキリ見たんだろその隣りの奴か調べろ」



メサイヤ「いや こいつは違う…」



「侵入されたとか上の耳に入ったら俺達みんな人形送りにされかねないし 一応館内虱潰しに探してるから 念の為確認させて貰う おい さっさとチェックしやがれカス」



ジリジリ歩み寄り顔を覗かせた町民



御見内は咄嗟に顔を俯かせ



メサイヤは生唾を飲み込んだ



バレる…



「どうしたそこの…フードを取って顔を見せろ」



顔を見られれば確実にバレる…



御見内がフードへと手を掛けた時



覗き込むその町民と目を合わせた



「どうだ?クソったれ そいつか?」



町民の目がはじけんばかりに開かれ



正体がバレた



そして町民が振り返り、口を開こうとした



その矢先



グサリ…



町民のこめかみに小槍が刺し込まれていた。



っと同時に フードを剥いだ御見内は素早く町民のこめかみから小槍を抜き出し



投げ槍の姿勢で小槍を構えていた。



「っ…テメー しん…」



そして…



シュ    グサッ



額に命中



小槍が深々と突き刺さり、黒フードは一瞬にして白目を剥いた。



すると



「おい おまえ等…何してんだ…」



声のする先には



入口にはさっきの黒フードの姿があった。



タイミング悪く戻ってきたこいつに運悪く決定的瞬間を目撃されてしまった。



両手で抱える箱を落とし、クルッと体躯を回し、逃げようとする黒フードのフードが…



鷲掴みにされた。



そして



中へと引きずり込まれ…



扉が閉められた。



箱は落下し、中からキリル文字の新聞紙に包まれたある物が散乱



弾丸らしき物も辺りに散らばった。



咄嗟に引きずり込んでいたのはメサイヤ



それから黒フードを仰向けに引きずり倒し、口を手で押さえ込むや



胸部に跨がり



暗器



プッシュダガーナイフを取り出していた。



そして首に一刺し



「んぐぐぐぐぐ」



そのまま横一線に頸動脈を切り裂いていく



黒フードの口は急速に静まり、目を見開いたまま死滅した。



勝手に身体が反応してしまったかのようで…



メサイヤは自分でも予期せぬ行動をとった事に顔面を蒼白させている。



息絶える仲間を見下ろしながら立ち上がったメサイヤが御見内を目にした。



御見内「おまえ… やる男だな…」



メサイヤ「やべぇ やっちまった 不幸の始まりだ…つくづくおまえに関わった事を後悔するわ」



床に転がる3体の死体を見下ろし



御見内「そうだな 宜しく頼むぜ 1人より2人…楽しくなりそうだ」



御見内が床に散らばるある物を拾い上げ、新聞紙をめくった



中から現れたのはロシア製ハンドガン マカロフ



御見内「ほれ」



それをメサイヤへと投げ渡し、次いで既に詰められたマガジンや箱詰めされた9mmマカロフ弾をポイポイと投げ渡していった。



メサイヤ「お…おい 一気に投げるな それと楽しいだ?ふざけんな 俺まで命狙われる羽目になったんだぞ」



ガシャ



弾倉が装填され、マカロフを手にした御見内がニンマリと笑みを浮かべた。



ガシャ



メサイヤもマガジンを嵌め込み、マカロフ身構えた。



御見内「さぁ こいつらが甦る前に行こう 頼りにしてるぜ……相棒」



メサイヤと呼ばれる男を仲間に加え



御見内は組織の奥へと潜り込んで行く



診断室の扉が開かれ、廊下へ飛び出した御見内とメサイヤ



メサイヤが小声で発した。



メサイヤ「こっちだ ついて来い」



深々とフードを被り、雑然とする廊下を通り抜けて行く2人



「シュ~~ セイ」



廊下の真ん中では上段回し蹴りを側頭部に受けた町民が2人の前で崩れた



「ハハハハ ジャストミート おら すぐ立てぇ ストレス解消機」



無抵抗でリンチを受け続ける町民の顔は腫れ上がり、両目は完全に塞がっている…



命令されるがままにヨロヨロ立ち上がる町民に



黒フード野郎が再び蹴りの態勢をとった。



「おらぁ もう一発だ さっさと立てぇ」



クズ野郎が…



思わず立ち止まった御見内…だが、すぐに腕が掴まれ、引っ張られた。



バコッ



回し蹴りのクリーンヒットを受けた町民は壁に激突し、倒される



メサイヤ「よせ かまうな…つ~かおまえ…どさくさに紛れて奴隷1人殺ってんだからな あいつらの事とやかく言えねぇぞ」



確かにそうだ…



理由はどうあれ町民を1人殺(あや)めてしまった…



メサイヤ「ハサウェイ 全て俺が段取るからおまえは何もするな いいな?」



廃人にされた罪無き彼を…



メサイヤ「聞いてるのか?おまえ」



御見内「あ あぁ」



メサイヤ「ぼぉーとしてんな 全て俺がやるからおまえは余計な事するなよ いいか?」



御見内「わかった」



メサイヤ「よし まずはここから出るぞ 堂々としとけ」



2人は玄関から堂々と外に飛び出した。



物騒な凶器を持ち、警備する町民等の間を儼乎(げんこ)たる足取りで通過、駐車場へと足を運んで行く。



御見内「どうするんだ?」



メサイヤ「あそこの車を拝借する」



駐車場を見回り、徘徊する町民達、1人は草刈り機、1人はバチバチ火花を散らす強力そうなスタン棒を手にうろついている。



セダン、バン、軽トラ、SUV



色んな車種が並ぶ駐車場を物色するメサイヤが怪しまれる事も無く適当にセレクトしたのは黒のSUV



メサイヤ「これ 使うぞ」



うろつく1人の町民に声を掛け、ドアを開けるや



メサイヤ「乗れ」



2人は素早くSUVに乗り込み、メサイヤがハンドルを握り、エンジン始動



車を走らせた。



御見内「案外 簡単なんだな」



メサイヤ「この纏いがあればな だがこいつを少しでも脱いでみろ 奴等(奴隷)すぐにゾンビみたいに襲いかかって来るからな 気をつけろよ」



車が一旦門扉の前で停車



大型伸縮スライド門扉が町民によって開かれた。



御見内「この人達の思考は一切無いのか?」



メサイヤ「あぁ 洗脳だよ 纏いの言いなりになるよう完璧廃人にされちまってる ああなっちまったら真人間を襲うって面ではゾンビとたいして変わらないな」



そして車は国道へと走り出した。



御見内は振り返り、廃病院を目にしながら口にした。



御見内「これから何処へ行くんだ?」



メサイヤ「決まってんだろ おまえのお望みの場所だよ 半田って奴を探すんだろ?居るとすればもうあそこしかない…まぁ 本人が生きてればの話しだけどな」



御見内「コーキュートスって所か…」



拷問、殺害、解体、実験、製造が行われてる場所…



メサイヤ「実際俺も行った事無い場所だ…身震いしちまうぜ」



御見内「楽しみだな」



メサイヤ「楽しみだぁ?いいかぁ~ 言っとっけどさっきの場所とは比べもんになんねぇ程ヤベェー所だかんな… 死臭が衣服に染み付いて一週間は取れないって聞いた事ある  俺の命もかかってるんだからヘタこくなよ」



御見内「あぁ分かってるよ だけどこんなにも早くこの凶事の重要拠点に行けるんだからな ここを潰せば尊き犠牲者が減る」



メサイヤ「そんな甘い所じゃねぇよ 」



メサイヤがラジオのボタンをいじり始めチューニングするのだが



ザーザーザザザー



聞こえてくるのは当たり前のように雑音ばかり



メサイヤ「はぁー っぱし今更生き残ってるラジオ局なんかある訳ないか…」



綺麗な紅葉の木が永遠続く林道の景色を車の窓から眺める御見内がふと疑問を抱き、ボソッと口にした。



御見内「なぁー 1つ聞いていいか?」



メサイヤ「あぁ?なんだ?」



御見内「なんでおまえみたいな良識ある奴がこんなイカレた団体にいるんだ?」



メサイヤ「良識ある?俺が良識あるってか?ハハ おまえ面白い事言うやつだな 良識なんか欠片もねぇーよ俺は」



御見内「何故山吹なんかについてる?」



すると メサイヤがある携帯を取り出し、何やら操作するとそれを御見内に手渡した。



メサイヤ「それ見てみろ」



御見内が携帯を目にすると画面にある動画が流れ始めた。



その画面にはあの山吹の姿が映され、何やら喋り始めた。



山吹「これを視聴する全ての者に警告する…これから今まで経験した事の無い天災が降りかかるだろう…それは今まで味わった事ないどんな恐怖よりも恐怖な厄災…これから起こるその災事により多くの人々が死ぬ事になる…」



そして動画はここで終了した。



メサイヤ「まだ続きがある 次にクリックしてみろ」



御見内がクリックボタンを押すと続きの動画が流れ始めた。



山吹「…これから人間の死した身が動き始める事だろう…そして人同士の共食いが行われる事だろう…それにより社会、道徳、常識、繁栄、今まで築き上げてきた何もかもが音を立てて崩れ落ちるだろう 人の創造した何もかもが滅びてゆく事になるだろう… 人類の存続は絶たれ 人類は終局の道を進む事になるだろう… その警笛が今鳴っている それはもう間近まで迫っている…」



御見内「なんだこれ?」



メサイヤ「代表の予言動画だよ」



御見内「予言?」



メサイヤ「それは一番初めに奴等が現れた日よりも20日前にアップされ、世に流された動画なんだ…まぁ まだ幾つか続きがあるからとりあえず全部見てみろ」



御見内がクリックボタンを押すと切り替わる新たな映像が流れ出した。



山吹「災いの名を敢えて皆の知る呼称で言うなら…それはゾンビ……そう これからそのゾンビがこの世に現れるだろう ゾンビが街を闊歩し、ゾンビが爆発的に数を増大させ、私達人間に襲いかかって来るだろう 今まで多くの種を絶滅させた報い…今度は己の種を己の手で絶滅し合う そんな救い無き惨事が訪れるだろう」



食入るように目にする御見内が画面をクリックしていく



山吹「これは私からの予言だ これから起こるこの絶望を暗示する…だが これを視聴した者には1つだけ救いの道がある 私はこれを通じ1人でも多くの人をその道に導けたらと思いこれを放送している 疑いを捨て、耳を傾けよ さすればこれから皆をその道へと導いてしんぜる」



再度クリックされた



山吹「これから伝えるのは悪魔共を屈服したと言われるレメゲトンに記述されたあるスペルである これからそれを皆に伝えよう これはソロモン王が使役したと言われる72匹の大悪魔 そのソロモン72柱をおさめた最大級の魔の護言であり 魔は魔の加護により守られると言われている とても強力な魔法の呪文である それを今から皆に伝授する」



続けてクリックされ



山吹「まずこのスペルは正確に唱えて頂きたい…ではゆっくりと唱えよう ロッサムバリィシィー・キャスタムハーベイ・ロイ・メクリィーパスラム・ボルボス・マク・バイ・バクリーム・ボヘロク・ボヘマイクラフメンバクマルフ・メリファーピスタル・ララ・トールド・トーマイン・ララクラフティー・ジェ・ペスタ…」



画面隅には○に六芒星(ヘキサグラム)の図、周囲に古代のヘブライ文字らしきものが表示され、魔法陣らしきものが表示された。

 


山吹「……そしてこのスペルを唱えながら画面に表示された魔法陣を自分を囲むように描いていく ただし忠告するが これは非常に強力な魔力を秘めた儀方であり…手順を誤れば自らの命が奪われる危険なソーサリーでもある その為儀方には正確な手順でおこなって頂く必要がある…」



御見内「何なんだこれは?」



メサイヤ「いいから最後まで見てみろ」



山吹「…手順通りこれを行えば汝等の命は救われるだろう… 疑心を捨て、実行すればこれから訪れる災いから必ずや逃れる事が出来るだろう… 私がこの場でそれを確約する…ゾンビ出現まで後20日…生き残りたければ魔に身も心も委ね、この儀式を執り行え」



御見内「これがSNSに?これがどうした?」



メサイヤ「俺はこの動画を信じ、儀式を実行した者の1人だ…」



御見内「こんなのを信じた言うのか?インチキに決まってる」



メサイヤ「そうか?なら予言はどうだ…これは間違いなくゾンビパニックになる前に投稿された動画なんだ それは現実に起こった 代表はゾンビ出現を的中させてるんだ… 代表の予言は見事に当たってるんだよ」



御見内「だからこの儀式を行った為に救われたと?そう信じているのか?」



メサイヤ「あぁ そうだ そう信じてる…それでこれだ 最後にもう一度クリックしてみろ それはパニックが起こってから20日後に投稿された動画だ」



御見内が画面をクリックすると



山吹「私の予言通りに厄災は訪れた ゾンビ共に脅える日々が始まった。これを視聴する皆に告ぐ 私は死人を操る力を持った………ネクロマンサーだ 汝等に救いの手を差し伸べてしんぜよう 私の元へと集えよ」

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