十二話『精霊さんは、性別が自由です』

 レンさんの家に着いてから、僕が夕食を作った。

 レンさんと幼女――ルーナは食欲が無かったみたいだけど、ミートスパゲティの匂いに釣られた様子。食べないのは良くないからね。


 その後は、ルーナとソフィーがお風呂に向かった。

 その次はリアとシルク。


 で、最後に入った僕達が何を話しているのかと言うと、


「ルーナは、俺達の娘じゃないんだ」


「……赤ん坊を拾ったって事ですか?」


 同じような経験を持つリアを思い浮かべながら聞くが、レンさんは首を横に振る。


「いや、見つけたのは一年前だ。頑なに話したがらないから無理には聞かなかったが、最初の服装からして貴族の可能性が高いだろうな」


「なるほど……」


 じゃあ、どうして『ママ』と呼びながら泣いてたんだ……? 来る前の事がトラウマにでもなってるとか……


 下級貴族なら話せないほどじゃないはず。上級貴族なら、話した時点で色々と不味いのかもしれないけど。

 ………ああ、何となく分かったかもしれない。


「ルーナの髪と瞳は赤、で合ってましたっけ?」


「そうだが、どうかしたのか?」


「いえ、少し気になっただけです」


 少しではないけど、今ここで話しても仕方の無い事だからね。


 ルーナがどんな子なのか、三人でどんな風に過ごしたのか、なんて事を聞いている内に、レンさんは泣き始める。


 ……ここは、静かに風呂場から出ていこう。



 皆の所に行くと、赤い顔をしたシルクに抱きつかれた。


「ごしゅじんさまぁ……」


「……シルク、酔ってる?」


「シルクー、酔ってな〜い!」


 あ、酔ってる。

 ソフィーが飲むみたいだから出したんだけど、シルクも飲んじゃったらしい。……まあ、コップ半分程度なんだけど。


「とりあえず離して」


「チューしてくれたらいいよ?」


 全く、これだから酔っ払いは……ルーナも居るんだから、そんなことをする訳がないじゃないか。


 とはいえ、離れてくれそうにもないので、椅子に座って膝の上に乗せる。


「で、ルーナちゃん。僕達に話したいことがあるんだよね?」


「え? ど、どうして?」


「どうしてって……起きてからチラチラ見てくるし、ずっと真剣な顔してるからだけど」


「うぐっ……じゃ、じゃあ、聞いてくれる?」


「うん、勿論」


「……えっと、私は――」






 次の日の朝、レンさんにお礼を言って街を出た。

 街の人達は黒コートの仮面勇者を探しているようだけど、そんなことは知らない。


「今日中に王都まで行けそうだね」


「お、お兄ちゃん! これ速すぎるよ!?」


「それは我慢してもらうしかないかなぁ」


 このお兄ちゃんと呼ぶ人物は誰か?


 ……ルーナである。


 何故着いてきたのかといえば、実の親――父親に会いたいからであり、僕達はそのための護衛。

 まあ、他にも頼まれているのだが。


「外見たくないぃ……」


「そんなに怖い?」


「怖い!」


 シルクとかは、僕の横で楽しそうにしてるけどね。リアは膝の間に座って読書してるし、ソフィーは……なんか、ステータスを見てしょぼんとしてる。


「マスター、私のレベルがぁ〜下がってるみたいなのですよぅ……」


「あー、まあ、昨日説明した通り、低い方が伸び代もあるからいいんじゃない?」


「そうなのですけどぉ、これじゃあマスターを守ってあげるどころかぁ、足でまといにならないですかぁ〜?」


「大丈夫、シルクがご主人様を守るから」


 そういう問題じゃないと思う。というか、守られないといけないほど弱くないよ?


 ソフィーを説得するなら……


「僕に守られるのは、嫌?」


「……それはぁーー嬉しいのですよっ!」


 思ったより、チョロい。

 考えてみたらありだったって感じかな。めっちゃ嬉しそう。……まあ、喜ばれてるならいっか。


 それにしても、呪いのせいでレベルが下がるっていうのはウザ過ぎる。幸い、スキルはそのままらしいから……あれ? スキルポイントも増えるし、別に悪いことばかりでもないんじゃ?


「ソフィーと同じ呪い、かけて欲しいな……」


「「……え?」」


「え?」


「ご、ご主人様、女の子になりたいの……?」


「女の子になるのはぁ出来もなくもないのですけどぉ……」


「違う違う! レベルの方だって!」


 リア? なんでちょっと残念そうにしてるのかな? 本を読んでるふりしても、バレバレだからね。

 だって、思考そのものが伝わってきてるし。


 ……さっき、 『出来なくもない』って言ってなかった?


「……ソフィー、出来るの?」


「私には無理だと思うのですけど〜、ほぼ精霊になっているマスターならぁ出来ると思うのですよぉ〜?」


「へ、へー……リア、やらないからね?」


「ど、どうしてですか!?」


「いや、だって……」


「……だって?」


 言葉を濁す僕に、シルクがそう聞いてくる。躊躇うように目を泳がせてから、ルーナに聞こえないように言う。


「リアってさ、僕が女の子になった時の事とか考えてたりするんだよね」


「そうなの?」


「し、時雨さま、それ以上は――」


「で、エッチな方に話が進む。例えば、僕をベッドに縛り付けてから―――したりとか」


 シルクとソフィーが少し距離をとった。大丈夫大丈夫、対象は僕の女体化だけだから。


「リアちゃんってばぁ、意外と大胆なのですねぇ〜?」


「シルクも狙われる……?」


「ち、違いますよ! 時雨さまだけですから!」


「僕相手でも、縛り付けるのはちょっと……」


 そんなSっぽいリアは見たく……んん? 見たいかも? ほんの少しだけ、興味が出てきた。かと言って、あれをされるのは勇気がいるなぁ。


 ……勇者たる者、これくらいで怖気付いちゃだめだよね!


「まあ、それは置いといて……どうやるの?」


「認識の問題なのでぇー、自分は女の子だぁーって強く念じればいいのですよぉ」


「えー……そんな簡単な事かなぁ……?」


 試しにちょっとやってみよう。

 目を閉じて、僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子、僕は女の子、僕は――――


「きゃ――って、し、時雨さまぁ!?」


「な、何? ……その人、誰?」


「え? 何言って……」


 自分の体を見下ろすと、結構膨らんだ胸が映る。何故か、服が落ちそうになっているし、全体的に細くなったような?

 声だってヘリウムガスを吸ったみたいに高く――いい加減認めよう。僕は女の子になっている。


「ふぁぁ……想像してたのより良いです!」


「ご主人様が、女の子……すごく可愛い」


「すぐに出来るとは思わなかったのですよ〜」


「もしかして、お兄ちゃんなの? え、じゃあ、お姉ちゃんって呼ぶべき?」


「中身は僕! 完全に男だからね!」


 リアの頭の位置を考えると、今の僕は160cm無いくらいかな……ソフィーと少ししか変わらない。


 その後は少し検証してみた。


「別人にはなれないけど、歳は変えられるみたいだね」


「ということはぁ、老いもしないのですねぇ……」


「ソフィー、膝に乗せようとするのはどうしてかな?」


「いえ〜、あんまり可愛らしいのでぇー」


 七歳相当になった僕を抱っこしようとする。

 せめてルーナが居ない所だったら……良いって言ってたかもしれない。今は抵抗するけど。


「わたしも、ダメですか?」


「うーん……まあ、リアはいいよ」


「あらあら〜?」


 ごめんねソフィー、リアに甘くなるのは仕方ない事なんだ。


「えへへ……時雨さま可愛い……」


 その辺の人に聞いたら、100人中100人、リアの方が可愛いって言うと思う。若干だらしなく緩んだ顔も可愛いし、太ももの感触も最高だし、胸部の小さな膨らみもちゃんと柔らかいし……


 とりあえず、リアは最強で最高に可愛い!


 ……なんでリアは恥ずかしそうにしてるのかな?


「……まさかだけど、口に出てた?」


「だ、だいじょーぶです、最後だけですからっ!」


「まじかぁ……」


 全然大丈夫じゃない。物凄く恥ずかしいです、ハイ。

 リアは離してくれないし、何もすることが出来ないって事で、スキルを確認することにした。


 まず、『奴隷溺愛』。読み方的には、スレイブ・アフェクションって言うらしい。


 効果は、『ステータス強化』の効果が愛情によって上昇する。ただし、奴隷のみ(自分の奴隷である必要は無い)となる。


『リア・ステファノス 0.7+1.4』


『シルク 1.2+0.5』


『ソフィー・セルエトラ 0.9+0.3』


 本質的には加護みたいなものらしいけど、本人達には見せられない内容だ、絶対に。

 だって、誰が一番だとか一発で分かるじゃん。リアはこれ知ってるんだよね。……まあ、いつ見ても一番に決まってるけど。むしろ、一番じゃなくなるところが想像出来ない。


 今も、ぶっちぎりで1位ですよ、ええ。


 さてお次は、


『魂の共鳴』


 読み方は、ソウル・レゾナンス。そのまま読んでもかっこいいけど。

 これを使えば、任意のステータス二つをリアに貸し出せる。同時に、リアからも僕に貸し出す事が可能。


 貸し出すとは言っても自分のステータスはそのままなため、チートと言えるだろう。


 一応、一日一時間という制限はある。


 後は……他の人ともできるようになれば……


 ………おや?


「なんか感触が――って、なんでソフィーが!?」


「えへへ〜、マスターが集中してるみたいなのでぇー、こっそり変わってもらいましたぁ〜♪」


「……もう好きにして」






 ……この後、ローテーションで抱っこされた。

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